現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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改めて十階。

今までの中で一番広く、けれど最終目的がクソほど分かりやすい場所。

絵で書くなら、個別包装で左右を拗られている飴玉のような形をしているというのが一番適当だと思う。

左側に入口、中程に行くにつれて左右に広がり、また収縮して最終地点へと到達する。

上の階までと比べれば、()()()()()()()なら何処より単純な構造。

そして、今までの集大成を求められる場所。

 

「……はぁ、っ」

 

首元に両手剣を突き立てられ、呼吸を止める大鬼。

今までに現れていた子鬼から二回り程は大きい、人間大の……棘付き棍棒に似た武器を持った、想像しやすい奴。

ただ、その筋力は勿論人間とは比にならず、下手に受ければそのまま武具毎命を持っていかれる強敵。

一番前に立ち、子鬼の群れを引き連れることが多い……小隊長のような存在。

 

「お疲れ、今のうちに武具の血拭っとけ」

「あ、はぃ……」

 

そんな小隊と、これで()()()の遭遇。

まあ真っ直ぐ進んでるならこうもなる。

 

『センパイ……』

「良いから」

 

明らかに疲弊した一人と、それと比べればまだ余裕がある俺達。

無論不味い時は介入しているけれど、大物は小鳥遊に、それ以外の小物潰しは俺達へと意図して分けている。

その理由は……当人が気付いてくれるのが一番良いんだが。

 

(無理にでも疲弊させなきゃ意識が変わらねーからな、此奴)

 

べきり、ばきり。

枝を折り、草木を踏みしめ、自ら道を作り出しながら進んでいく。

最終到達地点は最初に伝えていて、此奴の好きに進ませているとは言え此処まで酷いのは想定外。

 

恐らくは無意識にだが、指示を出さなければ自分の存在を誇示しながら歩いている前衛(こうはい)

文字通り自分の名誉を上げる為の戦場ではそれは必要行為だろうが、この『迷宮』では逆効果。

 

最適は何方かと言えば草、忍、創作小説の「忍者」。

気配を消し、最適なタイミングで首を刈り、疲弊をできるだけ減らして長期行軍を可能とすること。

それが出来ていたからこその店主(マスター)の『草ノ者』であり、その基礎的な考え方や動き方は習って真似事程度は出来るようになっている。

天音ちゃんや東雲先輩、恵先輩なんかも当然に身に付けている技術ではあるのだが――――。

 

其れ等を無視して突き進んでいる奴が一人でもいるのなら意味がない。

なので、肉体に負荷を掛けて「異常」であることを理解させるしか無い。

 

本来こんなとこでやるべきものじゃないのは重々承知だが、下手に上階だと此奴真っすぐ行って全部踏み潰すし。

口で言って即座に反映出来る……とは思うが、それを行動の基礎に置いて貰わないと今後困る。

なので、後の負担や休憩を込みにして無理をさせている……その結果が目の前のフラフラの後輩だ。

 

「あの……先輩……」

「なんだよ」

 

血を拭い、自分の空間から水を煽って一息ついた後輩。

じっとりした目で此方を見上げているが、漸く何か気付いたのか。

 

「先輩が指示出してくれた時と比べて、敵と遭遇しすぎじゃないですか……?」

「おお、五回目で気付いたぞ此奴」

『煽るのはダメですよ?』

 

ぱちぱち、と拍手しそうになったが目力が増したからやめとこう。

疲弊がマジの時に誂い過ぎるとプッツン行くのは分かる、俺も経験あるし。

 

「先輩?」

「キレんな。って言ってもお前が前に出ればこうなる、ってのを()()しただけだぞ」

 

笑顔は怒りのなんとかって聞くが当にその通り。

今下手に近付けたら怒りのままに武具を振り下ろして来そうなので、いい加減にネタばらし。

 

「お前が通ってきた道見てみろ」

 

