現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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少しだけ空気が変わって。


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がさりと揺れるビニール袋。

後に恐る恐る付き従う後輩。

右手の金属が一度回転し、()()()()掛かったチェーンを浮かして外すことで二重の鍵を解除する。

 

「はいどーぞ」

「お、お邪魔します……?」

 

店主(マスター)のところの持ち帰りメニューと買い足した幾らかの保存食と飲物。

其れ等を持って案内したのは、既に築十数年が経過したやや古いビルの一室。

本来だったら小さな会社としてだって設立できるだろう広さを持った此処は、周囲の部屋が殆ど空っぽで常に物静かな雰囲気の中にある。

 

「汚い……というよりは殆ど荷物も無いが、適当に過ごしてくれ」

「と言われても困るんですけど先輩」

 

まあそれはそう。

三つほどの個室へと繋がった、少しだけ広がった場所に後付で付けたキッチンとリビング。

直ぐ入口に作られたのは風呂とトイレが別に設けられた、明らかに外見と内面が一致しない不思議な部屋。

 

最初に見た時は俺も戸惑ったが、暫く暮らすうちに慣れるモノ。

色々と部屋ごとに用途は設けているが、知り合いが何日か泊まっていくくらいは容易に出来る明らかに分不相応な一室だった。

 

「あー、じゃあ先に案内だけしとくわ」

 

冷蔵庫の上に設置した電子レンジでそのまま温め始める。

そのまま温められる持ち帰り容器を選択しているのは、どうにも『迷宮』内でも食べる選択肢を残しているからとか。

要するに再利用を前提としている、というある種の温情の部分もあるらしい。

 

「一番奥、正面の扉が寝室兼書斎。パソコンとか電子機器もそっち」

 

普段一番使う部屋が此処。

色々と動きを考えたり情報収集したり、或いはメモを取ったり気晴らししたり。

余り物が多い訳では無いが、俺が特異性で色々便利に利用できるように四方を囲んでいたりする。

 

「その次、手前が『迷宮』用の荷物置き場。色々回復薬とか置いてあるから其処は入るの禁止な」

 

まあ、俺が寝る部屋は多分此処になるが。

俺自身には影響はないし、気にはしないが気になるやつには気になる部屋だし悪影響が出ないとも限らない。

念の為に告げておく。

 

「んで風呂の隣が訓練部屋、コンクリベタ打ちのままだが動きを確認したりする場所」

 

三面に鏡を張り、普段仕込み杖の訓練をしたりするのが此処。

或いは寝室から持ち出した電子機器で見つけた格闘技やら白兵技、動きの無駄を確認する部屋。

ある程度身に着けたとは言っても実戦で使えるかどうかは別問題だから、最低限物真似が出来るかどうか確認すると言った用途が主。

後は朝の運動やらも此処でやることが多い。雑に使っても(能力を別にすれば)傷付ける心配も殆ど無いし。

 

そんでもってリビングから玄関口の合間に廊下を挟んでトイレと風呂。

 

「あの、先輩?」

「んー」

「明らかに豪華過ぎる部屋じゃないですかこれ……?」

 

うん、それは俺も思ってる。

学校の寮は二人一部屋が基本だし、集団生活が基本。

自分でなんとかできるなら好きにしろ、ってタイプだから俺は殆ど戻ることもなかったんだが。

 

「一応理由はあるんだよ、一応」

 

ちーん、と小さな電子音。

取り出して、先に小鳥遊に差し出してもう一つを温め始める。

四脚ある椅子の一つを勧めて食事を置けば、ありがとうございますと当然の返事があって。

 

「理由、ですか」

「見りゃ分かるだろうが、『迷宮』に近いビルだろ?此処」

「ですね」

「だから本来は一人暮らしじゃなくて小さな集団、仲間内で暮らす想定だったらしーんだわ」

 

『大災害』の直前、まだ平穏だった頃に建てられたらしいビル。

当初は会社を入れるつもりだったらしいが、そんな想定も簡単に崩れ。

仕方なく切り替えたのは、学生……或いは探索者向け用の内面へと整え直して部屋数を減らすビル兼住居としての選択だったらしい。

その名残は更に下の階、もっと部屋数が減って室内が広くなっている所に残っている。

 

「で、実際その作戦はつい最近まで成功してた」

「つい最近」

「そう、つい最近」

 

鸚鵡返しに鸚鵡返し。

緊張しているのか、妙に思考が回ってない気がすんな此奴。

何も出来るはずもないしする気もないんだが。

 

「俺の前の前に入ってた先輩……になるんかな、集団が壊滅してな。

 んで最後に一人残された人が恨み辛みを壁中に書き連ねて『迷宮』に潜って行方知れず」

「……先輩」

「おう」

「それって事故物件とか言われるやつじゃないですか?」

「そうだな、そうとも言う」

 

だからこんだけ広い場所で家賃格安なんだし、他に誰も住んでないんだし。

実際リフォーム……でいいのか?

色々対応しても何だか嫌な気配がする、と言って即座に出ていったとか言うし。

霊系に干渉出来る探索者が対応したらしいし、今現在まで特段悪影響は何も出てないから得しかない。

 

「なんでそんな所に住んでるんです!?」

「管理人が困ってたからってのとこういう場所でも無いと住めないから、かね」

 

紹介して貰える伝手と保証があったから住めているが、基本的に良い場所は奪い合いになる。

一定数戻ってこれないから一月から二月単位で形跡がなければ荷物は処分される規則になっているが、それでも合計で処理完了に三月程度は必要になる。

俺等の学年は上振れもなければ下振れも少ない年だったらしく、空きが無かったって言うだけの話。

まあお互いにメリットがあったから、っていうのが本筋か。

 

「だからお前も早めに部屋見つけたほうが良いんだが……」

「大体ダメ出しするじゃないですかー!」

「だって実際駄目なとこしか上げねーんだもん。最悪隣の部屋の壁ぶっ壊して広げても良いけど」

 

まあ、俺以外の住んでいた人達は気味悪がって出ていったらしいが。

お陰である程度好き勝手にしていいという放任は貰ってる。

最悪金貯めてビルごと権利買えば済む話だろ。

 

「……幽霊とか出ませんよね?」

「少なくとも俺は見たこと無いな」

「本当かなぁ……先輩のことだから気付いてないだけとかありそう」

 

なんて失礼な。

ちん、という二回目のレンジの音と共に憤慨しつつ。

少しばかり空腹の虫が騒ぎ始めた肉体に従うことにした。




※特異性に『空間干渉』の側面があるので霊的存在は出たくても出られないものとする。
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