現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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天音ちゃんが見せる表情は、普段から何処か暖簾や簾一枚を挟んだような顔をしている。

薄皮や仮面よりも分厚く、けれど覗かせる様々な部品から想像させるような色合いの顔。

 

本当の意味での心、考えている本心。

 

そこに秘めているのは、常に暗い感情。

深くそんな想いが根を張っているのに気付いているのは――――多分。

東雲先輩や恵先輩……俺を含めて、小鳥遊も含めるなら五人。

自分の内側に囲っても良いと、半ば無意識に思っている面々のみ。

 

そして。

それ自体に当人が気付いていないから、ずっとずっと悩み続けているのだろう。

 

「やり方を変えて、全てを取れば良い」

 

そんな顔を絶対に見せない唯一の相手が店主(マスター)。

その二つの顔を知り、彼女の事情を理解する俺。

東雲先輩でさえも知らない部分を含む過去と彼女の抱く感情。

 

だから、それを指摘できるのは俺くらいしかいなかった。

彼女自身で気付けないというのなら。

導いてやる以外の選択肢は何もなかった。

 

『……どういうことですか?』

「どうもこうもないよ」

 

正しい声ではなく、吐き出す息に合わせるような囁き声で。

悩む、疑問を抱いている事自体がおかしい事に気付かない彼女へと指摘する。

 

「そもそもこういう選択肢を取った以上、俺達は先に進む以外の選択肢はない」

 

探索者である以上は、足を止める選択肢はない。

足踏みをすることはあっても、先(・)に(・)進(・)ま(・)な(・)い(・)という行動は禁じられた時を除けば決して無い。

 

半ば本能にも近い行動であるのと同時。

目立つ行動を選んでしまった以上は、潰されないように力を付け続けるしかない。

 

「小鳥遊も天音ちゃんも……そうしたいって言うなら、もっと上の会社に所属する事だって出来た筈だ。

 そうしなかったのは――彼奴は分からんが――天音ちゃんは単純な理由だろ?」

『…………はい』

 

彼女の場合は……他人を信用したくない、という感情から来ている。

より正しく言うならば人(・)間(・)不(・)信(・)。

 

普段覆っている簾越しの表情は、相手のことを一方的に見定めるためのものでもある。

先輩方の商品を売る不定休の古びた商店の看板娘としても働く彼女は、そうして人を見ている。

もし、彼女の目から落第(ダメ)だと判断されれば。

例え相手がどんなに金を持っていようが、二度と出入りすることさえ許されなくなる。

 

それ程に人を嫌う彼女だ。

俺達の周りを選んだのは、半ば必然だったのだろう。

 

「なら、やるべきことは単純だ。

 君の復讐相手よりも上の立場になって、君の思う通りにすれば良い」

 

そもそも、何に対してそうしたいのかが分からない。

だから一旦、その相手を『ヒト』と定義した。

 

今、その行動を選べる程に自由はない。

寧ろ目を付けられ、一方的に押し潰されるだけの小娘という立場に過ぎない。

 

なら、どうすればいいか。

単純な話。決して潰されない立ち位置を作り出せば良い。

 

それは、今こうして『迷宮』に潜る理由とも重なる。

 

最深階という新たな記録を作り出せれば。

採取した物品を売り捌く会社を設立すれば。

自らが能力を鍛え続ければ。

 

名誉、金銭、力。

大きく言えば介入できる三つの手法全てで上を取る。

そうしてしまえば……相手は嘗ての彼女と同(・)じ(・)立(・)場(・)に(・)成(・)り(・)下(・)が(・)る(・)。

 

それを相手が受け入れるか、調子に乗るかは分からないが。

隠せないようにしてしまえば必ず勝利できる。

 

それが今の世界の現状で、それだけの力を持つ探索者の数其の物が国力に繋がるから。

 

「君が臭い飯なんて喰う必要ないよ、天音ちゃん」

 

直接手を下したいというのなら、俺はそれを止める気はない。

犯人は既に捕まり、獄(・)中(・)で(・)死(・)亡(・)しているという事は知っている。

 

消されたのか、狂ったのか、自分の意志なのか。

そんな事実さえも、もう知る由はない。

 

ただ。

そうしなければ生きていけないというのならば――――。

 

(もし、それなら……)

 

多分、俺は。

 

数十秒程の時間が過ぎ去った。

止まっていた呼吸が再び始まるような、吸って吐く深い音がした。

 

『私は』

「うん」

 

もう一度呼吸音。

 

『ただ、死んでほしくはありません』

「うん」

 

漏れ出たのは、黒い感情。

或いはずっと熟成し続けた怨念。

 

『――――後(・)悔(・)を、させたいのです』

 

今更謝って欲しいわけではない。

何故こうなったのか、こうしてしまったのか。

それを抱えながら、彼等のせいで家が消えることを理解させたい。

決して死なせずに、楽にさせること無く。

 

彼女は、無言でそんなことを語っていた。

 

「好きにすれば良いさ、天音ちゃんの家の話だろ?」

『センパイは……いえ、センパイも関わっていただくとは思いますが』

「前から言ってるだろ、好きに使ってくれ」

 

そう返した時、目の色が少しだけ鈍く光った気がした。

 

互いの利益になるから。

それ以上でも、以下でもない。

……その筈だ。

 

「後、そうするなら一つ教えて欲しいんだが」

『はい?』

 

敢えてその目からは意識を逸らして、一つ当たり前のことを聞く。

後悔させる。

その選択をするなら、大前提となる条件が一つ。

 

「その……なんだ、復讐で後悔させたい相手のことは知ってるんだよな?」

『当たり前じゃないですか』

 

そうだよな、それくらいは普通だよな。

 

『全(・)て(・)の(・)分(・)家(・)の名前と住所、登記辺りまでは記憶してます。

 後は誰が対象かですけど、一つ一つ潰せばいいだけですよね?』

 

うん、それは普通じゃねえわ。

唯でさえ彼方此方に家系が飛んでるって話だし執念って域を超えてる。

……いや違うな、この言い方だと当然って言ってんのか。

 

「それは……何?本家筋に求められるものだったりする?」

『そうですね』

 

こえーよ。

どんな小さいことでもずっと覚えたままな気がして、少しだけ震えが来た。




復讐はしたほうがスッキリするぜ!理論に基づく主人公スタイル。
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