「この階層は基本洞窟巡りが主になる、でいいんだよな?」
「の筈だな」
前回採取した木々の周辺。
もう少し山道を登れば洞窟の入口に辿り着く場所で、その方向に進むことを拒絶する俺達。
触れるのは、目の前の少しだけ特殊な左右に振れたように生える木々其の物。
何処かゴツゴツした手触りは、手元の杖の手触りと一部合致するが少しだけ違う。
俺の手に合った形に整えられているからなのか、或いは特異性で弄った場合はこうなるのか。
その比較さえも出来るような状態に、今の俺達はいる。
「じゃ、どっちから回る?」
「取り敢えず下りよりで入口に戻ったらそのまま半周でいいだろ」
「おーけー」
耐熱性が高く、樹皮に至っては多少の高温……炙られた程度では熱を通さない程度の性能を抱えている。
反面、内側の繊維は火に弱い代わりに耐冷性……というよりは温度が変わりにくい特性を有している。
重ねて考えると、本来は水筒とかそっちに利用するのが割と最適。
比較的値段は高いとは言え、一般的に出回っている『迷宮』産の素材の一つとしては有名だろう。
(ま、お陰で其処まで大した金にならないってとこが欠点だが)
問題は
前回持ち帰った幾らかの時は空間に格納したから重量は感じなかったが、基本的に取引は丸太か木々そのまま一本か。
要するに前衛型に比較的見られやすい重量変化型の肉体作業のバイト、という形が主流過ぎる。
今から噛むには流石に遅すぎるし、対応出来る理由もない。
同様に、たまに木々の上……葉も殆ど無い枯れ落ちたような枝の先に作られる鳥の巣も稼ぐ根幹への介入の仕様がない。
こちらは狙えば手に入るボーナス的な側面があるから一時的な売却は可能だろうが、何度もやれば目を付けられる。
既に先行組が相応の利益を作っている場所に踏み入れるには、やはり必要となるのは独自性と新規性の二つ。
「お前の目から見てどうだ?」
「食い繋ぐのは余裕、チビ共に分けるのだとあんまり変わらん、発展性は微妙……ってとこだろうな」
「やっぱ何かしら種になる部分はいるよな」
同じように木々を見上げ、視界の果て……この階の端までを辿ろうとする目色。
モノを作る、という目だけで考えるのなら創作者も当然同席するべきではあるが。
先ずはその前提、入手難度や再現性を含めた部分を何も無い目線で見ておきたかった。
「此方で簡単に稼ぐ、なんてのはまあ夢のまた夢だよなぁ」
「異物が手に入る集落やら宝箱が出る場所も秘匿されてるのは当たり前だし」
「やっぱ本気で稼ぐなら二十六以降になりそうだわな」
「其処まで行くのにどんだけ苦労するんだって話ではある」
「そりゃそーだ」
ノルマを越えた先。
正しい意味での探索者と名乗れる目標階、二十六。
ただ、其処に辿り着くまでに必要な準備――――金集めで詰まっているんじゃ空想でしか無い。
日々稼ぐのは当然だが、其処に上乗せできる何かが絶対にいる。
「あの辺が端か?」
「基準が分からんからな……」
特段生命体と遭遇することもなく歩むこと数十分。
洞窟内は迷路のようだが、何方かと言えば地下に降っていくような形を取る。
だからか、案外狭く感じるのは上の階層の二次元的な広さを前提としてしまっているからなんだろう。
凸凹とした岩地。
上も下も洞窟らしき場所も見えず、ただ入口の『扉』側に向けて狭まっていくように感じる漏斗状。
多分頂上(と仮に呼ぶ)方面は四角形の角のように急激な角度を持って道を阻むような気がする。
「じゃ、想定通りに」
「おう」
此奴は周囲を警戒し。
俺は自分の周りの空間を浮遊させる場所として捉えて。
空間自体を把握しながらも少しずつ降って進んでいく。
生命の気配がまるでない。
実際には隠れ潜んでいる階層だからこそ、二重に警戒をしながら地図を記しながら進む先。
「……ん?」
壁に妙な反応があった。
「どうした?」
「いや……なんだこれ?」
基本的に俺の特異性は
浮かせようとする見えない意思に反響し、それが可能不可能と判別する部分と。
空間自体に染み渡り、周囲と違う物体を見分けて脳裏で返す部分。
その基準は武具や操作している武器、或いは俺自身のどれかになるわけだが。
今手元でふわふわ浮かべている鉄塊から返る、空間自体には余り違和感がない違和感。
例えるなら――――アレだ、壁沿いにある洞窟の入口で見えない何かに阻まれてる感覚。
「ちょっと警戒頼む」
「何だよ?」
「幻覚……でもないんだろうが、何だ?入口が塞がれてる出入り口、みてーな?」
自分でも良く分からない感覚。
直感に従うまま、周囲と何ら変わらない岩沿いの壁の一角に鉄塊を叩き込む。
本来はべこり、と埋まるか妙に硬い感覚に呑まれるだけの筈。
にも関わらず先っぽだけが何かを突き抜けるような、
一旦戻す。もう一回。
また戻す。もう一回。
少し下げて、もう一回。
本来なら力技で、或いは特異性でどうにかこうにかするんだろう壁……でいいのかこれは。
視線と僅かな疲弊で往復させ、人一人が潜れるかどうかくらいの大きさの穴を作り出す。
狭さは……本当に小さい、十歩くらい歩けば多分奥まで辿り着けるくらい小さな洞窟のよう。
「……なんだこれ」
「こっからは寝るべき場所も隠されてる……とか?」
「ありそうで嫌だな……」
空間解錠。
手元に
少しだけ上空に持ち上げれば、その内部が全て映し出される。
俺が下。
此奴が上。
顔を重ねるようにして、中へと目線を向けたその先。
「なぁ」
「ああ」
その中央の地面から、何か一本伸びている。
「これってさぁ」
「想像通りじゃね?」
だよなぁ、多分。
これがそのまま『石の花』とか言わんよな?
『秘匿』『理不尽』『有り得ないモノ』
――――『石の花』の花言葉