手続きを終えた帰り道。
何故か送っていくように指示が出された俺は、嫌々ながらも寮の方へと二人で歩いていく。
(今日中に渡しに行くのは流石に厳しそうだなこりゃ……)
訓練期間までは学校で確保した寮で男女分かれて暮らし。
事実上の『探索者』として動き始める第一層、十一階以降へと潜り始める俺達の歳からは部屋を借りるか家を買うか。
どちらにしろ追い出される、という事態は変わらない。
だからこそ、家賃確保的な意味でピーピー言い始めるのが一般的な同年代らしいんだけど……。
良くも悪くも、俺はその一般に該当しない。
得られる金銭は丸取りで、道具を作る職人との伝手もある。
けれどその分安全リソースはかなり重めに取る必要があるし、必要な素材回収依頼は頻繁に入る。
何方がマシなのかは、今の俺には到底判断できない。
ただ、まぁ。慰謝料として振り込まれた金額は、そんな俺でも内心小躍りするくらいには高めではあったが。
(結局、未来を切り売りして手に入れた金ってのは変わらねーからなぁ)
ちらりと隣へと目線を向ける。
やや下を向き、何事かを考えているような横顔。
今考えているのが、思い余った行動でなければ良いのだが。
こうした時に一歩踏み込むのを躊躇してしまいそうになる自分の性格に、少しばかりの嫌悪感。
「で、これからどうするつもりだ?」
ただ、踏み込まないわけには行かない。
俺のときも、相手の手出しが明らかに多いのに手助けしてくれる人達がいたからこそ独り立ちできた。
それが向こうにとっての将来の利を大いに含んだビジネスライク的な側面があったとしても、だ。
だからその連鎖を、俺の気持ち一つでへし折るわけにもいかない。
声を掛ける位は、金にならずとも気軽に行える行為なのだし。
「どう、ですか?」
「言っとくが、落ち込んでられる猶予はマジで少ないぞ」
声色は先ほどよりも上向き。
ただ、『これから』の部分を認識出来ていないような疑問。
まぁ……この辺は誰かから聞きでもしなきゃ分からんだろうし、自分の身に降り掛かってきたときにはもう遅いって気付く類だもんな。
「お前さんがどういう
つまりは『探索者』失格、それ以下。
一般的な、表の手助けは何一つ期待できなくなると言って良い。
残されるのは、裏の道か身を売るか、
親御が生きてるならまだしも、そういう縁を培う場所でもあるこの場所を追い出されるという事実を認識してないやつはそれなりにいる。
大抵が一般的な――――
「念の為聞くが、お前さんが聞いてる一学期のノルマはどこまでだ?」
「え、えっと……三階までの踏破、です」
「俺達の時と同じ……ならまぁ、死傷者含めて九割残れば良い方じゃねえかな、多分」
「はい?」
急に此方を向き、目を白黒しているがそういうもんなんだよ。
想定していないときにこそ死が訪れる、ってのは何の言葉なのかは知らんが的確に今の現実を指し示す言葉だと思う。
追い出されるやつ以外にも死傷し、一時的、或いは恒久的に仲間を喪失する奴等は絶対に出てくる。
そういった時に一時的にでも潜れる縁を持っているかが重要になるんだが……。
『切り捨てた』側の人間は、そうした切り捨てられた側の人間にこそ原因を押し付け、誘わない傾向にある。
要するに身内で固めるグループ化、発展して【
結果残されるのは、弾き出されて動きようもなく単独で食い繋いでいくか、或いは追い出されるかのほぼ二択。
今、少女はその線の上に立たされている。
そんな感じのことを簡単に説明すればする程、落ち込みが激しくなっていく。
……まあ、急に飲み込めってのが難しいのは重々分かってるが。
それはそれとして、何かに転嫁できないとやってられねえぞ――――とまでは言ってやらない。
自分で気付くべき。うん。
「だからまぁ、どうにか手段見つければ良いんじゃないか?」
それに、
特大のヒントに近い言葉も今くれてやったし、後は気付けるかどうか。
(さて、どっちに振れるかね)
結局のところ、生死の半分以上が直感と運に左右される俺達だからこそ。
今対応できるのかどうなのか、それが知りたい。
もし、俺が思える最大の解答を返せるのなら。
「先輩」
「ん?」
寮まで残り一分か二分。
辿り着いて別れれば、そこでさよならの関係性。
数分近く無言で、何かを迷っていたような素振りを見せていた隣の後輩。
何かを振り切るように、小さく俺のことをそう呼称した。
「そういえば、自己紹介も出来てませんでした」
一息。
「【雷剣】と、そう聞こえました。 与えられた武具は『
続けて耳に届いたのは、彼女自身を指す能力名と自分の
それを語るというのは、即ち。
「
受け取るだけの立場から、自分の情報を切り売りする覚悟を決めたということ。
頼む、という何も差し出せない立場だからこそ出来る懇願。
「……
そして、俺が思っていた最大の返答。
下手に手に入った泡銭での依頼だったら其処で切っていた。
金銭だけの関係性、最初から最後まで其処で結び付く相手は……駄目だ、信用できない。
そう、身に沁みてしまっている。
「
少しでも、後に痕跡を残せるのなら。
「生きるための方法なら教えてやるよ、将来取り立てるからな……忘れんなよ?」
「忘れられませんよ、こんな怒涛の夜のことなんて」
そんな冗談を交え。
残り数十秒の夜道の会話は、今更の自己紹介と。
小さな互いの笑い声で、幕を閉じた。