現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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北の壁側、岸壁っぽくなっている場所まで到達。

後は方角を間違えずに壁沿いに進めばいいだけで、この辺まで来ると鬼共の姿は殆ど見えなくなる。

代わりに姿を出し始めるのが獣形……なんだが……。

 

「なんかマジでいねーな」

「いませんねぇ」

 

前に彼奴と二人で来た時はいい餌だとばかりに何度か襲われたんだが。

それなりに離れた位置にいるのは分かるのに一向に姿を見せようとしない。

 

「これさぁ、一つ襲ってこねえ理由に想像が付くんだが」

「と言うと?」

「今さっき言ったろ、小鳥遊が周囲に気配剥き出しだーって話」

 

上の階ではそんなの関係なく襲ってきていた。

ただ、十階……まあ普通に考えればそれなりに深い場所ともなると、知能がある程度付いた生命体が多くなる。

つまり、()()()()()()()()()()って選択肢を獣でさえも持った可能性がある。

 

「……つまり、人間獣避けスプレー?」

「スプレーっつーかあっちこっちに喧嘩吹っ掛けてる相手から逃げてる感じじゃねえかなぁ……」

『追い払ってるわけじゃないですものね』

 

まあその分楽出来るから良いが。

ただそうなると十階で狩りが出来なくなるから今後の資金稼ぎに差し障りが出るかもしれん。

一応脳内メモに書いておこう。

 

「じゃあ私がいれば誰でも此処素通りできます!?」

「お前鬼集団のこと忘れたの?鳥?」

「三歩歩いたくらいじゃ忘れませんよーっ!」

 

まあ冗談は扠措いて、大真面目に意識してこのオンオフが出来るようになると相当有効なのは間違いない。

能力に由来するわけじゃなく、生き方……今までに経験してきたものが土台となる分正しく身に着けるのは難しいとは思う。

ただ、意識して習得して欲しいと思う気持ちは更に増した。

 

(問題は何処まで覚えられるか、体現できるかってとこだな)

 

時折後方に目をやり、容易に手折る枝葉などに注意を促す。

気配、匂いは消すことは出来なくても、折られた高さなどから相手の背格好を推察することは出来る。

特に子鬼と大鬼という二種類は人間より大きいか小さいか、そんな区別なので特に分かりやすい。

……逆に言うなら、中途半端な高さなら『外敵』がいるとも見做されかねないんだが。

 

「なら、今のうちにこっからの予定だけ伝えておくぞ」

 

戦闘経験は積めるなら積めるだけ良い。

明確な数値上の向上、みたいな判断基準があるわけじゃなく、各個人の成長はその判断と能力に合わせた応用の発展性。

一度も戦わずに次の階へ向かう、というのは運がいいことじゃなくて寧ろ不運だと思うべきだ。

少なからず、俺は同じ階で一対一ならよく見かける相手なら()()()()という判断を下して降りている。

 

奇襲などではなく、真正面から対峙した場合でのそれ。

後半になるにつれ、特に重要なことだと叩き込まれた経験則の一つ。

 

その上で言うなら、この階で真正面から対峙した際に大鬼を超える一般生命体は存在しない。

 

二つ首の獣やら属性攻撃を行う鳥など、厄介なのは幾らでもいるが……。

其れ等が強いのは、言ってしまえば地形との噛み合いという側面もあるから。

一つの判断材料として、前衛が単独で殺し得るというのは進む選択肢を取るに間違いはないだろう。

 

天音ちゃんが少々不安だが、何方かと言えば補助、或いは暗殺に近い一点特化型。

後々に訓練は必要になるが、その辺りのリスクは俺で飲み込むしかない。

 

「はい!」

『予定、ですか』

「上に戻る選択肢だけは選べんが、それ以外の行動択はまだ握れてるからな」

 

即ち、『扉』の守護者にどのタイミングで挑むか挑まないか。

 

「改めて説明しとくが、守護者……次の階層までの門番は()()()()()()()()()()

 

恵先輩の言葉を借りるなら、「見定める」為の試練なんだろう。

少なからず強敵が現れ、それは千変万化の形を取る。

一度通過した面子のみの場合には再度は現れず、一人でも未通過がいる場合はまた別の形を取る。

これが強さが上下する理由にもなっており、併せて迂闊に突入できない理由とも重なる要因だ。

 

「あ、授業でも聞きました!」

『義兄さん達も苦労した、とは……』

「俺達の時は岩人形……ゴーレムだった、アレはアレで時間掛かったな」

 

苦戦した、と言うよりは苦労した、に近いと思う。

長時間戦闘する羽目になったから終わった後ぶっ倒れたことだけはよく覚えてる。

 

「で、文字通り何が出るか分からん以上。

 戦闘前の最後の安全地帯で物品の受け渡しと休息、後は感覚でいいから必要なら戦闘の調整を挟む」

「?調整、ですか?」

「ああ、いやもうこれ感覚的な話になるから言語化は難しいんだが……」

 

敵が現れないからこそ出来る余裕。

周囲の物品には「触れ」続け、警戒しているからこその移動中の予定調整。

糸に触れるより余程楽に感じるのは違和感さえもある。

 

「階層を越えて起きる変異とは別に、階を下ることで能力の拡張……強化は起きるもんなんだ。

 肉体的な強化じゃなく、武具や特異性の方な」

 

俺で言うなら操作可能重量の増加と射程の増加。

精度は使い込めば使い込むだけ上がる、という形に近かったので十二分に使い倒した。

 

「で、今日だけで四階……いや、前から考えれば九階か。

 ほぼ苦戦すること無く突っ込んできたから、下手すると自分の肌感覚とズレてる可能性がある」

『私の、糸の長さ……とか?』

「そうだな、自分で思ってる以上に伸びたり伸びなかったり。

 そういう目見当を含めて……半日、明日の朝に守護者に挑む前提で調整してくれ」

 

訓練するだけでなく、必要なら生命体との戦いも挟む必要がある。

そうしなければ微量過ぎて気付かないなんてのはザラだ。

雄次のやつも主体は重量の軽減、って形だったが自分の身体のズレ調整に苦戦してたし。

 

「えーと、なら先輩目線からの意見とか期待しても?」

「お前の剣技マジで見て理解しきれねえからな……」

 

一応、自己流ではあるが触れている人間としては余計に。

多分相手の起こりを潰すことに特化してるんだとは思うんだが俺の目じゃ追いきれない。

 

「特異性の調整、応用なら……ってことで勘弁してくれ」

 

最終的には、自分で見出す必要がある。

自分に宿ったものなのだから。

そう、自分に言い聞かせながら。

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