現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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まあ、こういうケースもあるよねって話。


065

 

不知火九十九(しらぬいつくも)

俺達より二つ上の、学校卒業生(二十五階到達者)にして世話になった二人の片割れ。

 

「……何してんですか?」

 

そんな人がこんな場所にいることに、呆れと言うよりも先に浮かぶのは戸惑いだ。

 

顔を少し伏せたまま、テーブルの上で漂う白煙を見ることさえしない。

直ぐ側にある軽食を取るためのチェーン店内部。

少しの騒動の後その人を引き連れて受付口から出た俺達は、そんな店内の片隅で彼女を問い詰めていた。

 

「いや、ね……」

 

二月程前。

先輩方と最後に顔を合わせた時に聞いていたのは『第二学園』への()()()

俺達が通う学校よりも西南に位置するそんな場所で、此方の知り合いと金を稼ぎに行くと聞いていた。

にも関わらず、たった二ヶ月でこの場所にいるのを不審にさえ思ってしまう。

 

「ついでに言うがお前も知ってたんだよなぁ????」

 

無論問い詰める相手は彼女だけじゃない。

隣の堂々とした、ついでに言うとずっと先輩の顔を見てるアホ。

此奴先輩のことになると急に暴走するからマジで困る。

 

「ついこないだ聞いた」

「なら言えよ!」

 

部屋探しとかにあんだけ時間かけといてこれか!?

鉄塊頭に叩き込んでやろうか、と静かに怒りが頂点に達するかどうか。

一つの視点は冷静になれ、と訴えているが一つの思考がまともに想像通りに行かない事にキレ散らかしてる。

 

「言ってもどうにもならんことなのにか?」

「お前にだけ、ってのが水臭いって話が分かりませんかねえ……!?」

 

異性的な目線とかそういうのは一切無い、マジでない。

ただ純粋に世話になり続けた相手から一切頼られない、ってのも地味に凹む。

隣のアホには通達しといて。

…………いやまあ最初に連絡するなら此奴か妹になるか、とは思わんでもないのだが。

 

「あっ、あの」

 

少しだけ熱してきた空気を遮るように、先輩が声を発する。

上目目線で見詰めてくるのは、多分に謝罪の意味を込めている……んだろう。

横目で此方睨むなアホ。

 

「……雄次くん、は……悪くないの」

 

先程と違う口振り。

ただ、この表面も先輩の一部。

 

冷徹な面と、臆病な面とを併せ持つ色々な集団(クラン)を渡り歩く探索者。

目覚めた能力による影響を踏まえて、それがこの人の選んだ道なのは良く知ってる。

 

()()()()()、と思ってしまう部分もある。

 

一度大きく息を吸って、吐いた。

自分も同じように焦っているのだと認め、落ち着こうと意識してゆっくり呼吸した。

 

「おいアホ、説明しろ」

「あ゛?…………いやまあそうだな、俺がした方が良いわな」

 

一瞬沸騰。そして即座に鎮静。

事この二人のことに限っては、俺達はある種の実績がある。

最初に二人を出会わせ、この奇妙な状態まで何とか結び付けた、という色々な苦労。

()()()()()()()()とは言え、それを知ってるからこそ。

他の誰もが介入することを望まないらしい二人ではあるが、俺達の仲間内ではその望みは叶わないのだ。

 

(とっととくっつけって何億回思ったか知れねえんだが)

 

無論、全く関係ない時にやろうとすると手痛い反撃が待っているのは間違いないが。

お陰で包囲網がどんどん形成されてることを理解してんのかなこのアホ。

 

「って言っても単純なんだが……単純だからこそ対応に困るっつーか」

「はっきり言え」

 

多分、孤児院に行くって話は九十九先輩の話と繋がってる。

そんでもって俺達を含めた後輩には話さないようにしてた、ってところから多少推察は出来る。

だからとっととしろ、と先を促し。

 

「……治療室への借金のせいだよ」

 

返った答えは推察通り……ではあるが、その相手先が不可思議で琴線に触れた。

 

「九十九先輩がか?」

不確定出現体(ワンダリング)に遭遇して先輩以外全滅、先輩も何とか帰れたが意識不明の重体だったんだよ。

 んで、その治療に使ったのが回復薬……それも対重症用のやつでな」

「あー……」

 

俺達は会ったこともない、会うはずもない……更に下で出るようになる、出現階層自体がズレた生命体。

その強さは下手に遭遇すれば死を免れないと名前だけは聞いたことはあったが。

()()()それに遭遇して、()()()()ギリギリで生還した……と。

 

「相変わらず変な帳尻合わせに会ってますね先輩」

「ぅぅ……」

 

不運、と言うよりは悪運奇運と呼ぶべき何か。

そんなおまけを特異性の副作用として帯びる先輩は、必然的に強くならざるを得なかった。

その御蔭で生き延びれたのだ、と思う……方が気は楽になるんだろうけどなぁ。

 

「んで?」

「取り敢えず総額一千万、これがある程度返せるまでは『迷宮』に潜るのも制限掛かってるってよ」

「詰んでるじゃん」

 

いやまあ言いたいことは分かる。

下手に潜って死なれたら明らかに損だもんな。

だから多少は安全性が担保された地上で働いて返せ、ってのも分かる。

でもそれにどんだけ時間掛けるんだよ、受付にいたのもその一環のバイトか何かか。

 

「……ん?」

 

いや待て、それ自体が目的か?

要するに、金で言うことを聞かせられる優秀な探索者を子飼いに出来る、っていう。

自分で口にしといて疑問が解消するような感覚。

 

「……なぁ、アホ」

「多分お前の思ってるとおりだが馬鹿野郎」

「罵倒される理由無くねえ?」

 

お前が関わってんの借金の連帯保証人、ってことか!?

それならある程度の納得は通るが。

 

「なんでお前は潜って良いんだよ」

「潜らなきゃ卒業も進学も何もねーだろ」

「あ、そっちが優先されんのか……」

 

要するに、何だ。

この人を解放するのは金が掛かる。

なので普段以上に気合を入れる必要があるし、金を稼ぐ必要がある。

なので二人の力でなんとかしよう、ってことだよな。周りに頼らなかったってことは。

うんうん。

 

「あの、九十九先輩とアホ」

 

取り敢えず、他全員の(聞かなくても分かる)感想を述べる。

 

「ぶん殴っていいですか?」

 

言えよ、頼れよ。

 

「絶対そういうと思ったわ」

「お前だけはマジで殴るから覚悟しろよ、我が最強の武具で」

「唯の石じゃん」

「お前の頭かち割るには十二分だと思わんかねドアホ」

 

マジでやってやろうか。

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