現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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独特の、鈍い頭痛とともに目が覚める。

 

最初に視界に映るのは、普段見る天井ではなく果てのない空。

精神は満足感を得ているのに、肉体が疲労を擡げてその差異に身体が軋む。

幾度となく経験してきたその感覚と共に、今いる場所を想い出す。

 

「ん……」

「あ、おはよーございます先輩」

 

鼻に漂ってきたのは独特のカフェイン臭、珈琲。

それと多分は卵か何かとパン……ホットサンドとか言うやつに似た主食。

乳製品と果実まで付いた、明らかに場違いな朝食の現場だった。

 

「おう……」

 

ぺこり、と頭を下げる天音ちゃん。

俺用の準備を手早く進めてくれるのを横目で見ながら、大きい欠伸を片手で隠す。

身体を伸ばせば、凝り固まった身体が解れる独特の感覚と幾つかの骨が立てる音。

ノロノロと動き出す俺を見つつ、口を開くのはつい先程同じような体験をした小鳥遊。

 

三時間毎の睡眠時間確保だが、丁度中頃に起きるのを希望したのが此奴。

本来は一番きつかったらしいポジションだが、薬が出回って以降はその立ち位置が逆転。

即座に目覚めて動くことを求められる最後の起床が一番辛い形に移り変わった……らしい。

当時を知らんから、伝聞でしか無いけれど。

 

「やっぱり先輩朝弱かったりします?」

「この薬のせいだ、微妙に身体と精神がズレるのはお前も分かるだろ……?」

「あー……はい、確かに」

 

時差のような時間軸のブレによる昼夜の変転とはまた違う。

純粋に精神と肉体が噛み合わず、きちんと目を覚まして軽く身体を動かすまで付き纏うズレ。

探索者特有の持病のようなモノだが、どうしても強めに出る体質と弱めに出る体質がいる。

俺はやや前者より、家での爆睡は短くて済むのだがどうしても『迷宮』内では感覚が一歩先んじるような違和感を抱えるタイプ。

誰にでも言えばあるあるの鉄板ネタ――にして良いのかは別だが――に過ぎない。

 

「どうだった?」

「飲むと結構ズレますねー……慣れないとダメです?」

「ダメ」

 

昨日言ったとおりに薬を飲ませて眠らせて実感させた。

俺が寝る前の時点ではうわ言というか寝言を言いつつ起き上がっているような状態だったが、三時間もすれば目覚めるか。

 

「まだこの階で二泊三日で済んでるから良いが、第一階層以降は()()()()時間掛かるからな」

 

行きは良い良い帰りは怖い、じゃないが。

例えば十三階や十四階なんかを探索し始めた後、慣れるまでは暫く戦闘を経た後に十一階まで徒歩で戻る必要がある。

其の為の地図作製だし、其の為の道中の狩りが出来るかどうかの確認作業でもあるが……。

必然的に複数日の強行軍になるのはよく見知っているから。

と言うか今回だって大分強引に突き進んでるが、本来はそう言う経験積みながらの予定だったんだし。

 

「うぇー」

「あんまりに合わないなら成分調整してもらうって選択もあるぞ」

 

特に別の持病持ちとかで干渉するとかの場合は診断有りきだけど改良してもらったりするらしい。

ストレスで不眠症気味なら強めに睡眠成分入れるとか。

創作者が近場にいればそっちに依頼して直接試してみるって手も取れるけど。

 

「それってやっぱりお高いんですよねー……?」

「まぁうん」

 

一般の材料費よりは掛かる、が正直誤差。

自分に合う形に調整した上で大量に狩るほうが最終的な儲けは出るからな。

ただまー、序盤がキツイのは致し方ないけれど。

ショートスリーパーが強いのはその辺の経費節約なんだが、余り周囲でそういった話は聞かない。

 

「悩むなぁ……」

『お家借りるよりは安く済みますし……』

「そりゃそうだけどー」

 

……今説明はしなくていいか。

今伝えると多分パニックになって落ち着かなくなるし。

 

「……先輩」

「なんだよ」

「なんですその目」

「別になんでもねーが」

 

どうせ俺が言わなくても終わったら受付から説明されるだろーし。

そうなった後で手伝えば済む話で、今は言わなくていいな。ヨシ。

結論付けた俺を見つめるのは、猫みたいに目を細めた状態の後輩。

 

「あやしい……」

「なんか酷い目で見られてる気がするんだが?」

『センパイ、これ』

 

そうこう雑談をし、受け流し。

不審がってるくらいでいいと思いつつも、俺の分だという朝食を受け取って食べ始める前に伝えておく。

いや、今更言っても遅いってのもあるが。

 

「飯食った後、一時間くらいしたら守護者に突っ込む。

 それまで精神を落ち着けるなり腹ごなしするなりで落ち着いておいてくれ」

 

空間解錠、懐中時計を取り出す。

電波が届かない上に簡単に狂う携帯端末の時間と違い、こうした旧式の時計はきちんと働いてくれる。

まあ簡単に壊れるから腕時計みたいな文化が少し廃れて、懐中時計に回帰したってのはどうかとも思うが。

 

「あー……この時計で九時半でいいか」

 

確認したところ今が八時十分ちょっと過ぎ。

中途半端だし区切ったほうがまあ良いだろ。

別にいつ挑んでも同じだが、挑む側としては精神を落ち着けたいってのもあるだろうし。

 

二人が同時に覗き込もうとしてくるので、掌を返して時刻盤を見せる。

かち、かちという音に併せて秒針が進んでいるのが耳に届く。

 

「分かりましたー!」

『はい』

 

何方の了承も降りたのでそれで進める。

手を返して再度仕舞おうとする際に、なんとなく見詰めていた後輩から声が溢れた。

 

「そういえば先輩」

「んー?」

「その懐中時計ってどうしたんです?少し傷付いてますけど」

「これか?」

 

別に隠してるわけでもないからいいが。

皆知ってるし、それが伝わったところで今更だし。

 

「去年卒業した先輩から貰った贈り物だよ」

 

元々は時計屋だったっていう先輩の家の最後の品。

なんとなくお前に、と預けられた下手すれば俺よりも価値がある時計。

 

「今は何階にいるんだろうねえ……」

 

俺が知る限りで、()()()()()()()していた人だったが。

 

ある意味憧れている人のことを思い出して、ふと言葉が漏れた。

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