当たってほしくない想像ばかり当たるというか。
嫌な想像は大概そうなるもの、という言霊にでも縛られているのか。
十階、事実上の今回の目標階層への『扉』を潜った際に感じたのは濃い鉄の香り。
よろよろと此方を見上げる一人……二人の姿と、顔を上げるほどの余力も無さそうな二人程。
そしてぴくりとも動かない
(……一人だけ見覚えがある、確か同級生だったか)
先程ああは言ったが、相手が一年だけなら少しは手心を加えた。
ただ、少なからず一度は突破している相手。
故にそんなことをする理由は欠片も無くなった。
冷めた目で見つめ、残りに見覚えがないのも確認。
何か声を掛けられる前に抜けようとし、肩越しに言葉を投げられる。
「……な、なぁ、おい!」
そうして声を発するのも力がいるだろうに。
多分唯一軽症で済んでいる、だからこそ他の
……いや、既に一人はその生命を奪ったようなもの。
だからこそ明確に焦りを見せているんだろうと相手の精神状態を観察。
足を止めず、事前に言っていた通りに後輩二人も俺の背中だけを見て付いてきている。
「回復薬……少しでいいんだ、分けてくれ!」
予想通り。
舌打ちも目線もくれてやらない。
仲間内だけでやり取りをしてきた奴特有の、『迷宮』に対しての
――――ただ。
こうして横たわっているのは、俺が成り代わっていてもおかしくはなかった現実。
それだけははっきりと覚えておく。
やるべきことも、言うべきことも、施すこともない。
此処で手心を……少しでも甘えを見せれば、この階では俺達でさえも簡単に喰われて朽ちる。
其の為に過剰な程に用意した道具類を一つでも分ける?
或いは最奥まで連れて行って仲間面させる?
少なくとも、顔しか知らない相手にそんな余裕も、義務もない。
更に一歩、二歩。
一切反応しないことに焦ったのか、目線を俺ではなく二人へ向けた。
「な、なぁ其処の二人!同級生が死にそうなんだ!」
まぁ、年下なのは見れば分かるわな。
制服の肩口のところの色が違うし、何より一年でもなければ先ずこんな時期にこの階層には来ない。
最奥の守護者を倒した後なら、その場所までは『扉』を介して飛べる権利を得るんだ。
今まで制限が掛かっていた二年なら、まずは其処から入るのが道理。
ただ、二人は当然のように反応しない。
天音ちゃんは当然口を開けず、目線さえも向けずに背中をじっと見つめている目線を感じるし。
小鳥遊は……目を向けてはいるけれど、何処か別の『モノ』として認識している気がする。
手の内に抱えることを選ばなかった、選ばれなかった相手――――ってとこかね。
「まだ余裕あるだろ!?次の機会だってあるし、その時には協力する!」
そう言われて裏切られたやつがどんだけいると思ってるのか。
所詮口約束、特にこういうことがあるから深い階層に潜る相手同士は面識を作る。
その輪から弾かれた以上……俺達は、常に自助以外の選択はない。
そして、こいつらの言う「次」なんて機会は二度と無くなる。
「だから――――」
「
自分でもゾッとするような言葉が漏れたのが分かった。
それほどまでに無意識にキレていたのか。
これが一般の……「普通」の探索者、「普通」の能力を与えられた一般、或いは底辺。
そう考えれば……俺は、今の地味な能力を好きになれた気がする。
『走れ』
何かあった時の無言の伝言用。
軽く手首を結び合っていた糸に対して
多分特異性で触れたからか、その要領をなんとなくだが身に付けた結果。
直後、俺達三人は駆け出した。
背後から聞こえる叫び声を後にして、安全地帯から警戒しなければいけない戦場へ。
ただ広くなり、ただ強くなり、ただ危険度が増す。
それでも尚、先程の腐りきった空間にいるよりは余程呼吸がしやすい気がした。
「なんですかアレ?」
近場の木々の裏まで潜り、全員で一度身を伏せる。
先ず飛び出す元気も勇気も無いだろうが、付いてこられると叫び声で呼び寄せられる可能性がある。
一度視界を切るのは必須だと、三人が三人ともに理解していた。
「彼奴自身が言ってただろ、『次』があった探索者だよ」
誰かが来れば助けて貰える。
そう無意識下に思い続けて来た探索者の末路。
人として認識していない小鳥遊の冷めた言葉に、同様の意味を込めて言葉にする。
「さっきのに比べればお前の元仲間は優秀だったな、戻る選択肢を選べたんだし」
「切り捨てられた側の事考えていってますー?」
「
まあ実際には仲間を気遣ってる余裕もなかった、が正解なんだろうけど。
それでも、ああして動けなくなるのは最悪の中の最悪だ。
身動きが取れなくなる前に外に助けを呼びに行くなり何なり出来ただろうに。
采配ミス、戦闘でのミス、最後に取引での言動のミス。
全部積もり積もって自分に降り掛かった末路。
「二人共、言いたくないが万が一のことを言っとく」
そして、アレを見たからか。
或いは声色に真面目さを見て取ったからか、言葉を挟むことはなく。
「もし動けない程の大怪我を誰かが負ったら、食料と回復薬を置いて先輩方に助けを求める。
あの二人ならどの階のどの辺、で通じるしこの辺じゃ苦戦もしねえからな」
後々で返す借りが積もり積もるが、事故で命を落とすより余程マシだ。
前に突き進んでいいのは守護者を撃破した後だけ、それ以外は戻るほうが明らかに楽なんだし。
「……そんなこと、ありませんよね?」
「俺も雄次も、互いに一回ずつは経験してる」
待つ間はマジで悪い方向にしか思考は進まない。
それでも、信じられる信用があるのだから限界まで耐えることが出来た。
「お前等を捨てる気は無い、だからお前等も俺が倒れたらそうしてくれ」
言葉でしか無いやり取り。
ただ、その奥の思いを受け取ってくれたと信じたい。
……今回失敗すれば、想定する未来への道は簡単に崩れると分かっていても。
尚、「取引」という言葉は一切口にしていないのが同級生(故)です。