現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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翌朝、太陽が昇り周囲を照らし始めた頃の時間帯。

 

「ふーっ……」

 

毎朝足を踏み入れる部屋であり、それ以外では余り入らない三番目の部屋。

コンクリートが剥き出しのままで、三面を鏡で覆った様々な物品が壁越しに立て掛けられた俺の隠し玉としての重要拠点。

この外では、本当に万が一以外は振るうこともない仕込み杖を構え。

木刀のように、杖のように振るう練習を続けていた。

 

「こう、こう、こう」

 

自然と口に出てしまう連続動作。

以前に教わった流れと自分なりの動きを噛み合わせた奥の手。

動画として携帯端末で録画し、後で見返す事を前提とした動き方。

 

正面に構えて振り下ろす。

そのまま前方に向けて突く。

すっぽ抜けるかのように手を離し、特異性で操作して加速させて遠当てのように見せ掛ける。

 

対人であるからこそ、二つ名を知るからこそ効果がある奥の手。

師匠と同じく、特異性を応用することで想定外の一撃を繰り出すためだけの練習。

事これに限っては仲間だと思っている身内関係者に関しても殆ど見せることがない、水面下の足掻きのような特訓。

 

気付けば毎朝行うことが決まりのようになって早一年と少し。

やっと形にはなってきた、と思うからこそまだまだ繰り返す意義が見える訓練の最中。

撮影している携帯から聞き慣れた着信音が鳴り響き。

その音に珍しいな、と動きを止める。

 

(こんな時間にか?)

 

どっと吹き出る汗をそのままに画面を見れば、この音楽が流れる相手……雄次の携帯からの連絡だと確かに認め。

応答の釦を押下し、そのまま耳に当てた。

 

「もしもし?」

『おう、今何処だ?』

 

第一声から感じるのは、僅かな焦り。

そして疲弊感と、周囲から聞こえるのは妙な笑い声と女が周囲に粉を掛ける声。

少なくともまともな場所にいないだろう事を指し示すような、そんな音。

 

「家だが」

『あー……なら良かった、ちょっと伝えとかねーと不味そうなんでな』

 

余り聞かない場所での声に、急いで掛けたのだろうということを察しつつ。

現在位置を告げれば安堵の声が聞こえ、更に危機感を増していく。

 

「どういうことだ?」

『面倒くせえ……というか小賢しい方向に頭が回る奴等だったみたいでな、後輩ちゃんは?』

「ちょっと待て」

 

彼奴にも聞かせろ、ということだと理解して一旦保留。

遮っている扉を叩いて用があることを伝えれば、数秒して扉からひょっこり顔を覗かせる。

寝間着の上から着込んだエプロンに、僅かに鼻に届くのは卵を焼いていたのだろう油の香り。

泊めて貰うのだから、と押し切られて料理を任せた結果が今の衣装。

 

「どーしました?」

「いや、雄次から電話がな。今スピーカーにする」

 

手招き、恐る恐る室内に入って周囲を見回す。

鏡だらけというのは流石に怪しいと言うかどうにも気になる、というのはよく分かる。

ただ今はその疑問に答える猶予もなく、保留を解除しもう一度声を投げた。

 

「待たせたな、呼んだぞ」

『ああ』

 

少しだけ周囲の声が小さく聞こえた。

恐らく先程の位置から少しだけ距離を取った結果なのだろう。

 

「え、っと……如月先輩?」

『悪いが単刀直入に言うぞ、今日はお前等家から出るな。

 食料とか必要な物があったら東雲ちゃんが顔見せに行くって話だからそっちに頼め』

 

電話口の相手に投げた疑問。

上から被せるように返ったのはそんな答え。

何となくその言葉に納得をしつつ、疑問が更に重なったような小鳥遊に説明を兼ねて遠回しに問い掛ける。

 

()()()()()()()()()()?」

『だな、お前の悪い噂が既に出回ってる……まあ、大した内容でもないがな』

 

電話口に向いていた目が此方へ向き。

改めてきちんと説明しようと、唇に垂れてきた汗を舌で軽く舐め取った。

 

「要するに、お前を身内に引き込んでも俺達は悪くない、助けてやったんだって外聞を味方に付けようとしてるってことだ。

 ま、よくあることだわな」

 

どっちが先か、実際に引き込んでからその経緯を偽装するか。

或いは既に見咎められた内容を元に噂を盛るか。

相手が選んだのは後者で、つまりそうする余裕があると相手が判断したという証明になる。

 

『唯でさえお前同級生からの評判死んでるからなー』

「別にどうでもいいんだがなぁ、彼奴等から何思われようと」

『なんでまあ、二年は相手の潜在的な味方に回ってると思っていいだろうな。

 真逆に三年はどうでもいいと思ってるかお前の味方、一年は綺麗に半々って感じ』

 

…………ん?

 

「半々?」

『そ、不思議なことに綺麗に半々って感じ……いや、不思議でもねえか』

 

一人だけまともに思考するやつがいたってことなんだろうなー、と。

恐らくは寝ずに動いていたのだろう、電話越しからも分かる大きな欠伸をした後に聞こえる声。

 

『後輩ちゃんを見捨てた中の一人だけは向こう側に付かずに地道に動いてるっぽくってな。

 そいつがちゃんとした事実を説明してるからどっちを信じるかで割れてるっぽい』

「え」

 

その内容が余程信用出来なかったのか。

思わず漏れた声と、あの時に見た四人の顔を重ねているように見える。

 

『なんでまぁ、俺から提案するとしたら一つ』

「ああ、身内に引き込むのか?」

『当人が許すんならな。軽く調べた限りだが九十九先輩と相性がクソ良さそう』

 

へえ。

ちゃんと利点もあるし、此方から見た限りだが楽へと流れなかった奴がいるってのは好印象。

まあ一度見捨てた、という事実を飲み込めるなら――――という前提が重なるのだが。

 

『何でまあ考えといてくれ、俺はもーちょい調べたら寝る』

「分かった」

『ああ、東雲ちゃんはお昼ごろに行くとよ』

 

んじゃな、と言うだけ言って切れた声。

スピーカーを切り、唯の呼吸音だけが響く室内。

 

過呼吸のように荒れ始めた彼女の姿を、唯見詰め。

少しでも落ち着くのを、唯待った。




見捨てられた一人。
見捨て、楽に流れた二人。
見捨て、けれど悔いた一人。

同じに扱うのか、切り捨てるのか。
選べるのは被害者唯一人。
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