廊下越しにシャワーの流れる音がする。
ガン無視して明日の食事の準備を終えた後、扉に向けて叫んでおく。
「下着以外の着替えがあるなら一緒に洗うからなー」
『あ、はーい!』
『迷宮』に潜った後の一番外部の服装はどうしても汚れる。
防具としての側面があるのは変わらないが、それでも洗濯くらいは随時しなければどんどん積み重なっていく。
穴が空いたら当然創作者行きだが、時々手入れを向こうに依頼しないといけないのもこれに由来する。
だからこそ一年中仕事があり、下手な集団に取り込まれた布関係担当とかは過労でぶっ倒れるとか何とか。
まあそういったこともあり、防御性能を落とさずに洗濯するのも特性の洗剤がいる。
普通に受付横の店で幾らでも売ってる……んだが。
それはそれとして性能が最低限なので着た時にゴワゴワのガシャガシャになる。
ついでに香料も混ざってない本当に最低限の洗濯用品。
少しでも慣れると一般的な薬品店で買うようになったりする。
俺が普段遣いしてるのも恵先輩が作ったあの人が好きな匂いらしい奴なんだが、彼奴も問題ないかはちょっと気になる。
(まー、肌を見るわけにもいかねーし後でだな)
上着だけ洗濯機の中にブチ込んでおいてもらえば後で風呂洗いと一緒に洗濯出来るし。
取り敢えずやっておくか、と二番目の部屋……板張りの洋室っぽい一室へと足を踏み入れる。
白い塗料で周囲を塗られているこの現場がなんか書かれていた事件現場って話なんだけど。
ただ単純に恨み辛みを書いただけで影響残せると思ったんだろうか、その人は。
(さーてーとー……)
洋室なのに少しだけ和室のような花飾りを置くようなスペースのある変な部屋。
一応花瓶にその辺の花を飾るようにはしてるその周囲に置いてあるのは、『迷宮』での探索品と薬品の数々。
空間を開き、中の品を一旦全て取り出して並べ直す。
少しだけ形状が違う其れ等は、手に持っただけでどんな効果を持つか分かるように工夫された結果だ。
(回復薬はほぼ消費なし、ただそろそろ消費期限が近いからこの辺は優先で使うとして)
瓶の底に書かれたくねくねした数字はあの人特有の期限の印。
大体一週間単位で書いてるから正確ではないが、それでも以降は正しく効果を発揮しないことだけは分かってる。
劣化品として使う分には良いけれど、天音ちゃんがいる限りは回復薬の消費量はどうしても減る。
次の目標……集落の制覇の際には多少分かれて行動することを考えると多めでいいが、その次からどうしたものか。
(下手に他所に売るのも出来ないし、久々に実験材料とかにしてみるかぁ?)
たまにやってること。
恵先輩は知識に従いつつ思い付きで色々やるのに対し、俺は完成して期限がギリギリなモノを色々使ってみたりする。
植木鉢に咲いた腹痛用の薬草に回復薬(液体)を掛けて育成してみた結果、解熱鎮痛系の特効材料に化けたり。
回復薬(丸薬)を煮溶かして保存食作成に使ってみたら、何故か賞味期限が伸びて味が良くなったり。
絶対に普通しないことを思い付きでやるから、たまーに成果を出す程度の趣味に過ぎないんだが。
あの人からすると面白いっていうか思い付かないことらしく目をキラッキラさせんだよな。
(なんかネタあったかな……ああ、鉄塊に使う付与薬でも弄ってみるか)
丸薬、液体はまあ疲労を癒すって意味でも使えるから一旦置いとく。
一番消費期限が近く、且つ外傷を癒やす効能が強い塗り薬を利用できないか考えてみる。
(普通に使うだけでも塗るタイプだし……)
取り敢えず用意したのは期限が近い炎と氷、後風関係の付与薬。
小鳥遊が普段遣いする属性と、それと相性が良い・悪い属性をメインにしてみる。
武具に塗る道具と、肉体に塗る薬。
絶対に同じ場所に使うことは考え難いのでどんな反発が起こるか完全に不明。
取り敢えず手元にメモ用紙を引っ張ってきて、素手で触れなくて済むようにそれぞれの薬を宙に浮かせる。
外側に何かが触れた気がするが気の所為だろう、一瞬で消えたし。
(パターン1、取り敢えず純粋に混ぜてみる)
混ぜていく内に妙な色合いになってきた。
なんというかカラフルと言うか、絶対に混ざり合わないマーブル色。
同時に練っていく感覚が重くなってきたので此処で停止。
敵がいたら投げ付けて反応を見よう。
(パターン2、重ねて反応を見る)
適当な紙を用意して
取り敢えず三段重ねてみたが特段反応も無し。
一旦部屋の隅において乾燥後の影響を見る。
「ふーむ」
ざっくり思いついた二種類だが、前者のほうが明らかに妙な反応してる。
素手で触れるとヤバそうだから指で弄くる訳にはいかないが、もう一つ作るだけ作って恵先輩にも見せてみるべきか。
『せんぱーい』
「おーう」
『お風呂いただきましたー!』
ぶつぶつ言いながら色々弄ってみて。
どの属性で試してみてもパターン1のほうが妙な反応を示し、パターン2は特段反応が見えない。
つまり混ぜ合わせる、練ること自体に何か反応する要因があるのだろうと想定していると部屋の外から後輩の声。
少しだけ高く聞こえるのは、元気を取り戻したからだろうか。
「分かった、取り敢えず寝室で着替えとけ」
『分かってますよーう』
ぺたぺたと歩く音が響き、奥の方へと音が消えていく。
念の為こうして声で確認取るようにして正解だと思う。
普段俺一人ならリビングで着替えとか当たり前にしちゃうが、流石にそういう訳にもいかないし。
(まぁ、続きは明日でいいか)
流石に風呂入った後にやろうとは思わんし。
明日からはいつもの探索推奨日だから学校いかなくて済むので、小鳥遊も最悪外出しないで済む。
下手すると『迷宮』前張ってるかもしれんから出来れば明日は室内で訓練とかして過ごしたいもんだが。
「出来るのかねえ」
思わず溢れた疑問は。
誰にも届くことはなく、いつも通りの室内に消えていった。
※薬品を利用したコンボは本来創作者がやるものです。普通に買おうとすると明らかにコスト比が釣り合わないので。