現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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走り幅跳びしてる横でロケットジャンプするような暴挙。


051

 

「いやぁ……ちょっとこれは……」

 

試したい、という天音ちゃんの言葉。

それに付き従い、安全地帯から少しだけ外に出て生命体を呼び寄せて。

現れた少しだけ肌の赤い猪っぽい獣三体との交戦開始。

 

約一呼吸後。

伸ばした糸に触れた獣共がものの見事に()()した。

けれど、その血は一滴たりとも俺達の肌を湿らすことはなく。

目の前には、()()()()()()()()()が聳え立っている。

 

『思ったよりも酷いですね』

「いや、この惨状でそれだけ!?」

 

この状況を作り出した片方の少女は、何処か興味深そうにその光景を見つめ。

そして、もう半分を成した俺自身は何かを掴んだように右手を開いては閉じを繰り返していた。

 

「先輩も先輩で何してるんですか!?」

「いや、なんつーか……反射的にやろうとしたっつーか……」

 

さっきの会話。

天音ちゃんが言った別視点、『空間』に作用するとした場合の話。

仮にそれが使えるとするなら、『浮遊』でその空間一帯を浮かせようとすればどうなるのか。

その思考と、目の前に飛んでくる多量の血液の前に勝手に体が動いていた。

 

「血液を空間ごと浮かべてる、っていうのが正しいのかねこれは」

 

自分で言いながらに納得する感覚。

重量制限がある俺の特異性……の別の使い方。

物体一つではなく、その領域全体から飛んでくるものを上方向に捩じ曲げる事による擬似的な防壁。

飛び散る液体が四方に散ったからこそ出来たのだろうこれは、言われなければそもそも思いつかない類の扱い方だった。

 

『獣其の物を浮かべる、まで行ければお強いんでしょうけどね』

「其処まで行くのにどれだけ掛かるんだよ……」

 

いや、想像した事自体はあるのだ。

敵を浮かべることが出来ればその間無防備になるのだから、攻撃を別の手段で実行できれば有効なんじゃないか、と。

ただ当時は一つしか浮かべられなかったし、浮かせているとは言え暴れること自体は出来る。

そして何より刃物を握った時点で解除されるから、自分の力のみで相手を殴り殺さないといけない。

結果ハイリスクローリターン、典型的な思考倒れと判断して石塊操作に集中してきた。

ただ、『扉』を潜って変異した後ならまた別なのか。

 

「あー、絶妙に噛み合わないのも先輩の能力らしいですよねぇ」

「おいコラどういう意味だ」

 

なんか妙にしみじみ言いやがって。

自分でもそう思うから手は出さずにやるが俺は男女平等主義者だぞ。

 

「いや俺のはいいんだよ俺のは、軽い射撃武器への壁に出来るって分かっただけでもマシだし」

 

出来ることが増える、手札が増える。

それで少しでも動けるようになる、そう考えるのは楽しい。

誰かに期待するのではなく、自分にこそ期待する。

そう思えたのも、まあまあ久々な気がする。

 

「天音ちゃんのそれは何なんだよ、明らかに弾け飛ぶ量と距離がおかしいだろ」

 

前の時と比べて倍以上離れた場所から放った特異性。

にも関わらずその血の量は倍以上で、頭から被れば文字通り血の雨に晒されていただろう。

そう言う意味でも、距離を取って正解だし反射的に俺がやったことも正しかったと思うが。

 

『使い方を変えただけで根本は変わっていませんよ?』

「その何を変えたか聞いてるんだけど」

 

見てみろ、前は少しでも残ってた肉塊すら消し飛んでる。

いや、弾け飛んだのか或いは活性化させすぎた細胞化したのか?

確認するのが怖いが今回の指揮役として聞かない訳にも行かない。

 

『自分基準だったのを、相手の個体基準の回復に切り替えました』

「……それで?」

 

嫌な予感がしてきた。

 

『別の何か――それ自体が理解できるわけではありませんが――の作用で、生命体は怪我が治りやすいみたいです。

 多分その相乗効果で、内部の血の量と細胞自体が自滅細胞化しました』

「淡々と言うべきことじゃないんだが!?」

 

唯でさえ過剰だった火力が更に増したってことじゃねえか!

しかも自滅細胞って出来れば見なかったことにしたいやつ!

それが出来るって実証出来た以上、人にだってやろうと思えば出来るよなそれ!?

 

「先輩先輩」

「んだよ」

「私もう天音ちゃんに逆らいたくないです」

「本能がそう言ってそう」

 

少しだけ震えながらそんなことを言ってくる後輩。

何が酷いってそれを否定する気が起きないこと。

糸を伸ばして触れれば良い、ということは復讐の手立てとして立派に成立する。

迂闊に使わないだけの自制心があるのは理解してるが、それが出来ると知られるともっとヤバい。

 

「取り敢えず此処にいる三人だけの秘密な、一旦」

「はい!」

『分かってますよ、センパイ』

 

なんでこう、想像と全く違う方向に成長を果たしているのか。

……一応聞いとくか。

 

「ところで、回復方面の……つーか、特異性の制御の方はどう?」

『私基準で良ければ、ある程度は安定したと思いますよ?』

「…………?え、安定した?」

 

なんで?

疑問符が大量に浮かんでは消えていく。

 

『今のところの人間に対しての適正値と、生命体に対しての最大値が漸く掴めましたから。

 調整は必要だと思いますけど、回復面では基準がやっと落ち着いた感じがあります』

 

今までは半ば暴走に近かった、と。

それであれだけ暴れてたし、制御してたし。

虐殺みたいなことをしでかしていた、と。

 

成程成程。

 

「俺もう天音ちゃんに絶対勝てないし見上げる目線のほうが良い?」

『なんでですか!?』

「なんでも何もねーよ!」

 

俺が物持ち上げるのに努力してる横でこれだぞ!?

 

「ごめん天音ちゃん、こればっかは先輩側に立つね」

『なんで!?』

 

自分で自分の希少性が正しく理解できてないからだろ!

文字通りの最終兵器になってるじゃんかよ!

 

ああだこうだ言い合って。

落ち着くまでに要した時間は、地面に飛び散った血が乾いて何処かに消えるくらいまで続いた。

 

…………疲れた。精神的に。

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