「完璧に復活しました!」
起き上がるや否や全身の調子を確かめ、所々飛び跳ねた後にそんなことを宣った
軽く睡眠に入って六時間程は寝てたようなので、普通に爆睡してた判定でいいと思う。
後跳ねるのは良いが足を持ち上げるのはやめろ。位置が悪くて奥が見える。
「完璧って言うには寝過ぎだアホ」
「お腹空きました!」
「本能でしか話してないってこと無いよな?」
深く突っ込むべきなのか?
ぽつりぽつりと話をしていたから飽きることは無かったが、空腹なのは此方のほうが酷いんだが。
ほら、天音ちゃんも苦笑いしか浮かべられない。
「まぁ俺等も飯食ったら少し寝るが……動き出すのは実質九時頃になるのは覚悟しとけよ」
「え、そんなになります?」
「なる。俺と天音ちゃん交互で三時間ずつは寝るからな」
空間解錠。
既に取り出していたキャンプ用の鍋と五徳のセットの使い捨て燃料を取り替えつつ、半分だけ既に沸騰している湯を取り分けて。
残り半分に水を継ぎ足し、温度が下がった湯に米を突っ込む。
温めればそれで済むタイプの食事――別に温めなくても良いが――は後処理含めて楽でいい。
特に後々のこと考えればスープなり珈琲なり、温まるモノを飲んでおいたほうが体調管理上も安定する。経験上。
「えー……」
「お前が怪我しなきゃ六時くらいには動けたんだがな」
「うっ」
大げさにリアクションする必要もねえんだが。
怪我した時はそれを癒やす方が優先だし……まあ、お陰で使えない薬があるのは事実ではあるけど。
「ああ、そうだ一応教えてほしいんだが」
「なんです?あ、ありがとうございます」
手招きし、取り分けた一部の湯で入れたインスタントコーヒーをコップに入れて渡してやる。
ペットボトルでも持ち運んでいるが、眠気を消し飛ばすには温かい方が向いている。
単純に喉を潤しながら水分補給するなら冷たいので良いんだけどな。
「お前の平均睡眠時間と、
「……そうですねえ、一日だったら六か七、普段は短時間でも大丈夫ですけどー」
「ああいい、慣れるまではどうしても疲労出るから気にしてねえ」
まあ使っておいたほうが無難ではあるか。
「なら後で……寮、よりはビルのが良いかな。其処でこれ使って慣れておけ」
併せて渡しておくのは、天音ちゃんの分を含めて三本取り出した透明の液体が入った小瓶。
一口か二口で飲み干せる程の内容量しかない、けれど重量比で考えるとかなり高額な薬品。
「なんですこれ?」
「睡眠時間を
正しく言うなら
これを飲み続ける限り、最長で一週間程度は仮眠を取るだけで自身の精神が求める休息を取ったように感じられる睡眠薬。
独特の甘みがあるから混ぜられても気付けるし、そもそも眠り続ける訳では無い。
きちんと仮眠を取れば精神が落ち着くだけで、小さな振動……目覚めるような何かがあれば普通に目を覚ます。
代償に解除薬を飲んだ後で爆睡し続けることにはなるので、まあほぼ『迷宮』専用品みたいな感じ。
「……だったらこれ飲んでから私寝れば良かったんじゃないです?」
「お前のは肉体の治療だ、飲んでも怪我が治らねえんだから意味ねえんだよ」
だから怪我しなければ、と言った。
学生証か探索者としての資格証が無ければ購入制限がある、やや劇薬寄り。
そうでもしなければブラック企業が大量に呑ませて扱き使うからな……最初から想定されてんのどうなんだよ……。
『回復薬の効果もありますものね』
「だなー……」
本質的に『欠損を補填』する回復薬と、『細胞分裂の回数を回復』する回復薬は別物だ。
液体の回復薬を飲んだ後、落ち着いてからでも良いから丸薬を服用するのはそういう理由もある。
そして、其れ等が最も効果を発揮するのは精神と肉体を休息させている時……寝ている時。
常に丸薬飲んで寝ろ、なんて言えるわけがないがイカれきった一部はそんなことをして生き急ぐとかなんとか。
「むー」
「文句ばっか言っても仕方ねえだろ……いやその前にだ、小鳥遊」
この辺の薬剤効果まで詳しく知ってるのは資料を当たった探索者か薬草採取を任される人間くらい。
創作者?これが前提知識だから言うまでもない。
「はい」
「お前、二度は同じ失敗しねーよな?」
まあ、これだけ余裕があるなら。
頬を膨らませて文句を口にしている後輩に一言言っておくことにする。
「あ、はい。それはもう大丈夫です」
至極当然のことのように口にする相手に、冷や汗が一滴。
首を傾げているのは、その言葉自体に違和感がないからだろう。
「……覚えた、ってのは?」
「見えない刃の感覚……と言うか、なんとなく其処にあるなー、っていう感じ?
ちょっと口に出すの難しいです」
「お、おう」
風属性の亜種、特に狼は基本的に爪の一歩先に見えない刃を置き、延長した刃として使う。
要するに『爪の先に気をつけろ』と言ったつもりだったのだが。
何段かふっ飛ばして『そもそもあることが分かるかも』ってのはどうなんだおい。
『センパイ、ご飯大丈夫みたいです』
「あー……分かった、じゃあ肉焼くか」
何とも言えない沈黙を察してか、天音ちゃんが手元の用具を指差し告げる。
それに感謝しつつも、温め終わった容器を横に置き代わりに鍋を敷く。
半ば雑用、半ば趣味。
一旦集中して、意識を落ち着かせる。
「鳥と豚どっちが良い」
「豚!鳥は嫌です!いっぱい見たし!」
「あれとこれを一緒にすんのはやめような?此方のほうが安いからな?」
いやまあ、気分は分かるが。
丁寧に解体すれば高級肉として食えるのは分かっていても、即座にジビエみたく食いたいかって言われると悩む。
他に食料がないなら一も二もなく喰うけど。
「えー、でも」
「なんだよ」
「手料理ってだけで何段階か上の味に感じません?」
「男の雑料理に何抜かしてんだオメーは」
それはせめて女の子に言って欲しい。
……これも、妙な願望なんだろうか。
ばちばち、ばちばち。
醤油が焦げる匂いがして。
洞窟内に、白い煙が漂った。