現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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Chapter1
008


 

この業界で生きることを強いられる以上、必要になるのは縁と運。

最初の籤で大当たりを引けた人間は、恐らくはずっと上り調子で進めるのだろう。

 

けれど、最初で躓いた人間は。

仲間の運に恵まれなかった人間は。

生きていけないかと言われれば、そんなことはない。

 

失敗者は、失敗者同士。

思わないところで結び付いているものだから。

 

 

【Chapter01】

 

 

後輩――――小鳥遊岬と出会った翌日のこと。

学校近く、街道裏の小さな喫茶店内。

 

「……いやまあ、制服が駄目になってるのは分かるとしてだ」

「はい?」

 

早速その日の午後に彼女を呼び出した俺が見たのは、当然制服姿ではなく。

けれど想定外の、何処か男装めいたシャツとジーンズを着こなす少女の姿だった。

 

「やっぱり変ですか?」

「変っつーか、なんつーか……なんだろうな?」

 

似合わない……訳じゃない。

ただ、第一印象との違いで若干戸惑う。

もっとこう、なんだろう。着てるやつを見た覚えがないが、ワンピースだったか?

ああいった令嬢っぽい服装のほうが雰囲気に噛み合うような気がする、と言うだけの話なので深掘りはしない。

 

「ああ大丈夫です。皆最初は同じような顔するので」

 

運び込まれた珈琲と今日の軽食(ケーキ)のセットで大体一食分。

それなりに高値と思う吝嗇(ケチ)な俺と小鳥遊は同じような顔をする。

まあ、それなりに通ってる場所だし……これでも通常価格よりは安い身内価格にしてもらってるのだが。

 

少しずつ口に運び、喉を潤し、会話を交わす。

こんな事する相手なんざ、彼奴と()()()()くらいだと思ってた。

 

「分かってて着てるんかよ」

「持ってないわけじゃないですけど……此方のほうが動きやすいですし」

 

まあそれもそうか、と納得する。

一応の礼儀上、初対面は礼服で通したかったところではあるが……そんな事気にする人達でもないか。

挨拶を兼ねているという側面はあっても、堅苦しいのは嫌うし。

足元の袋に纏められた制服に、一瞬だけ目をやった。

 

「それで……ええと、昨日の今日でどこへ行くんですか?」

「ああ、頼まれ事の解消とお前さんの制服の補修依頼」

 

昨日の事件で、彼女の制服はそれなりの破損を受けた。

今後のことを見据えれば、彼方此方に穴が空いた状態では何の意味もない。

通常であれば、当人が継ぎ接ぎすることで見た目上はなんとかなっても……育成期間の『探索者』が装備する防具としての側面は駄目になっている可能性が高い。

詳しく説明されたが良く分からん。()()()()()()()()()()が薄れるのだとかなんとか。

だから、鍛冶師も防具の作成者も『能力者』。

それ一本で食っていけるとお墨付きを受ける、創作者(クラフター)としての役割を担った人達。

 

「補修……って、受付の人に聞きましたけどそれなりに時間が掛かるって」

「そりゃお前さん、普通の手続きしたら最低一週間は掛かるわ」

 

まあ、普通の学校活動で制服を必要とする機会は思いの外多い。

事情を説明すれば運動着や一部私服、礼服なんかで対応できないことはないけれど。

開幕動けない状態で足踏みとなれば、それなりには焦って当然だ。

 

「裏道、とまでは言わんけど伝手は複数あって困らんからな。

 特に制服みたいな汎用性のある装備を作るのを嫌う偏屈者ってのは何処にでもいるもんだ」

 

例えば、とクリームが付いたフォークを小鳥遊の肩越し、入口の方に向ける。

それに従うように振り返った先にいるのは、こぽこぽと珈琲を淹れている初老の店主。

 

「え?」

店主(マスター)、この子の制服直すの頼んでも大丈夫?」

 

当然の如く浮かぶのは疑問符。

けれどそれに対しては答えず、直接に問い掛ける。

現状、他に客がいないのは確認済み。

 

「今の所切羽詰まっている仕事はありませんが……珍しいですね、月見里くんが女子と共にいるだなんて」

「昨日捨てられてたところを助けたんですよ」

 

趣味の店、という雰囲気を一切隠さない立地に献立(メニュー)

現在のこの世界は一度崩れ、けれど立て直して新たな時代へと移り変わっている途上。

にも関わらず嘗ての雰囲気とやらを保っている、ここが成立するための資産の出所が職人仕事(それ)と言うだけの話。

 

え、と真正面から再びに喉が鳴るのが聞こえた。

 

「まあなんで、ある意味俺達のお仲間ということで紹介がてらに回ろうと思ってまして。

 丁度良いので此奴のも頼んじゃえ、くらいの感覚ではあるんですけどね」

 

そんな相手を無視して話を進める。

後で説明するから取り敢えず黙って聞いてろ、と目線を細めれば。

こくこくと小さく頷いてくれたので話を戻す。

 

「成程、成程。構いませんが……」

「分かってますよ、()()()()ですよね」

 

よし、交渉成立。

まだ在庫があるからいいけど、次潜る時は取ってこねえとな。

誰にも見られていないのを確認した上で、小さく空間解錠の言葉を唱えて中から小さな布袋を二つ程。

テーブルの上に置けば、じっと見つめる目線が改めて俺に向く。

 

ただ、じっと。

じーっと。

奇妙な圧力と背筋に走る冷たい汗に、僅かに怯えさせられたのは何故だろう。

 

「あー……」

「教えて構いませんよ、これは仕事としてきちんと請け負っている訳でもありません。

 それに、昨年の月見里くんも同じような顔をしていたでしょうからね」

 

店主(マスター)に教えていいか、逃げ場を求めて問い掛ければ。

苦笑をしながら、年相応に重ねてきた苦労故なのか。

妙に俺の肩を持ってくれる言葉が飛んできた。

 

「じゃあ」

「分かった分かった、そう身体を乗り出すな」

 

ずい、と立ち上がろうとする頭を抑える。

シャツの一番上のボタンを外しているからか、見たくなくても見えてしまうものが眼前に近付いてしまう。

 

「って言っても、大した話じゃねえぞ」

 

こほん、と一度咳をして。

記憶に残りそうになるどうでもいいものを追い払って仕切り直し。

 

「此処で出してるお茶の葉っぱが採れるのが、『迷宮』内にしかないんだよ」

 

嗜好品、という分類。

恐らく今後は此奴も取りに行ったりするだろう物品の名称。

俺と一緒に行くのなら、訓練地帯を越えて探索が可能だからこそ。

今のうちに見落としがちなことから教えておく。

 

「――――受付、買い取り所だと木っ端な価格なのに。

 実際手に入れようとするとべらぼうな金額に跳ね上がる、そんな魔法の種ってやつだ」

 

こぽり。

小さく液体が一滴、滴るような音がした。

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