現れる現場を見るのはこれで二度目。
一度目は見上げるほどの大きさだった石人形。
そして、二度目は。
「……なんですかね、アレ」
「多分獅子、だろうな」
互いに応対距離を守りつつ、視界のうちに現れた生命体……守護者。
それは銀色に輝く体毛を生やし、四足で大地を掴む爪と牙が特徴的な生命体。
多分それを似たもので表すならば、”銀獅子”と呼ぶのが相応しいのだろう。
(さて、先ず、は――――ッ!)
何方が先手を切るか、相手の呼吸を見切った上で、と考えて。
背中に走ったのは即座に対応しないと不味いと伝える直感。
それも唯の悪寒ではなく、目の前の光景が僅かに緩む速度で見えるような全身に伝わる恐怖に近い。
「小鳥遊、下がれ!」
本来なら真っ直ぐ突っ込むだろう此奴が動かなかったのも似たものを感じていたからか。
俺の叫びに併せてほぼ同時に下がり、そして鉄塊から意識を外して目の前の空間に集中する。
視界の端から端までの空間を覆うような意識で掴み、上へと持ち上げる簡易的な射撃防壁。
咄嗟に行ったのはその対処で、その数秒後に行動の成否が示された。
(重……いや、違……うな、これは!)
視界を覆う一面の銀色。
脳裏を擽る感覚に何処か覚えがあるのを手繰りながら、それを攻撃として認識する。
「なんですこれ!?」
「
相手は突進してきたりしたわけではない。
そうであれば受け止めきれず、既に目前に現れていただろう。
それを警戒していた様子の小鳥遊の声に叫び返す。
「毛自体が振動してやがる、多分これに触れると抉られる!
天音ちゃん!攻撃行けるか!?」
『はい!』
『迷宮』内で実践した、天音ちゃんの糸を操った時と似た感覚。
常に振動している訳ではなく、受け止めてから少しずつ震えは収まっているが。
逆に言うなら、発射されてから暫くは振動が継続する遠距離攻撃。
その不味さを肌で理解しているから、事実を伝えつつ本家本元に叫び返す。
(俺達が出来ることを把握したうえで立ち塞がってる、のは間違いねえな……!)
何しろ、こんな壁が張れるのを知ったのがついさっき。
これを覚えていなかったらどの様になっていたのか、比較できない以上は思考の無駄ではあるが。
上方向から左方向へと向きを変え、毛を全て壁へと叩き付けるのと同時。
伸びた糸が右から壁へ触れ、同じように流されていく向きを弄って獣へと向ける。
「先輩!」
「一旦待て!」
毛の攻撃を避けられた……止められたのを理解しているからか。
僅かに透明から濁った色をした空間を介し、短い唸り声のようなモノが聞こえる。
知能があるのは間違いない。
ただそれが野生の獣を超え得るものなのかが分からない。
今の攻撃で終わらせられる、と怒りを込めた声なのか。
此方からの攻撃を待ち受けるための低い唸り声なのか。
全てが不明なまま、伸びた糸が獣の毛に触れ――――脳裏に小さく叫び声が響く。
『駄目です、振動は止められますが此方の振動も伝わってません!』
揺れを止め、けれど此方の揺れも止められる。
脳裏に浮かんだのは何かの本で読んだ図形で、小さく舌打ちをしながら唯一様子を見る小鳥遊に伝達する。
「逆位相だ」
「ぎゃ……?」
「天音ちゃんの振動と打ち消し合う振動を持ってる……流せる守護者ってことだ!」
分かってはいた。
相手を一撃で弾き飛ばすだけの力を持つ以上、絶対に対策してくるとは思ってた。
だから念の為、初手で確認できる攻撃を試したが予想通り――――いや、
(互いが互いに対しての
糸から意思を外し、地面へとだらりと落ちる。
その先は相手の毛へと絡まったままだが、力を加えさえすれば引き千切りながらも戻せる範囲。
飛ばしてくる以上は根本も緩いと思うが、絡まり続ければ武具を手放す必要が出てくるからこその対応。
「少しそのまま……小鳥遊!」
「はい!」
目線を左方面前方……八相に近い構え方をしたまま、足を滑らせるように距離を詰める小鳥遊。
声と目線と、後は戦闘の間を掴みつつある此奴だからこそ出来る行為。
相手に何が有効か、そうでないのか。
まずはそれを確かめ合うための前哨戦。
(右……次いで首から下!)
足早に動くのは天音ちゃんの前。
少しだけ距離を開け咄嗟の対応を可能としつつ、狙われた際に壁となれるような立ち位置を基本とする。
最前衛を張る唯一の前衛が前に出ている以上は無いとは思うが、再び毛を放たれた際の対応用。
併せて意識するのは地面に転がった
地面に生えた草木とはまた別の石の破片とも違い、能力が結び付いているのか手繰るのは容易。
少しの抵抗の後に持ち上げたそれを右目に映るように移動させ、直前に下から上へとカチ上げる。
首、という概念があるのかは別だが視界に頼るのならば一度は決まる得意技。
ただ、武具から返ってきた感触は独特の柔らかい感覚で。
再びに感じた悪寒と共に引き戻したそれを、次の瞬間には牙が掠って操作が揺れる。
「ッ!」
『センパイ!?』
『皮膚……だけじゃねえ、多分あの毛は衝撃対策にもなってやがる!』
思い切り響く舌打ち。
咄嗟に伸びた肩口への手で行われた思考会話は、互いの攻撃手段の大半を奪われる結果。
無論全てではなく、幾つも手立てはあるが……最も汎用性のある、使い減りしない手段が効果を持たない。
それだけで選択肢の幾つかは大きく削られる。
ただ、何も変化が無かったわけじゃない。
俺の攻撃に合わせるように踏み込んだ小鳥遊の剣が胴の辺りに煌めき、振り下ろされ。
それを嫌がるように大きく一歩仰け反るのを、俺ははっきりとこの目で捉えた。
両前足による反撃を受け流し、飛ぶように此方に戻る前に張る再びの防壁。
三連撃の最後として繰り出された毛の威力は然程ではなく、そして赤黒い液体が付着しているのも確かに認識できる。
「どうだった?」
「刃は通ります、ただ毛が揺れてたら無理ですね」
「十分」
ならば、相手の攻撃手段を一つ潰せばまだ有利に立てる。
焦る必要はない。
賭ける必要もまだない。
それは、最後の詰めだけでいい。
「小鳥遊、
「
取るべき行動を伝えるために。
彼女に手を伸ばすように告げ、それに答えがあり。
出来る限り簡略に、詰める手法を二人に告げた。