現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『扉』に触れ、後輩二人が続いて触れる。

僅かに瞬いたのは、此処を通る資格を認められたような証。

それは守護者から得た肉体の破片……下層ならば日常的に見掛けることになるらしい、『魔石』の色をやや明るくしたような破片との繋がりを以て認識される。

 

(どっちにしろ受付に提出しなきゃいけねーんだけどな)

 

それが守護者を超えた、一年次のノルマを越えた証として国と学校に繋げられる情報としての証明。

一学期、二学期といった道中の必須ノルマは謂わば名目だけ。

無論それを見咎める指導者もいるけれど、何かしらの証明が必須になるのは学年を上がる時のみの判断基準なんだとか。

 

まあ、()()()()()()()()()調査が行われるから、実際これを越えるなら裏から手を回す何らかの手立てがいる。

どっちにしても何かしらの才能が求められる、という意味では。

高学年の生存者は何らかの実力者であるのは、言わなくても分かることだった。

 

「んー………………?」

 

そして五階毎に設けられた帰還口からの帰還。

数日振りに見る太陽に目を細めながら『扉』から抜け出ながら、周囲を見回せば。

普段よりも人気が多く、そして見知らぬ大人達が出入り口で屯しているのが視界に入る。

 

(なんかあったか?)

 

時間帯的に探索者が出入りしてるのはまあ分かる。

ただ、知らない相手が妙に多いのは時期外れ。

入れるかどうかを確認する『試し』が行われるのは八月の頭、と決められている以上何かがおかしい。

 

「おー……おー……?」

『妙に人多いです、ね?』

 

続けて抜け出てきた後輩が背中にぶつかる。

妙に温い、柔らかい感覚に一歩押し出されながらも同じように周りを注視している。

特に天音ちゃんなんかは顔を隠し、袖を掴んで会話できないことを誤魔化す行為さえもしていない。

 

「取り敢えず受付で処理済ませちまうか」

 

見る限り、集まっている人々は受付周囲には余り見当たらない。

何方かと言えば更に奥、会議室やら職員が控える部屋の方に意識が集中しているっぽい。

 

(何が何やら、だな)

 

付き従うだけの生命体と化した二人を引き連れ受付へ。

余り見掛けない男性職員だったが、普段俺が出入りする時間帯と違えばそれも当然。

ただ、胸につけているのは新人を示す特徴的な証なのが少しだけ気掛かり……まあ後でいいか。

 

「今後輩二人と併せて戻った……んですけど、何ですこの騒ぎ?」

 

夕暮れなんかの受付が混み合う時間帯ではないからか、順番待ちは殆ど無くそのまま運ばれる。

後ろの二人に目線が行って、胸元辺りで視線が落ち着いたのは突っ込むべきなのか諦めるべきか。

袖を握られる力が少しだけ強まり、はぁと小さく息を零した。

 

「あー……ひょっとして暫く潜ってた?」

「そうですね、週頭から」

 

その息と、冷たい目線に少しだけ怯えた様子を見せる職員。

そもそも此処に配属される以上学校に関わった卒業生の筈なんだが、此処まで怯える理由が分からん。

()()()()()()()()のにな。或いは……後ろからの刺さる目線が理由か。

 

「そりゃ仕方ない。ついさっき、四十八階が突破されたって発表があったんだよ」

 

少しだけ、息が止まった気がした。

どん詰まりの解消。

たった一階の更新だが、それでも更に先への道が開かれたという情報。

 

「……前回から結構時間掛かってますよね?」

「詳しくは知らないけど、どうも四十階以降からは地形が殺しに来てたらしいよ」

 

行けるはずがない、と思って調べる気も失せていた事。

ただそれを世間話のように零してくれるのは、多分後輩に向けた目線への謝罪が理由か。

 

「……成程」

「で、潜ってた処理は?」

「これ、後輩二人が守護者を倒した証と戦利品の売却処理を」

 

淡々と流す会話。

目線の色が好色から優秀な相手を見る独特のものへと移り。

けれど俺との距離感を見て、その目の色をまた元へと戻す。

 

「もうかい、優秀だね」

「ええ、目を付けた相手ですからね」

「そりゃ良かった、学校から追い出されるのは辛いらしいから」

「らしいですね、まぁ死んでも捨てないから其処は安心して良いんじゃないですか?」

 

探りを入れられる言葉。

既に手を付けていると明言する言葉。

そうなれば、と言葉にしない誘い。

いい加減黙れ、と叩き切る言葉。

 

(新人、っていうか別の集団(クラン)の息がかかったやつじゃねーか)

 

となれば、見えていた表面上の顔は偽装も含むか。

此処まで言い切れば流石に介入する余地はないだろうけど、先輩には言っとこう。

手を出せば創作者界隈の繋がりから追い出されて地獄見るだろうし。

 

「そうかい……じゃあ、一番大事な規則(ルール)は分かってると思って良いんだね?」

「ほぼ伝えてます……が、確認しときますけど期限いつまででしたっけ?」

「学期末が締め」

「ういっす」

 

そんなやり取りで互いの立場を理解したからか、互いに介入を控える。

ただ、『やり取りが出来る相手』であるという事実は脳内の記録に控えておく。

 

学生証を提出し、暫し売却査定を行って貰う間待機する。

そんな折、隣の席の(俺を挟んで座った)小鳥遊が、恐る恐ると問い掛けてくる。

 

「あの、先輩?」

「んー?」

「さっき言ってた規則って、なんです?」

 

あー、後で言おうと思ってたが聞かれたなら言うか。

つっても一日目だか二日目には説明受けてるはずなんだが、当時はきちんと聞いてなかったか何かかね。

 

「いや単純だよ。今学期中にお前は寮から出なきゃいけない、ってだけ」

「へ?」

 

一拍。

そして叫びそうになったので慌てて口を手で塞いだ。

 

「はんへ!???!」

「うるせー叫ぶな!対応は考えてる!」

 

全員同じだ、と言っても聞かないだろう。

 

周りの迷惑になるだろうが、と。

やはり聞いていなかったのか、と。

幾つも言いたいことはあるけれど。

 

隣の天音ちゃんの目の色も暗く、何かを言いたげに袖を引く。

 

(最悪、暫くはうちに泊まれば良い――――って言ったら怒りそうだよなぁ)

 

実行できるかは扠措いて。

対応自体は考えてるのだし。

今だけは、疲労もあるのだし流させて欲しい。

 

受付前の、小さな待合室前。

二年の春は、そんな場所のそんな叫び声が色濃く焼き付く始まりだった。

 

 

             ――――『Chapter1:雷剣、廻糸、そして浮石』:了

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