現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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呼吸を出来るだけ深く、遅くするように心掛ける。

焦る時はどうしても呼吸が早くなる癖があるから、そうして気を使うことで普通の呼吸へと安定する。

 

「何処行った!?」

「誰かがいた痕はあるんですけど……」

「良いから探せ!」

 

握った手に力が入った。

同じく握り返しながら向ける視線の先に見えるのは男ばっかりが四人。

 

一人は弓を持った幼く見える少年。

一人は長杖(スタッフ)を担ぎながら後から追い掛けてくる長身の少年。

一人は大盾と刃の根本あたりに紐を括り付けたものを握った少年。

そしてもう一人が、機械弓(クロスボウ)を両手で支えながら怒鳴る少年。

 

(……大分分かりやすいな)

 

相手が生命体でなく、探索者の場合の基本(セオリー)が分かっていない。

同じ知能、知性を持つ相手に誰が指示役かを教えてやる利点は殆ど無い。

それをするなら、直接対峙した時――――他に情報が漏れないと確信した時だけ。

それだけで、多分外見や伝えられた情報を鵜呑みにした()()()探索者だと直ぐに分かる。

 

俺達みたいな逸れものと、明らかに上の立場な逸脱者達。

その何方にも唯一共通する点があるとすれば、探索者と戦った経験があるかどうか。

警戒心は一切抜かないが、相手への評価を一段階だけ下げて思考する。

 

「……分かってます」

 

そして明らかな上下関係が出来ている場合、それに対して一切対抗手段を持たない場合。

下の人間は――特に人を使うことに慣れていない相手が上の時は――内心に何かを溜め込むか、全てを諦めるかの何方かに偏りやすい。

瞳と顔を見る限り、恐らくは後者。

 

自分の未来を諦めきったような真っ黒な瞳を持った弓の少年は、弦に何も咥えず()()()()()()()()

 

一秒、十秒。

何も動かないようにしながらも、相手の呼吸に併せて出来る限り周囲に溶け込むことだけを考える。

 

「……この辺にはいませんね、多分もっと先に」

「採取痕があるんだ、多分創作者が一緒にいるな」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ!」

 

暫く経って、弓から手を離した少年が呟いた。

その間周囲を見回していた盾持ちが呟き、杖持ちが質問し。

機械弓持ちが脅すように大声で叫ぶ。

 

ひぃ、という声までも聞こえながら先へ向けてまた走っていく四人の後ろ姿を遠目で見ながら、今手に入った情報を整理する。

 

(……少なくとも二人、いや三人は能力の断片が見えたか)

 

事前に聞いていた弓使いが此方に気付かなかったのは賭けに勝った、と思うべきか。

雄次の能力との相性が悪く、併せてやる気が死んでいたからこそ見逃したと俺は思う。

何方にしろ弓と振動、衝撃……或いは()に近い能力を保持するものだと判断する。

 

続いて槍と大盾持ち。

恐らくは機械弓持ちの相棒に近いのだろう、彼奴等の雰囲気は同級生相手のやや気楽なもの。

背の丈程もある大盾を軽々と持ち上げていたから、恐らく重量操作か筋力強化、それに近い前衛向けの能力持ち。

 

最後に杖持ち。

あの手の武具を持ち歩くのなら先ず間違いなく魔術型、属性型の後衛担当だ。

回復役なんていう超希少種の例外を考えないなら、属性さえ分かってしまえば対応がしやすい相手ではある。

 

何より、彼等が持っていた武器・武具には俺の特異性が反応しなかった。

相手の与えられた武具に許可を出していないからだが、逆に言うなら持ち上げられない物体は武具だと考えて良い。

今までは一つ一つ操作しようとしなければ分からなかったことだが、変異したことで使い物になるようになった。

 

(後は相手の二つ名が分かれば対応は出来る、どうせ『迷宮』で襲うことを前提にしてくるだろーからな)

 

向こう側の三人に開いた片手で合図、戻る事を告げる。

彼奴も俺と同じように後ろ姿を追っていたから考えることは同じだろう。

 

実際、死んだとしてもそれが生命体に依るものか人の手に依るものかは死体を見なければ分からない。

それを良いことに暴れるアホは、毎年少ないけれど皆無になったことは一度もないという。

 

だからこそ、半ば人型の敵という見方も出来てしまうからこそ。

地上で契約を結んだ相手と信用できる身内以外は全て敵、という目線になってしまうのは仕方ないこと。

自分のことをそう慰める俺も、昔はいた。

 

唯一追われる立場だった小鳥遊は、表面上では普通を保っていても内心は恐らく震えている。

手に伝わる振動がそれを示しているし、普段に比べれば前へ前へと言う気持ちが途切れている気がした。

 

天音ちゃんは笑っていた。

楽しいものを見た時の笑みではなく、彼女にとっての地雷を踏みつけた時の笑み。

一度だけ見たことあるそれをした時は、最後には相手は文字通りこの都市に二度と踏み入れることが出来なくなった。

周囲の信頼を失い、ついでに片足を失えばそれもまあ当然か。

 

恵先輩は……普段と変わらない顔をしていた。

慣れている、という側面もあるだろうが此方に対しての信頼が大きいのだと思う。

 

(……ま、向こうが何を言おうが手を出されたのは変わらんしな)

 

ただ単純に声を掛けるだけならそれで済んだ。

直接会うのが難しくても、受付経由ならそれを受け取る義理くらいはあった。

 

ただ、あの足取りは多分強引に仲間に引き込む動き。

ある種敵対企業を武力を滅ぼして取り込もうとする動き。

 

事実であっても、事実でなくても。

俺は、そう理解する。

 

()()

 

元々そうするつもりだったのだ。

表立って動かないのなら、学校も表も動きようがない。

 

そういった部分を黙認して、けれど法として定めることで俺達を縛っているのだから。

ある種の怪物として認められた探索者は、距離が狭まれば結局互いに認め合うか殺し合うかの何方かに落ち着いてしまう。

 

歯を噛みしめる音が聞こえた。

それを冷静に考え、利点欠点を述べるもう一人の意識があった。

けれど、それを止める俺の意識は何処にもなかった。

 

たかが石浮かべ、と侮ってきた連中は全員黙らせてきたのだ。

同じ事を、繰り返すだけだ。

 

――――相手から、認められるまでは。




虎の尾を踏む、って大惨事になりますよね。
探索者は全員虎です。
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