現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「いい加減話す気になったかお前」

「何でもねーよ!」

 

あの後、教室を抜け出して話題を変えようとしたアホ。

普段ならもう少し落ち着いて対応するはずなのに、その焦りに妙な勘繰りが浮かんで問い掛ける俺。

こんなやり取りを繰り返しながら、やや早足で逃げる奴を追いかける構図で移動すること約十分。

 

学校の直ぐ隣に設けられた施設とは言え、その学校自体のサイズがかなり大きい。

この国全体で幾つか似たような施設があるとは言え、全国から望んだ人数が入学するだけあって一学年の数は相当なものになる。

 

……まあ、学年を上がれるか、卒業できるか。

そういった部分で明確に削り落とされていくから、適正人数を常に保てていると言う側面もあるのだが。

それでも国民数が激減した各国にとってはこれも大打撃、何とかしたいと動いている気配だけは感じる。

 

(無駄なクレーマーが一切発生しないって時点で()()()()よなぁ)

 

店主(マスター)が現役の頃は騒ぐだけ騒いで対案を出さないアホな市民団体がそれなりにいたと言うが。

そいつらを追い払う法案が速攻で通り、文字通りの刑法として裁けるようになってからはまるで見ないらしい。

探索者、と言うだけで若干テロリスト予備軍みたいに見られるのはぶん殴りたくなるから助かってはいるけれど。

 

「ならもう少し落ち着いて話してもいいだろ……?」

「お前がしつこいからだが???」

「そっくりそのまま普段のお前に返してやろうか?」

 

明らかに焦ってる。

今までの体感上、此処まで露骨に焦るケースは早々ない。

あるとすればこいつにとって明確に大事にしてる相手とか、事象とかになるんだが……。

 

(孤児院に行く、って漏らしただけでこうなるって何だ?)

 

正直一番引っ掛かってるのが其処。

素直に失言を認めて多少でも話すなら普通に流すのに、それさえも出来ないとなると。

 

(…………やっぱり…………お?)

 

『迷宮』に潜ることよりも大事にしていることで、出来れば周囲にバラしたくない事。

幾つかに焦点を当て、絞り込もうとした時。

 

『………!』

『…………』

 

少しずつ近付いた受付口での男女の叫び声。

正確に言うなら、少年が何かを喚き、女性がそれに対処しているような感じ。

そのどっちかの声に、奇妙な既視感を抱く。

 

聞き覚えのある声。

でもそれが誰か、というのに噛み合わない感覚。

 

「チッ」

 

ただ、その声を聞いて明確に顔色を変えた。

と言うか舌打ちまでして、脚の速度を更に早めた。

 

おい、という声さえも聞かずに少しだけ小走り。

それでも尚周囲に注視されないのは、どれだけ此奴が『軽く』見られているか、というものか。

 

『なんでこんなに安いんだよ!』

『買取価格の改定があった、と何度も説明しておりますが』

 

聞こえる内容は極単純。

明らかに幼い少年の論争、と言うか文句に職員が対応していると言うだけの話。

 

『昨日の今日でか!?』

『その通りです……と一辺倒の返事しか出来ませんが』

 

そんな事をしても一厘にもならず、寧ろ肉体的にも精神的にも損をするだけの行為。

誰も咎めないのは……もしかすると、同行した仲間さえいないからか。

 

「……は?」

 

ただ、近付くにつれ。

声が正しく聞こえ、内容と声色が耳に届いた後。

その片割れの主に思わずそんな言葉を漏らしていた。

 

(いや、なんで?)

 

聞き間違い――――ではない筈だ。

 

それはあのアホが受付に真っ直ぐ突貫していると言う事実で確定する。

此処まで露骨に態度を見せる相手、で絞れた相手の中の()()()()()としていた大穴。

少なからず面識を持つ相手であり、こんな場所にいない筈の人。

 

『おい』

『ああ!?』

『邪魔だ、此方だって急いでんだよ』

『五月蝿え!』

 

明確な喧嘩を売りに行く。

普段ならなぁなぁにして話を流してこっそり処理する筈なのに、そんな気配を欠片も見せない。

……多分プッツン行ってる。

相手から手を出されるような態度を見せ、そしてその通りに手を出してしまった。

 

受付の人と目が合った。気がする。

少しだけ気不味そうな表情を浮かべたので、瓜二つの相手じゃないので確定。

と言うか此方も気不味いんだが。

 

『失礼、少々此方に』

『おい、何だよ!』

『私達の値段裁定に意見があるようですので』

 

ほら、明確な対処の基準に引っ掛かった。

他の探索者が後ろに並び、それにさえ文句を吹っ掛けるような態度を見せた。

だから、今日の守衛に引っ立てられていく。

 

暴れようとして、腹部に一撃。

それだけで呼吸が止まり、そして動かなくなったところを引き摺られていく。

 

(あーあー、やっちゃった)

 

受付だけならまだ許される。

査定相手でもまあ問題ない、相手に対して交渉する自由は認められている。

それでも、同じ善良の探索者に対しての手出しは駄目だ。

文字通りの禁止、創作物での後輩に対するちょっかいだって認められた訓練領域(トレーニングエリア)でしか許されやしない。

 

頭に血が上るとその辺の制限を忘れる前衛役はまあ割といる。

だからこそ、口喧嘩で済ませろと口酸っぱく教えられるはずなんだがな。

 

まあ、見知らぬ相手はどうでもいい。

本来なら目を合わせてすっげえ何とも言い難い空間を作り出す二人を他所に。

俺と受付の女性の人が、凄い気不味い表情を向け合っている。

つーかアホも我に今更返ったのか諦めたのか、死ぬほど深い溜息吐いてるんじゃねえよ。

 

「……あの」

「……はい」

 

太い黒縁眼鏡で顔の半分近くを覆う、一見すると弱気そうな赤髪の女性。

つい先程まで言い合っていた相手とは思えない態度だが、俺にはそれなりに言う権利がある。

 

「何してるんですか、()()()()()

「言わないでー…………!」

 

顔を両手で覆い隠し、見える範囲で髪と同じように真っ赤にし。

見られたくなかった、と全身で表現している人に対し。

もう一度溜息を吐くアホに、周囲から見えないようにしつつ脇腹に一撃。

 

お前知ってただろ絶対。

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