目線を隣の少女に向ける。
「で、天音ちゃんは?」
割と申し訳ない部分を含んで言うなら。
彼女の能力は、現時点で
発展性や変異等、どう移り変わるかという側面はあるけれど。
応用性というただ一点だけで見ると、今のように彼女の日常生活の補助という部分が極めて強い。
あるとすれば特異性の弱体化……つまりは純粋な回復方面への加減のしやすさなんだろうが。
それは反面、彼女自身が守られる立ち位置に落ち着くことを意味する。
内側に籠もった復讐の炎は、そう簡単に沈火するものでもなく……それを望むとも思えない。
『私の場合は……糸が伸びやすくなったのと、特異性の段階が区別しやすくなったといった形でしょうか』
だが。
彼女から漏れた言葉は、そんな想定を大きく上回る変な言葉だった。
「「区別?」」
『はい』
「えー……ごめん、特異性に段階なんかある?」
異口同音に重なる言葉に肯定、更に小鳥遊の突っ込み。
それに関しては俺も同意。
自分自身では何処か納得した表情を浮かべているのが逆に不安になる。
『センパイ方にもあると思いますよ?』
「……先輩?」
「いや知らん、これに関しては冗談抜きで」
彼女独自の捉え方なのか。
それとも俺が知らない何かを感じ取ったのか。
不思議とそれを聞くべきだ、という直感が囁いている。
「天音ちゃん、どういうことだ?」
『センパイの言っていた”特異性の発展”のことです……多分、見方の違いと言うか。
ある側面では正しいんですけど、正しい見方ではない、みたいな』
つまり……なんだ。
俺の一年以上の経験よりも、彼女の此処一週間程度の直感が正しいと彼女は感じているわけだ。
そして、その意見こそが正しいのだと俺の中の何かも嘯いている。
いつだったか。
ずっと背を焼いていた、焦燥感にも似た感覚其の物が再燃焼するような錯覚。
「???」
「えっと……じゃあ天音ちゃんはどうしてそう思ったんだ?」
小鳥遊は完全に思考放棄というか理解してない。
直感で元々認識するっぽいやつだし、言葉というより擬音とかのほうが通じるんじゃなかろうか。
流石にそれは侮り過ぎか。
『最初に思ったのは……そうですね、センパイの特異性です』
「俺の?」
『だって、先輩のって『浮遊』ですよね?』
そうだな、と頷く。
浮かせること。
それ以外にも使えるように苦労したが、本質はそう定まっていると俺は思ってる。
『だったら、
自分の目で見ながら、それに特化した効果を発揮すれば良い。
……だから、『浮かせること』だけが能力なら、それはおかしい、と私は思いました』
自分の思考を整理しながら口にしている。
だから途切れ途切れになるし、正しく伝わるような内容でもない。
ただ、なんとなく言いたいことは腑に落ちる不思議な感覚。
『そこで思ったんです。
そもそも、私達に与えられてる能力……特異性、異常性って作用する対象が大きく二つに分けられる、って』
指を指されたのは俺。
『センパイだったら『物質』と『空間』に作用する』
次に指を指したのは小鳥遊。
『岬ちゃんだったら『自身』と……多分、『道具』』
彼女が言ってるのは、得意不得意の話じゃない。
多分、もっと根幹の――――気付いている人なら気付いていること。
ただ、『発展』という言葉で深掘りしてこなかった俺への痛烈な指摘。
『そして……私は、多分『私自身』と『物体』です』
「『他の相手』じゃなくて?」
『そうかも知れませんけど、多分私のこれは
それと同時に……自分自身を常に癒やし続けている』
怪我をしても直ぐに治る。
転んだように見えても特段目立つ怪我はない。
言葉が発せない理由が心因性でなく、肉体由来であれば既に治している。
何を求めたかで与えられるモノが違う。
名称は同じでも、発現結果が違う。
つまりそれは、使用できる対象が違うから。
「でも先輩、天音ちゃんの言う通りだとしてですよ?
私が自分以外の……道具に対して効果を上手く使えないのってどういう原理になるんです?」
「熟練と、俺が言ってた発展の方向性ってことだろうな」
最初から全てを上手く扱えるわけじゃない。
石塊を持ち上げ、投げ付けるのにも俺はそれなりに練習を重ねた。
今まで意識しなかった分、自分への強化に全振りしていたと考えると少なからず納得がいく。
「しかし……そうか、そうなると俺は『空間』に振りすぎてた、ってことになるのか?」
『重いものを持ち上げたかった、って思考が無いなら自然とそうなっていたと思います』
「いや、どっちも欲しいところではあったんだ。
まあ今までは武具がアレだから考えないようにしてた部分はある」
多分同様に恵先輩とか東雲先輩にも適用できるなこれ。
応用、って考え方自体が基礎前提になるからそっちを重視しちゃう形になるのか。
まあ正しく研究が進んでるわけでもなし、この思考が全て正解とも限らないが……。
「改めて聞くけど、天音ちゃんの『段階』って?」
『過回復の効能の調整に区切りをつけた……みたいなイメージをして貰えると。
今までは自分を癒す感覚が前提だったみたいなので、正しく使えてなかったんだと思います』
「なにそれ怖い」
自分を癒す感覚が前提とは言え、人間に対して使うなら十二分に問題ない筈。
……大怪我をしたことがないから、軽症を癒やす際でもおっかなびっくりだった的な形だろうか。
もし太腿への怪我を天音ちゃんが受けていれば、その時点で違和感に気付いたのかもな。
いや、そこからの思考の発展?
『なので……少し、実験したいんです。
どの程度の被害が出せるのか、どの程度までなら怪我を負っても問題ないのか』
珍しくむん、とやる気を出してるが。
天才を通り越して天災の所業だと気付いているのか。
……本当に調整まで出来るのか、ちゃんと見てないと怖すぎる。