「先輩!」
ばたん、と扉をこじ開ける。
「ぁ、ぇ、何?」
既に日は暮れ、とうに夜と言って良い時間。
普段なら出入りすることもなく、あったとしても部屋で眠らせて貰うような頃合い。
だからこそこちらを見てビクリ、と反応した恵先輩は何も悪くない。
肩紐が左側だけずり落ち、腕を伸ばして整えながらも白衣の前が全開なので余り意味がない。
と言うか珍しく研究者モードの思考に陥っていない。
「どんな運してんだ彼奴」
「……」
ついでに言えば、色々と理解不能なまま付いてきた雄次と。
物事を聞きつけて顔を覗かせに来た、笑っていない天音ちゃんもセットでいる。
東雲先輩にも聞きたかったが、どうにも今日はタイミングが合わず出ているらしい。
「先輩が言ってたアレっぽいのを見つけたんですけど、まさかこれじゃないですよね!?」
「アレ…………ってああ、もしかして花のこと?」
「それですそれです!」
探さなければいけない、と聞いていたから本腰を入れようと思った矢先のこと。
どうして良いか分からず周辺の土毎回収してビニール袋に覆ってきたが、そもそもこれで正しいのか。
置いてきたままにするのは明らかに不味そうだったので採取してきてしまった部分は大いにあるのだが。
「見せて見せて」
『……何取ってきたんですか、センパイ』
「いや俺も良くわからん、探せって言われてそれっぽいのを此奴と見つけてきただけ」
それぞれで採取した一つずつを目を輝かせた先輩に見せる。
ついでに、意識して先のことは伏せておく。
余り言う必要性が無いのは勿論だが、天音ちゃんの場合またぶっ飛んだ思考をしかねない。
そういった意味合いでは、彼女は小鳥遊の正しく同類なんだと思う。
「おー、見つかったんだ~」
「これで良いんですか?」
「うん、
「「は?」」
あれ、今なんて言った?
一人当たりって言ったか?
「何その顔」
「いや、すいません聞き間違いかも知れないんでもう一回聞いていいですか?」
「あと一人十四本くらい、何度言っても変わんないけど」
「やっぱ聞き間違いじゃない!?」
と言うか『石の花』なのは確実でいいのか!?
あんな変な場所に生えた何かだと思ったから想定はしてたけど!
つーかこれは花か石かどっちなんだ!
同時に幾つかの考えが浮かび、消えていく。
差し出すように前へと伸ばした手の先、触れたままのそれをもう一度改めて視界に捉える。
花弁の辺りが硬化し、触れるとその辺に転がっている石を思い起こす。
けれど其処に繋がった茎らしき部分から段々と植物のように緑色を取り戻し。
根まで生え、何かしらの栄養素を吸い上げて形取っているのは間違いなさそう。
「ちょっと勘違いさせちゃったかなぁ、改めて説明しとくね~」
貴女からは名前しか聞いていない、と問うべきか少し悩み。
ただ受付に聞いていない、聞かないだろう先を示した人に聞いてもちゃんと答えるか分からず。
一旦はきちんと説明してくれると信じ、その内容へと耳を傾ける。
『あの、何を?』
「ごめん、ちょっと後で纏めて質問にしてくれるかな」
今問い掛けられると混乱する一方なので。
脳裏のメモに記入しつつ、残りの数も併せて書き記しておく。
「確かにこれは『石の花』。
でも……準備しようとしてるアレはこれ一本で一枚作れる程小さくない、のは分かる?」
「単純に考えるだけでいいなら、まぁ」
どう使うのかは分からんが。
同じく一本分の権利を持つ雄次と顔を見合わせ、同じく首肯しながら返事をする。
「心配しなくても文字通りの意味だよ~。
この花弁の部分と茎と、つまりは鉱物と植物の繊維を合わせる必要があるの」
説明された時は現物が無かったからだ、と堂々と。
いやまあ、彼方此方で集めてるならそれだけ希少なのは言わなくても分かるが。
「で、編むための糸は私みたいな錬金……素材加工型の創作者が。
その糸を原料に作るのが防具を専門にしてる
「……さっき言ってたくらい、っていうのは」
「勿論、その人の体格次第で少し必要量が変わるから」
大きめのを作って貰えば良い、と言う考え方も無くはないだろう。
ただ、この生成する異物は防具……身に纏うもの。
出来るだけ当人の癖に合わせて作ってもらうのが理想。
(……これを集団参加報酬にするなら、常に何個かの予備を用意してるってことだよな)
そうなると、長年形成されている集団は掻き集める為の手立てを用意しているということでもある。
迂闊に外に公開しないのはそういう部分の……先行者利益が絡むのも間違いはないだろう。
「それに、この『石の花』ってちょっと厄介でね~?」
「と、言いますと?」
「直射日光に当てちゃうと駄目になるの、文字通りゴミになっちゃう」
「あー……」
何も知らないなら……まぁ確率は低いだろうが取り出してしまって駄目にする可能性もある。
扱い方を知らないなら更に悲惨だ。折角確保しても正しい利用手段を知らなければ同様に失敗する。
だからこそ、有能な創作者の伝手は幾らあっても足りないのだが。
「逆に聞くけど、これ何処にあったの?」
「十一階の……壁沿い、だよな?」
「だな」
「そっちかぁ。
まあ見つけたなら分かると思うんだけどね、生える場所って必ず四方周囲を囲まれた場所って決まってるの」
それは…………。
俺のような空間把握系か、違和感を抱けるだけの特異性か、経験か。
そのどれかがなければそもそも見つける大前提さえ達成できない。
「私達だと千弦くんも見つけられるけど……一人だと、ほら、ね?」
「まあ一年あっても人数分は無理でしょうねえ……」
『???』
あの洞窟の中で隠された場所を探せということ。
正しい扱い方を知り、正しく加工できる伝手を用意して、見つける必要がある上に個数がいる。
この前提条件を満たすのって思ったよりキツくないか?
「私も養殖してみたかったんだけどなぁ」
「余裕があればやれば良いんじゃないですかね、俺は嫌です」
「だよね~」
多分実験しようとしてたけど一個も見つからなかったんだろうなぁ。
互いに笑い、一人が苦笑し、一人が未だに真顔。
そして三人を取り囲むように糸を放って、一言。
『きちんと、説明してください』
やっべ絶対怒ってる。