後ろ、通った道を指差す。

木々に覆われた森、高草のが真っ直ぐ線上に踏みしめられて道が形成されている。

まあ、この辺一帯がつい先程の戦闘で荒れ放題になったから分かりにくくはあるが。

 

「道ですね」

「そうだな、アホが作り出した新たな道だな」

「誰がアホですかー!」

「今の会話で理解しろやアホがぁ!」

 

やんややんや。

互いに一言二言言い合って、隣で笑顔の天音ちゃんがぱん、と手を一拍。

目が笑ってないので冗談混じりの部分は一切抜きで話を進めることにした。

そうじゃないと怖い。

 

「あー……もうはっきり言っちまうなら、お前が変な道作ったから見咎められてんだよ」

「見られてる?何にです?」

()()()()()()

 

より正しく言うなら鬼族の集落か。

普段絶対行かない場所だし、知らないやつは先ず知らないと思う。

そもそも行き方を知らなければ開通さえしないタイプの隠し道だし。

 

「え、高台!?見張りですか!?」

「ああ、見つけようと思っても無駄だぞ。そういう場所だ」

 

行き方は簡単。

最も左右……いや、南北と言ったほうが良いか、その頂点に当たる場所に触れると中央部に湧くように出てくる。

そうしない限り見つけられないし、そもそも真っ直ぐ『扉』まで行こうとするとこうして鬼共が無限に湧いてくる。

正当攻略法は北か南を経由した壁沿いに進むこと。

或いは頭数を集めて解放し、集落を逆に襲撃すること。

こうすると中央部が一定期間空白になるし、最初に攻略すると幾つかの()()()()()()()()()が手に入る、らしい。

まぁ、それはともかくとして。

 

「せめて獣道通っておけばもう少し遭遇率下がった筈なんだがなぁ」

「え、獣、道?」

「在っただろ?お前が気付かなかっただけで」

 

まず最初に戦闘能力を確かめ、連携を仕込み、その後に自分の特異性を理解させる。

当たり前のことが当たり前に、新人としての基礎が身に付いたなら次にやるのは更なる応用。

先人の探索者達がその身を削って見つけ出してきた、知識と技術の学習だ。

 

「小鳥遊」

「……はい」

「お前は戦闘に入れば……もうちょい言うなら意識を切り替えれば多分見逃すことは無かった。

 その辺の切り替えを意識してやるか、常在戦場の意識が根付けば大丈夫だとは思うが」

 

九階、戦闘前に一人飛び込んだことを脳裏に思い出す。

そういった呼吸を読む、気の起こりを読むのは大得意。

ただ、そもそも戦闘に入る前の段階だとポンコツ。

戦人ってのはこんなもんなのかね。

 

「学ぶ気はあるんだよな?」

「当然です」

 

以前と同じことを、別の聞き方で聞く。

即答。

良かった、此処で文句言うようならちょっとどうするか迷った。

 

「なら」

 

そんな言葉と同時。

前と同じように、木々に囲まれた草木の奥に鉄塊を投げ込んだ。

ぎひぃ、という鈍い音と併せて倒れる音が一つ。

多分子鬼の斥候。単独っぽいからこのまま放置。

 

「もう少し気配を感じる力……周囲に伝えるんじゃなく、周囲から感じる訓練がいる。

 前者は獣には有効だが、お前の場合既に熟達してそーだしな」

 

一旦北に行くぞ、と。

先頭の立ち位置を入れ替え、俺が前に出る。

此処からだと……あの辺ならまぁ紛れられるか。

それっぽい道を見つけて、其処への順路を歩み始める。

 

「……天音ちゃん」

『なんです?』

 

途中、背後から声がした。

 

「獣道とか、そんな簡単に判断できるもの?」

『センパイのは、ちょっとだけズルも混じってると思いますけどね』

 

苦笑交じりの言葉に、思わず内心で反論した。

誰がズルだ。

れっきとした特異性の応用じゃい。




我が集落から奪ったのだ。
その命で奪い返されても文句はなかろう?

                 ――――集落の入口に刻まれた言語
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