現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「さて」

 

午後一。

差し入れという名目で色々持ち込んだ天音ちゃんを加えて三人。

昼食後の休憩の後に集ったのは、朝方と同じコンクリートの訓練部屋。

 

「ええっと……」

 

ちらりと向けられる仕込み杖に関しては無視。

剣技、技に関しては俺が何か干渉できるわけでもないが。

明日までの間に此奴の出来ることを改めて確認しつつ、叩き込める部分を叩き込もうと集っている訳だ。

 

『私は出来ること其処まで増えてないから』

「どっちかと言うと動きが大きく変わった、変える余地があるお前のほうが問題なんだわ小鳥遊」

「はぁ」

 

はっきり言ってしまうと、探索者として選ばれた時点で()()()()()()()()を得る。

底辺クラスの能力だと自認している俺でさえ、(変異前を無視すれば)色々出来るようになった。

そして明白に自分の白兵技と特異性を組み合わせる余地がある探索者である以上、その鍛錬は日々重ねるもの。

 

出来る事を把握し、出来ないことを知る。

結局のところはその情報の暴き合いになる対人戦に於いての優位性とは、その知識と対応性なのだと思う。

……或いは、純粋にその能力で押し潰せる場合はそれでゴリ押す方が強かったりもするけれど。

 

「お前、剣道……だけじゃなくて剣術とかそっちの覚えもあるよな?」

「はい、まだ目録を頂くには程遠い実力ですけれども」

「なら多分、その術理をお前に併せて調整する方が合ってると思うんだ」

「あー」

 

能力を利用しなければほぼほぼ一般的に鍛えた年相応の「学生」程度に過ぎない遠距離職に対し。

近距離職はその全力を出す為に、()()()()()()()()自分でも想定していない範囲で肉体を強化されるケースがある。

 

此奴の場合内面を加速させる都合上、神経的な強化に多めに割り振っているとは思う。

それでも一般人を越える動作を行える以上は、その素養は抱えていると思って間違いないだろう。

そしてそれを引き出す切っ掛けは、結局自身の肉体を鍛えるか特異性を追求するしか無いのだ。

 

『一体どれだけ鍛える気なんですか、岬ちゃん……』

「え、そりゃ斬りたいものを斬れるまで、かなぁ?」

「話が逸れてるぞー」

 

で。

問題となるのは、小鳥遊が身に着けた特異性が『付与』で。

変異した結果が別の属性を身に纏う、という側面が強くなった点にある。

 

こほん、と咳を一つ。

 

「前にも言ったかもしれんが、『付与』って言うと最初の属性を強化するか属性が増えるかのどっちかのが多いんだわ」

「私は後者だったー、ってことですよね?」

「実体感前者に関してはどうよ」

「んー……外に出すのは相変わらず苦手ですかねー。少しだけ早く動けるようになった気がする、くらい?」

 

この間は好き勝手に暴れさせて当人に実感させるのが目的の面も大きかった。

細かい部分を確認する余裕がなかったから、改めて今聞いておく。

 

「なら……持続性に関しては?」

「あ、それに関しては間違いなく伸びてます。意識しなければ多分戦闘中ずっとはいけるかなー、って」

 

多分それは内面……要するに神経強化の方向性の付与だろう。

視ている限り、新しく身に着けたもう一つのものは使用不使用を意識して操作していたように思う。

 

「お前独自の術理を構築する下地はできてる、ってことか」

「独自、って言われると照れちゃうんですけど」

「他に言い方もねーだろ」

 

俺の居合とも言い難い仕込み杖は対人に対してその構築を全て向けている。

普段から使わないことだし、制限があるから刃を振るう筈がないという思い込み。

最後に頼りにするのが武具ではなく武器であることもそうだし、探索者としてのスペック全てを投げ捨てた攻撃。

何より通るかどうかは相手次第、必ず使える訳では無い部分も使いづらさを加速させている。

唯の一点、諦めたかのように見せるその瞬間に相手の切り札を斬り捨てることだけを突き詰めた刃として構築した。

 

師匠とは真逆、刃を使うことが手加減であり慈悲の側面を持つあの人と逆の思考で。

 

「後大事だと思うのはアレか、付与を何処まで同時に使用できるか」

「結局そうなりますかー……いえ、先輩みたいに居合として構築すればやれそうではあるんですけど」

「もう既に一つ作ってる……」

「と言っても、使うのは雷の付与だけなんですよねー。刃と鞘と、後は内面だけかな?」

 

呆れた目をしてるが、多分同種だからな天音ちゃん。

君の場合はそんなモノを必要としない殺意に近いんだけど。

 

やってみましょうか、と部屋の真ん中に立つ。

周囲に被害を出されると困るが、そのくらいは調整できるとドヤ顔で。

直剣に近い鞘なのに何が出来るのか謎だが、取り敢えず様子を見る。

 

「こうして、こうで、こう……」

 

ブツブツ言いながら腰の位置に佩いた、十拳剣の角度を調整しているように見える。

それだけ時間を必要とする行為なのか。

少なくとも現段階で実戦に用いるには不安が多いのは間違いない。

 

それでも。

未だ鞘から抜いていないのに、後付けされた意匠の鍔の根本に黄色い稲光が走るのが見えた気がする。

 

構え、少しだけ腰を回転させながら踏み込み刃を抜く。

それだけの行為の、始まりから終わりまでの速度が一瞬(ひとまたたき)にも満たない速度で振るわれる。

気付けば――より正確に言えば、目ではなく空間全体で捉えてはいたが――刃を振り払っているのを改めて視覚で捉えられる速さ。

 

「……と、まあ。私の学んできたのは居合術だけじゃないので無作法ですが」

「やっぱ理不尽だわ……」

「酷くないですか!?」

「溜め時間がいるとは言え何だその速度」

 

鞘の中で圧縮・放出でもしたのか。

曲線を描いていない以上は鞘を単純に滑らせて加速させるのは難しいと思うし、何かしらを調整中に行ったのだろう。

それはそれとして、真正面から見ていても受けられるか怪しい攻撃は不条理だと思うんだが。

 

「溜め……ああ、腰の調整のこれですか?」

「それだよそれ」

「溜め自体は殆ど必要ないですよ、単純に抜きやすい角度を探してただけです。

 ただ、鞘に戻す必要があるので実戦では見せ札にするのが手一杯ですねー。私だと」

 

……。

…………そうか。

 

「ちょっと一人さみしく泣いてきて良いか?」

「何処にそんな理由が!?」

 

天賦の才の差だよ差!

もう少し練れば普通に使える技幾つも組めるだろお前!?

 

……流石に恥ずかしくて、口には出せないそんな内心だった。




皆で作ろう必殺技。
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