現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『Chapter1-4』

 

九階層、『扉』前。

終わりの一歩前。

 

「私が行きます!」

「あ、おい!」

 

そんな叫び声の直後。

ぎゃいん、と悲鳴が一つ、二つ、三つ。

少しだけ広がった、木と草原で彩られた広間のような入口。

本来はこんな場所にいるはずもない狼――――それも全て亜種の群れが此方を捕捉し、襲い掛かる直前。

それより一歩前に先んだって足を滑らせ飛び込んだ怪我人(たかなし)は、そんな言葉を残して一歩戦場に突き進んだ。

 

振るう刃を両手に抱え、剣ではなく別のナニカのように運用する手腕。

重量で押し切るのではなく、何処か鋭さを更に研いだ刃で足を刈る。

直近にいた狼達の足は吹き飛び、その行動に怯えたように一歩か二歩下がるのが見える。

 

「こう、で……こう、こう!」

 

取り囲まれる、という事自体にリスクを孕む行為。

故に普通であれば逃げ道を用意し、万が一の際には逃走も辞さない態度を取るのが普通。

けれどその普通という行為を蹴り飛ばし、中心に躍り出たのは死の舞踏の演者。

 

「あんのバカ……!」

 

ただ、今この時に限っては失策とは言えない行動だから止められないし止める理由もない。

事実上の『扉』の守護者として立ち塞がった生命体の群れ。

それを乗り越えなければいけない以上は、どんな手を取ってでも潰し切る必要性は在った。

 

『どうしますか?』

「どうもこうもない、外側から削る!」

 

俺にはあの行動は無理だ。

ああして死を振り撒く剣鬼か、生を生み出し破滅させる姫であれば敵陣の中央へと躍り出ることは出来ただろう。

だから()()()()()()()()()()()()()構築した策は一瞬にしてパァ。

ただ、成功するか……或いは準備が間に合うかは五分五分の良い勝負であった以上、飛び込んでくれたことに否定の言葉は投げられない。

であるならば、俺がやるべき行動はもう少し違う――――特異性を組み合わせた練習と言う名の技。

 

「糸を!」

『はい!』

 

ほんの少しだけ変わったこと。

天音ちゃんが前向きに自身の感情を受け入れたことで、「なんとなく」出来なかった事が「なんとなく」出来るようになったという。

そして話し合って実験してみようと決めた、仮眠前の話し合いをぶっつけ本番で実行する。

 

今、俺と彼女は糸で繋がっていない。

けれど、『浮遊』と『振動糸』という特異性と武具が触れ合っている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

前者は俺が、後者は彼女が。

本来であれば正しく運用する不利な点(デメリット)として、その操作性の難度が在ったはずだ。

「糸」という軽く、持ち運べ、扱いやすく、罠として設置しやすい武具は。

翻せば重量を持たず、風に簡単に流れ、仲間に触れさせる危険性を帯びた物体でもある。

必然的に前衛で運用するのが普通――――でも、俺の特異性は単純に浮かせながらも操作するモノ。

であるならば、末端を一定の重量物で結んでしまえば操作出来ないものではない。

 

俺の目前で浮いているのはその辺で拾った石。

それにぐるぐるに結びつけ、刻み込み、容易に糸が外せないように仕込んだ投石武器にして玩具。

けれどその玩具は、触れさえすれば相手の生命を断つ死神の鎌でもある。

 

「いっ……け!」

 

普段と然程重さの変化はない。

けれど片頭痛にも似たズキズキとした初めての痛みを覚えながら、飛ばしたのは最も手前にいた茶色っぽい毛の狼。

恐らくは泥か土か、それに似た能力を持つが故に此方の武具を侮り。

目の前に作り上げた泥の壁を容易に振動で貫き、その肌に触れ生命の花を咲かせる。

 

(左、上まで引っ張ったら右に持っていって()()()!)

 

狼に触れさせ、敢えておかしい位置まで引っ張ってから糸の弛みを利用する。

中心では確実に狼の数を減らしている小鳥遊がいるが……彼奴、マジで一切返り血以外浴びてないのは何なんだ。

 

『センパイ!』

「分かってる!一旦向こうは任せるぞ!」

 

そして、この技の問題点も当然に研究済み。

唯一の武具の操作を俺に預けるが故、天音ちゃんが一時的に無防備に近い状態になること。

万が一の副武器に小刀を持っているのは確認済みだが、その程度ではなんとか跳ね除けられて一匹。

 

()()()、俺がもう少し無理をする。

 

石の操作先を天音ちゃんの声に任せ、俺は飛び掛かってくる狼を排除する。

 

『右、前、の後で戻してください!』

 

強引に鉄塊を浮かせ、顎から上へと吹き飛ばし。

その直後に杖を振り下ろして地面に叩き込む。

以前の杖ならこのやり取りでへし折れていただろうが、強化された愛用の武器は耐久性を重要視してもらった。

今は切り札を切れる状態でもないから、自分の手で時間を稼ぐ。

 

「先輩!」

「中央側は!」

「行動可能が四割です!」

「分かった、一旦引いてこい!」

 

どれだけ足を削いだんだ。

本来やろうとしていた事の半分は実行可能だと分かった。

だから呼びかけ、急いで此方へと引き戻す。

これが成立してしまえば、彼奴が戻る余裕は無くなる。

 

目前の敵を見ながらその奥を見透かす。

糸を操作しながら武具を操作する、なんて無理をしているから頭痛は鈍く続いている。

だから視界ではなく、声を以て互いの状況を把握する。

それが出来るのは、俺と小鳥遊だけなのだ――――今のこの場では。

 

「わっかりましたぁ!」

 

声を掛けるや否や、即座に飛んで此方へと戻って来る。

危うく糸に触れそうになり、慌てて一時的に武具の振動を取り止める天音ちゃん。

 

「ばっか、少しは大回りしろ!」

「無理言わないでください……()()()()()()()()()よ!」

 

この作戦の本領。

出来るだけ多くの敵を巻き込むという前提を、敵意を稼ぐことで成立させた後輩。

なら、文句は今の一言と舌打ち一つで十二分。

 

()()()()ぞ!」

『任せてください!』

 

引き戻していた石を更に奥に……狼達の中心、つい先程まで後輩が踊っていた場所まで伸ばして糸を地面に垂らす。

明らかに過剰な長さ、行動が一時的に収まったことで恐慌も落ち着き此方へと飛び掛かるのが目に浮かぶその瞬間。

 

「回れ!」

 

巻取り機と石とを両端にした、大縄跳びのような楕円形の死の空間を作り上げる。

無論、その間にいた狼達は血肉を消し飛ばすか血反吐を吐いて死ぬかの二択。

生きている以上、皮膚が振動を防げない以上。触れた時点で絶死は確定している。

 

ぐるぐると回る空間。

即座に抑え、止めたことで和らいだ頭痛と操作精度を以て次の獲物へ。

足を止めた以上、その動きの頭で止めた以上は一瞬の遅延が産まれるのもまた当然のことで。

 

「貰いまーす!」

 

その合間を狙う首刈り女が首を持っていくのも当然のことで。

強弱を繰り返す頭痛の中で、残った獲物の数を改めて視認し……石を送り込んだ。

 

(普段遣いは出来ねーな、こりゃ)

 

まだまだ、俺は未熟だ。

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