現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

57 / 148
056

 

その切っ掛けは、思ったよりも単純な現象から発生した。

 

「ッ゛!?」

 

距離を保ちながら攻撃を行っていた小鳥遊が、氷が溶け切った尾に向けて攻撃を行い。

半ばまで断ち切り、けれど何かに弾かれるように少しだけ距離を取った。

 

引っ掛かりを感じたような違和感、それに似たガギリ、と何かを噛んだかのような音。

それに従い、意図せず少しだけ長めに距離を取った。

そんな時だった。

 

『GA――――GAGAGAGA!』

 

()()、と俗に言われる現象。

 

元々は電子遊戯(ゲーム)用語から来るらしい、正しい意味合いでの発狂とは違う現象、言語。

相手の生命力が落ち、最期の一撃に近い自身の生命力を燃焼させながら行う高速行動。

自身への負担を顧みず、相手を殺すことだけを考えたような狂戦士の一撃。

それに近い挙動を見た時、俺も併せて後ろに飛び跳ねていた。

 

(――――来るか)

 

両足、牙、爪、地面其の物、或いは毛まで。

本来武器として振るわれる全てを俺に向けて振るい、距離を取ることを強いられた。

 

全てを受け切れない、半ば回避盾に近い動作を取っていた俺にとっては一番嫌な行動で。

けれど、距離を取ること自体は俺自身も望んでいた行動。

 

「小鳥遊!天音ちゃん!」

 

声を掛けて、最後の決める状態まで進んだことを警告する。

 

同時、傷だらけの獅子が構える。

 

()()()()()、一番取られたくない行動。

身体能力として優劣が付く部分のみを重視し、動きながら行う狩りに近い挙動。

 

(ただ、全力状態で走られる状況は完全に潰した)

 

元々、彼女達に告げていたのは三つ。

 

『俺が敵意を稼ぐから、二人は毛を抑えながら攻撃して欲しい』

『ある程度まで削れば半ば暴走状態になる、それが最後の合図』

『そうなったら、()()()()()()()

 

武具として正しく剣を与えられたのは後輩唯一人。

ならば、最後に彼女の一撃を持ってくるのは当初からの策。

俺がするのは、その最後に向けての詰めと回避択の消失。

 

宙に浮かせていた瓶の配置を列のように。

獅子と俺の現在位置は互いに直線、その道中を阻害するように配列した消耗品の雨。

手を掲げて右手に集中させながら、本命から目を離すように誘導する。

 

『GA!』

 

そんな叫び声と共に、皮膚から蒸発したような赤白い煙を棚引かせて走る獅子。

明らかに狙っているのは俺だけ。

だから、後輩は後から追いかけるような形を取っている。

 

瓶を地面に叩き落とす。

浮かぶのは様々な属性効果や単なる煙、或いは毒々しい匂い。

其れ等を踏み越え飛び越え、毛に纏わりついても無視して突貫を敢行している。

 

(これで敵意は俺にしか向いてない)

 

初見殺しを決める以上、他の二人に目が向いて貰っては困る。

手で操っているように見せている行為を取り止め、思考のみで操作する状態へと変更する。

既に負担は何方でも変わらない。

ただ、そう見せておいたほうが相手はそれを制限だと勘違いしてくれると言うだけの話だ。

 

能力には制限がある。

特異性を扱う上でも制限があり、得意不得意がある。

 

その事実は理解していても、『迷宮』は何処か画一的にその判断を行う。

意志を図ることはしても、其の為の試練は難易度という面でのみ判断する。

相対する守護者は――少なくとも訓練地帯では――()()()()()()()()()()()()()、という判断なのだと俺は思っている。

 

(だから……制限を利用して、初見殺しが決められる)

 

左手に番えた杖の、握り手の部分を軽く捻った。

それだけで、俺の特異性の制限に掛かる。

 

事前に意識していた、相手の目前に順番に高速で落ちるという操作指示が効かなくなる。

 

『GAGAAAAAAA!?』

 

速度が変わる。

意識したまま、俺の無意識の思考が働かなくなる。

 

自分で理解している最速の落下から、物理現象としての落下速度へと急激に切り替わった結果。

回避できる筈の瓶が遅れて落下し、未だ落ちないはずの瓶が鼻先へ、肩へ、地面へと落ちて散って行く。

 

(視界、鼻、耳、五感は潰した)

 

俺も同じ。

ただ、そうすると決めていた俺と。

何も知らない守護者とでは、その認識速度の差異が生じる。

 

右前方へと身を伏せた。

併せて足を動かしながら、左手は添えたままで右手を振り抜く。

 

杖として扱っていた皮が、内側の摩擦力を利用した発射台と化し。

握り手として扱っていた先が、引き抜かれる衝撃を介して跳ねる。

 

昔、一度だけ見たことがある古い本で主人公が握っていた隠し武器。

昔、店主(マスター)の知り合いに一度だけ教えて貰った技の原理。

昔、未だ憧れる先輩が語ってくれた副武器こそを主武器として扱う事の優位性。

 

其れ等を介し、四年間掛けて磨き上げた奥の手。

 

この動き以外は身に着けず、知らず、教われず。

唯の一振りだからこそ意味を成す、普通に考えれば使用する筈もない行為。

 

(だからこそ、これが通る)

 

視界を遮った獣が飛び出す。

併せて伏せた身を起こし、右前方へと踏み込みながら鼻から左目へと抜け()()()()()

 

名はない。

刀を仕込んだ杖から引き抜いただけの、技とも呼べない居合疑き。

 

『迷宮』を越えるために与えられた能力の全てを投げ捨てて。

唯の身として行うからこそ、知らなければ意識もしない手段の一。

制限を知れば知る程思考の範囲から抜け落ちる、対人向けの剣。

 

僅かな手応えが突き抜けるのを感じて。

悲鳴にも似た声が喉から漏れるのも聞こえて。

けれど、その声は直ぐに消え失せた。

 

振り抜いた(それ)を地面へと落とす。

そして制限は解除され、周囲を掴む感覚が脳裏に蘇る。

 

喉元から、先が欠けた半両手剣が突き抜けている。

右から突いたのだろう刃は過たず、守護者の擬似的な生命を奪い去った。

 

力が抜け落ちていくのが分かる。

ぐらり、と身体が崩れるのが見て取れる。

 

見えていた刃が抜かれ、そして地面へと崩れる物音。

止まっていた呼吸を再開し、地面に落ちた剣を手に取り血を払い。

たった一言、既に三人しかいなくなった空間に呟いた。

 

「守護者戦、なんとかなったな」

 

それだけを。




他人を騙す時は見た目か思考を鈍らせりゃ良いんだよ。
「そういう」制限だと思わせるか、「制限を侵すとは思わない」と考えさせるか。
俺のこれだって、一見すりゃそうとしか思えねえだろ?

                   ――――人外の剣を振るう先輩の言葉
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。