「小鳥遊ィ!」
「分かってます!」
見上げる程の高さを持つ生命体……鉱物、造物型である岩人形。
その劣化と呼ぶべきか、目の前に現れたのは固く圧縮された土人形の群れ。
けれど、そのどれもが前衛に立つ剣士の二重に加速する刃の前に倒れ。
後方から気取られないように、暗殺者が一体ずつ数を減らしていく。
(周辺、乱入無し……後方からも音はなし)
その部屋一帯を覆うように自身の空間として認識しながら、外部からの干渉を感じ取る。
宙に舞い続ける鉄塊と幾つかの薬瓶は、万が一があった時に当てる為に衝撃に弱い特注の素材品だ。
同時に一本の糸で結ばれた治癒役もまた、合間を見て糸を槍として突き刺しては朽ちさせる。
「天音ちゃん、全部任せる。俺は此処からの道確認に入る」
『分かりました』
その場に待機すること自体が俺達に不利に働く。
その事実を認識してから、動き始めるまでは早かった。
事前に一度探索している俺。
周辺の確認という名目で生命体に一通り当たったらしい雄次。
それぞれで確認していた部分は違うが、重ねればある程度の推察と動く目安くらいは組める。
そして導き出した以前の採取場までは片道で一時間程度。
守護者戦直後に突っ込んでくるとは思いたくないが、事実上前後から挟まれているような状態なのは変わらない。
戦闘其の物を鍛錬であり練習として、各々が身に着けた技術を認識し鍛え、稼ぐという基本動作。
そうして当然に『出来る』と思ったらしい行為は、後輩二人の特異性の変異に大きく反映されている。
ただ、俺達のような単独で動く事を前提とした能力でなく。
何方かと言えば攻撃力や破壊力といった分野に特化したのは……現状だと間違いとも言い切れないから困る。
「前方三体、切り崩します」
「その後は雄次のフォローと『魔石』回収に回ってくれ」
一番それに向いている能力だからか、指揮をしながらの援護役として動きつつ近付くのを殴り倒す俺。
一番目立つ対象がいるから、それよりも影を潜めて暗殺に集中することで確実に数を減らす友人。
そんな、何方かと言えば補助、副役割としての動きが主体となる俺等と異なり。
「おっけー、です!」
小鳥遊が得た武具は恐らく……と言うかほぼ間違いなく十拳剣。
今まで扱っていた武器よりも多少短く、直剣……或いは長剣とでも呼ぶべき刃渡りに落ち着いた代わり。
彼奴の動きに適した長さだとでも誇示するように、刃と鞘とを併せて斬撃と打撃の両面を利用している。
斬れ味で切り裂くような和の刃というよりは西洋のものに近い。
重さで叩き切る、という役割に近いのは多分今まで扱ってきた武具で染み付いた癖の部分もあるのだろう。
天音ちゃんの糸はそれに比べると一見は地味。
ただ伸ばし、小さな穴を開けるだけとも思えてしまう暗殺武具に親しい。
だが、此奴等が本当の意味でヤバいと思ったのは武具ではなく。
それに付属するように付いてきた特異性の発展、『付与』による
『脚は縫い止めますね』
「動きは気にしなくて良いってよ!」
「助かるー!」
そんな言葉を呟いて。
伸ばした糸が土人形の脚を貫き、地面へと軽く触れて僅かに縫い止める。
そして同時に、貫いた土人形の脚が僅かに風化したように崩れ去る。
併せて飛ぶのは、そうすること自体が楽しいからなのだろう。
体内に『付与』することでの神経の強化、反応の過敏化。
体表上をも覆っているその付与に加え、明確に可能になった別属性としての自身強化。
一歩、二歩、三歩。
ただ歩いているように見えてその場で跳び、視界の死角へと飛び体勢を整えながら回転の力を加える。
その際に肘や膝、そして剣から僅かに浮かび上がるのは赤……要するに炎による急加速の自己強化。
炎其の物を纏わせるのではなく、発生する力を利用しているのはどうにも彼女らしい。
俺が扱う技とも呼べない仕込み杖は何方かと言えば動かず、相手の動きに反射する待ちの隠し玉。
それに比べて自分から動き回り切り捨てる動作はどうしても派手で、けれども似通う部分がある。
(もう少し使いやすければ俺も色々と扱ったんだがな……)
明確な欠点、刃物を所持したり操ろうとした時点で特異性の全てが解除される。
それを使おう、利用しようと思わなければまだ問題ないのはまだ救いとでも思うべきなのか。
『どうしましたか?』
「いーや、やっぱ格差って追い求めると幾らでも出るよなって話」
ただ浮いている鉄塊だってそのうち何か良いことあるかも知れないし。
……どっちかと言えば、精神状態が不安なのは天音ちゃんの方なんだよな。
「で、大丈夫?特異性の変異に関しては」
『はい、見方が変わるだけですから』
人間を除いた生命体に対しての殺意を更に溢れさせた彼女が身に付けたのは、風化させるという現象其の物。
治療を『自然治癒力の活発化』と定義し、人間と造物を同一視するような目色。
明確な懐に入れた存在か否かという違いが、また一歩彼女を人から遠ざけている。
「それは良いけど、あんまり一人で上に進まないように」
『……分かってます。義兄さんやセンパイを置いていこうとは思いませんから』
この先、一人で進ませたらどうなってしまうのか。
多分、それを押し留めるのが俺の役割なんだろう。
「おーわりっ!」
首……と呼んでいいのか、頭と胴体を繋ぐ分が切り離された。
僅かに宙に浮かんで地面に落ちる。
その頭部を上から鉄塊で潰して、二度と動かない状態へと落ち着かせて一呼吸。
「終わりじゃねえ、とっとと解体するから手伝え後輩」
「はーい如月さん!」
先輩、という呼び方をどうにも奴には向けない後輩達。
何故かそれで呼ばれるのが俺だけなのは特別視の結果なのか、或いは苗字で呼ぶのを拒絶しているのか。
迂闊に問うと沼に沈みそうなので内心で押し留める。
「悪いが早めに頼む」
「足音は?」
「今んとこはない、ただ追ってくるなら確実に近付かれてるだろーな」
奥に進む道は此処までの道だと一本だったし。
もう少し進めば三通りに別れるけど……追われるのは前提としたほうが良い。
「面倒だねえ全く」
「お前も追われるのは慣れてるだろうに」
「黙らせるって選択が取れねーとこだよ」
そういうことを軽々しく口にする。
まあ……多分、後ろの奴等も、同じようなことを思ってるんだろうが。
小さく溜息を一つ。
糸越しに、小さな笑い声が溢れた気がしたのは……多分、気の所為。
変異(特異性)。
どいつもこいつも大暴れっすね。