現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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そう告げた後が色々酷かった。

 

小鳥遊はまあ顔を赤くするし、笑顔を崩さない天音ちゃんはいるし、ジトッとした目を向ける恵先輩はいるし。

雄次のアホは後ろから蹴りを入れてきたのでその辺の石ころを浮かべてやり返しておく。

 

(どういう意味で言ってるかくれー分かるだろうに)

 

自分で言った後でまあそう取られるかもなぁ、と思わなくはなかった。

ただ、誓ってもいいが百パーそう云う意図はない。

何度も何度も皆には言ってるが、『迷宮』内でそういった意図を持った言葉を使う筈がない。

意識してその辺は制御してるし、そんな余裕は欠片もない。

 

……地上であっても、同じような目で見られる部分は未だに理由が掴めてないのだけど。

俺くらいのカスみたいな能力持ちへと、そんな目線を向けてくれる意味を。

 

『扉』を潜り、外からの赤い日差しが頬へと刺さる。

こんな早く抜け出てくることも余り無いから、外が明るい状態に違和感を抱いたり抱かなかったり。

本来なら浮かんでいたのは月だっただろうに。

 

「んじゃ、後は任せるぞ?」

「分かってる、連絡はいつも通りに」

「いつ頃行く?」

「恵先輩」

 

人混みはそれなりに。

だからこそ主題を明確にせず曖昧に、それでいて通じるように。

未だに侮られる俺の立ち位置だが、だからこそ一部の探索者以外からは注目されないという裏の利点もある。

嬉しいとは、まるで思えないのもまた事実なんだけれど。

 

「明日いっぱい準備させて~、多分それで足りる筈」

 

頼んだ薬の作成。

上限を指定しなかった以上、今の恵先輩の空間を埋め尽くすだけの量を用意する筈。

それを気軽に明日まで、という辺りにこの人の本気と才能が見え隠れする。

 

「なら明後日、その日は日の出と同時に出る」

「分かった、逆順でいいよな?」

「そうでもないと面倒になるだろうしな……」

 

後から誰かが来る気配がしたので部屋の隅、受付口の待合室の壁沿いに移動した。

受付では不慣れだろう作業に従事する九十九先輩の姿が見える。

見る限り、便利にこき使われているんだろう。

 

「逆、ですか?」

 

手を離そうとしない小鳥遊。

じっと見つめる目線二つから意識を離し、とっとと話を進めることにする。

 

「十階の入口から行くか終わりから行くか、ってだけの話」

 

集団で行くなら素直に入口からでいい。

ただ、今回は数人、身内だけで制圧しようとする謂わば横入りのような行為。

それだけの異物を回収できるとは限らないが、頭分けする人数は少ないほうが良い。

特に、今回の場合は最低限の必要経費を除けば全て取引につぎ込むことになるのだから。

 

こんな細かい事情までは伝えず、代わりに日常生活のフォローをする。

外から見れば一時同居みたいに見えるだろうが……そんな勇気があるならとっくに何かしらの関係性は生まれていたはず。

だから、二人の行為は多分甘えなんだろう。そうだと信じたい。

 

「雄次、お前にばっか頼むことにはなるが優先順位だけは気を付けてくれ」

 

念の為に告げておくこと。

”偶然にも”集落を攻めている時に別の集団が混ざってくればそれだけで九十九先輩とのあれこれは厳しくなる。

幾らかは俺の貯蓄から吐き出すことも視野に入れてるが、可能なら物品の売却だけで済ませたいところ。

『燕の子安貝』一個ですら済まない借金なんだし、それなりに良いものが見つかれば良いのだが。

 

「わーってる……ま、お前は学校に顔出さなきゃそれで良い」

 

手をひらひらとさせながら返す言葉は、まあ理解していても煽りに聞こえる。

 

「毎度毎度のことだが事実言われてもイラッと来るな」

「上相手ならオメーがいたほうが楽なんだけどなー」

 

実際のところ、同級生に対しては此奴は割と普通……と言うよりは友好的に接してる。

上には俺、同級生は此奴、下は何だかんだ一部を除いて不干渉。

気付けばそんな関係性が生まれつつある。

 

「相変わらず仲がいいよねぇ、二人共」

「これ仲が良いって言えるんですかね?」

「悪いとは思えねえのは確かだわな」

 

うん、その一点だけは同意する。

苦笑いを浮かべてもう一度受付を見る。

九十九先輩の手が空き、今なら問題なく行けそうだ。

 

「じゃ、帰宅の手続きして各々のやることをやるってことで……っておい」

 

離そうとしない手を振り解こうとすれば更に強い手で握られる。

もう片手を天音ちゃんに奪われて、自由に出来る腕が無くなってしまう。

 

当然に周囲から向けられる目線は嫉妬と見下すモノばかり。

ただ、その中で苦笑をしている知り合いの人達がいるのは彼女のことをよく知るからだろう。

より正確に言えば、彼女の兄のことを、だが。

 

「何してんだか」

「これ明らかに俺は悪くなくねえ?」

 

足を止めるつもりはない。

移動に付き添うように三人が横に並んでいる光景事態は割と見かける。

手を結んだり腕を取ったり、そういった部分はほぼ無いけれど。

 

『冗談ですよ、冗談』

 

全く以て冗談に聞こえない声を口パクで示しながら手を離す。

併せて小鳥遊も手を離し――というか離すように視線で意思表示を喰らって――自由になった俺は、改めて受付へ向かう。

空いている幾つかの受付、その中で知り合いに話に行くのは自然な流れ。

 

「九十九先輩、どーも」

「……変わらないなぁ、君達は」

「そう簡単に変わりはしませんよ、まだ半年も経ってないんですし」

 

そういう問題じゃないんだけど、と告げられながら。

分かってます、と言葉を返して。

 

「後で時間下さい、待ってますんで」

「待って、私も餌食に?」

「ンな自殺行為しませんよ」

 

したら死ぬ。文字通りの意味で殺される。

分かってて言ってるんだから穴が空くような目で見てくるんじゃねえドアホ。

 

()()したいことがあるんですよ」

 

それだけで通じるはずだから。

簡単に、そんな言葉だけを残した。




だからクソボケとか言われるんですよ此奴。
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