「それで私の所に~?」
「いやまぁ、他にも理由は幾つかあるんですけどね」
相変わらずの植物塗れ。
見覚えがないプランターになんか踊っているような花。
匂いは普段と変わらない薬草を煎じた匂いなのに、妙に鼻に届くのはスッキリするような香り。
普段と同じように、衣装も何処か適当な恵先輩の部屋。
久々に後輩もいない……と思うくらいには暫くの時間帯が濃かった気がする。
「あのアホ、いい加減蹴り飛ばさないと周囲が酷いことになりそうなんで」
「ま~うん、それは分かるかなぁ」
やりすぎてもダメだよ、という叱咤と。
分かっています、という頷きと。
一学年しか離れていないが、姉のような導き方に素直に首肯で返事をする。
「……ほんとに大丈夫かなぁ」
「なんか最近先輩の目線キツくないです?」
「そりゃあ、零くんとあの子似てる部分あるもん」
「心外な」
自分でも認めている部分はある。
ただそれを指摘されると思わず言い返すくらいには違う、と言いたい。
「そういうとこ、だよ」
恵先輩はそういう俺の反応を聞いて、いつもと同じ言葉を告げる。
むぐ、と言葉を押し留め。
そんな無粋な表情を見て小さく笑いながら、手元の大きな壺へと再度目線を向ける。
「あ、零くん」
「はいはい、これですね」
「後その横の~」
部屋に入った直後に早口で説明された物質A。
どうやら、今回作ってるのは『爆発薬』に類する範囲を焼き払う効果を持った薬品。
無論それだけで彼女が済ませる筈もなく、奇妙な改造を施している。
曰く、「これを材料にもう一回同じの作れれば濃縮できるし良いの出来るよね?」とのこと。
何抜かしてるんだろうこの人、という目線へは猛烈に抗議されたが。
と言うか、それって秘伝とか言われる類の技だと思うんすよ俺。
「で、これどうすりゃいいんです?」
「刻んでくれる?」
「いつもと同じ感じで良いんですね」
「おっけー」
まぁ、そう思いつつ止めるなんて馬鹿な真似はしないのだが。
特にこんなの完成したとして売りに出すものじゃなく、先輩の武器として使用する程度。
ならば身の安全を護るって意味でも完成した方が良いし、何より作ってて楽しいのは事実。
それが分かっているからだろう、軽口を叩いてもこの人は何も言わない。
ある種の秘密を共有する
今の俺は、そう云う立場でいい。
壁沿いの台の上のまな板っぽい何かの上を軽く洗浄して、端から五ミリ間隔で刻んでいく。
材料によっては磨り潰したり、そのまま放り込んだり。
特段何も言われないなら、大体切っておけばオッケーだと思ってる節をひしひしと感じている。
「あ、後そうだ」
「何か忘れてました?」
「ううん、灼熱草とかじゃなくってね」
先輩が手に持ってる、革手袋越しの薬草じゃないらしい。
アレ、素手で触れると文字通り
皮脂に反応する燃焼反応をその辺の草が仕込んでくるのやめろ。
「千弦くんとも話したんだけど、私達暫く第二階層の探索進めないことにしたからね?」
「へ?」
「あ、勿論『扉』は潜ってるから其処は安心して~」
いや、そう云う話じゃなく。
少しだけ間抜けな返事をしてしまった後で何だが、きちんと問い直す。
「そんなにヤバいんですか、第二階層」
「危ない……っていうのも事実なんだけどねぇ」
ぽちゃん。
液面に灼熱草が落ち、やや透明だった色合いが一気に赤く染まっていく。
「今は、零くん達の手助けをしておいたほうが良さそうだから……っていうのが大きいのかな」
それをぐるぐると混ぜ合わせ、色合いを落ち着かせながら。
色々と説明……言い聞かせるように、恵先輩はその思考に至った理由を説明する。
「ほら、私達は上の先輩と違って他と横の繋がり全く無いじゃない?」
「そうですね、何だかんだあの人達は外れてましたけど横の繋がりは保ってましたし」
多分、外れた理由の違い。
一つの
それに比べ、東雲先輩と恵先輩は……こう言っちゃなんだが、外れるに足る理由がある逸れ者。
互いに事情があるのは知ってるが、繋がりを断ってるというのは明確な差異がある。
「それは良いんだ。最悪、私達は卒業できなくても生きていく伝手は持ってるし」
私自身とか売れるかなぁ、とか笑って言いつつ。
全然笑えないのでやめてください。それなら買うんで。
「ただ、零くん達がしようとしてることは……最終的には
「……ですね。集団の拡大って側面はありますけど、手出しされない立ち位置まで行くのが目的ですし」
無論、その中には先輩方も含む。
勝手に巻き込んでいるのは、俺のエゴ。
「上の先輩たちを巻き込むんじゃなかったら、
「まぁ、それ、は……?」
ただ単純に採取するだけじゃない。
それを用いて加工し、売却するところまで踏まえての立場の確立。
一次産業だけじゃなく、二次、三次……加工貿易のような流れさえも踏まえて見据える必要がある。
そんな新人が、他の集団よりも前に出るために必要になるもの。
新たな材料――――ではない。
「ずっと弱いって見下ろされてた零くん達が、
目立たない理由を持つ先輩達の手助けを受けた程度で、最も深く潜れれば。
それは、相応に探られるだけの理由を得る。
彼女は今、そういう事を言っている。
「……言いたいことは分かりました、ありがとうございます」
俺達のことを考えてくれているのもよーく分かった。
「ただ、自分達を卑下するのはホント勘弁してください。俺がキツイんで」
それはそれとして。
これは、言わなきゃ駄目なことだろ。
「……ほんと」
「?」
「そういうところ、ズルいよね」
にへへ、と小さく笑う声がする。
でも、何処かその声は作り笑いのようにも聞こえた。
「事実なんですから、何度でも言いますよ」
「調合できなくなっちゃうからやめて欲しい、かなぁ」
何故か、は。
決して口にしてくれなかったけど。