現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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能力こうかーい。
地味。くっそ地味。


006

 

地上に戻った時、既に空は赤を通り越して真っ黒。

周囲の明かりだけが奇妙な程に暗闇を裂いている、学校に隣接された『門』の入口。

 

手続き――――『戻ったこと』を報告し。

授業を免除される対象としての承認であり、同時に()()()()()を兼ねた記録を済ませ。

併せて中で手に入れていた子鬼の爪を幾つか提出し、売却手続きを依頼する。

 

子鬼の爪は鉄と似た構成で、けれど鉄よりも軽い明らかな異常の新物質。

だからか、買取価格はある程度安定して保たれていて。

大凡一体分から手に入る分量で、4~5人の一日の食費を少し上回るくらいの値段で買い取って貰える物品。

それが幾らか道中で()()()のは、恐らく彼女にとっても奇運に分類される事象なのだと思う。

 

学生証を読み取って、連れてきた少女も同じように手続きし(やっぱり後輩だった)、少し待つことを指示されて。

ついでに入ったときより頭数が増えている事柄の説明も済ませれば、受付の人が浮かべるのは苦笑い。

毎年のことながら、出来れば発生してほしくない事であるのは間違いなく。

その分手続きが増えるわけだし、被害者のフォローもいるしで大変だなぁと他人事のように思い浮かべる。

 

待ち人案内のソファーに腰掛ける隣には、上まで引っ張ってきた少女が座っている。

缶コーヒー……いやカフェオレか?

今の時期だとギリギリ合うか合わないか分からないそれは、身体の芯を暖めるには丁度良い筈。

それが手の中で湯気を漂わせて、ただ宙に消えている。

 

「少しは落ち着いたか?」

 

返事はなし。

まあ、『迷宮』に潜ってる間は意識して明るく振る舞っていた部分もあるんだろうし。

こうして落ち着いたからこそ、中で起きた事象を改めて認識した部分も絶対にあると思ってる。

 

「取り敢えず、済ませておかなきゃいけない話が二つほどある」

 

だからまぁ、こっから話す内容は余計なお節介、或いは余分な話。

済ませなくちゃいけないことと、彼女が乗り越えなきゃいけないことと、後は純粋な気分転換に乗っかるかどうか。

 

「一つはお前さんの仲間として登録してた三人から、俺とお前さんに()()()が発生するってこと」

 

これは言わなくても分かっているはずの規則。

こういった身内……『探索者』の頭数を減らさないことを目的とした、特例を除けば禁じられたれっきとした罰則。

内申点にも反映されるのは勿論のこと、何年かの間賞罰欄に記載を求められるレベルの『罪』として定められた行為を行われた。

だから、それに対する慰謝料として俺達に自動で引き渡される。

貯蓄がなければ強制的な借金コース。返し終わるまで自動的に売却品から天引きされていくという恐ろしい呪いだ。

 

まだ、返事はない。

 

「二つ目は……まあ一つ目と繋がってることなんだが。

 お前さんが被害にあったことは()()()()()()()()()と思って良いから覚悟しとけっていう忠告だ」

 

逃げ出したとかいう仲間とは、彼女の主導でなければ二度と組むことが出来ない。

そして進学したてである以上、いきなり仲間が解散したとかいう評判は良くも悪くも勝手に広まる。

一応見つけたのが三階だから……俺達の時のノルマと同じであれば、一学期のノルマ達成寸前までは行っていた感じのようだが。

達成した訳では無い以上、何かしらの自助努力を求められる。

()()()()()()()()

 

今度は少しだけびくり、とした反応を示す。

 

……薄々は気付いていたのだろうが、改めて言われたことで再認識したって感じっぽい。

顔が更に俯いて、下手すれば泣かせているような雰囲気へと変わってしまう。

まあ、泣けるだけマシ……かね、この感じ。

 

「だからまぁ、これから先どうするかはちゃんと考えとけよ。同じような先輩からの忠告だ」

 

俺と友人の時はもっと酷かった。

単独行を強いられながら、危険域に自ら突っ込んだアホ共に生命体の群れの擦り付けなんかが少なくとも数回。

露骨な行動は無かったけれど、自然と能力に関して広められ、貶められたのを機に接することを諦めた。

そう云う意味で、俺達は同級生に関しては……愚痴を言ったりはするけれど。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そこまで行き着く前に、何かしら考え付いてくれれば良いのだが。

 

さて、言うべきことは言った。

後は個人に任せましょうかね、と受付側へと目線を向けるのとほぼ同時。

 

「…………ぱい、は」

 

微かに聞こえたのは、『迷宮』で聞こえたのと同じ声色の囁き。

すぐ隣で、真下を向きながら何かを考え込んでいる少女の問い。

 

「……先輩は、何、があって?」

 

それは、聞いてもいいか伺うような言葉。

漸く見せた、気遣うというか相手に気を使う言葉を混ぜられる程度に落ち着いたように聞こえる言葉。

ただ、それは自分と同類を求めるような色合いを秘めていて――――答えるか、少しだけ迷って。

 

「俺ん時はそもそもも何も無い。純粋に臨時で混ぜて貰うか、友人とお試しで潜るのが手一杯だった」

「……何で、ですか?」

「おいおい、いきなりそこまで聞くのかよ」

 

まあ、別に隠してるつもりはない。

自分から公言するには塩っぱすぎる、地味過ぎる能力だから口にしないだけ。

ただ、どういったものなのかは彼女の前でも幾度か見せてはいるんだが。

 

「能力の都合。昔は前衛からすれば危なっかしくて、後衛からすれば邪魔でしか無かったからな」

 

舌に乗せる。

あんまり口にしたくもない、俺に与えられた地味過ぎる能力呼称名。

学校内においては『二つ名』としても定められている、個人を認識する手段の一つ。

 

「俺が浮かんだ名前は【浮石】。与えられた武器は『石塊(いしくれ)』、得た特異性は『浮遊』」

 

ただ、手で投げられるサイズの石ころを浮かせて当てるだけの能力。

特異性の制限は「刃を持たないモノ」、現在移動可能な重さは強化前でやっと10kgに届いた(ふかさいぞん)

操作性は当初はゴミみたいなもので、最初は()()()()()真っ直ぐにしか飛ばせなかったレベルの落ち零れ。

ここからどうあっても、どう移り変わっても、どう進化を果たしても地味という名称からは逃れられない探索者。

 

「一つ上の、多分どんどん下に抜かされていくだろう先輩だよ」

 

【石弾】と呼ぶには威力が足りず。

【投擲】と呼ぶには制限が重く。

【浮遊】と呼ぶには軽いものしか操作出来ない。

 

中途半端を極めたような、唯の地味な能力名を。

少しでも慰めになるのか、と疑う自分を心の中に飼いながら。

口にして――――その音を、彼女の耳へと届けた。

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