最初の小隊を潰して次と遭遇するまでに十分程度。
次に七、八分、その次に五分。
戦闘時間自体は秒で数えた方が早い状態ではあるが、中央に近付く度に接触までの時間は確実に短くなっていく。
(…………ただ、何か違和感あるんだよな)
それ自体は喜ばしいこと。
ただ、どうにも離れない違和感が一つへばり付いている。
「~~♪」
と言うか後輩に聞くのがズレている。
となると伺うべきはどっちかになるのだが……同じような感想を抱いているのか。
少しだけ不安を覚えつつ目線を向ければ、それに合わせるように向こうも目を向けてくる。
「どうかした~?」
「あー……いえ、勘違いかもしれないんですけど」
先に口を開いた恵先輩。
少しだけ遅れて言葉を発そうとした雄次は口を閉じ、周囲の索敵を再開する。
俺も同じように周囲の違和感を探りながらの対話。
一人だけのほほんとしているように見える先輩の護衛に付いているのが
この人だけは立つ世界、或いは次元が異なっているような気配を感じたり感じなかったり。
口に出すと多分凹むから、言うつもりはないが。
「何だか今日の遭遇率高くないですか?」
前回のときに比べて。
或いは単独で攻め落とそうなんて阿呆な考えを持っていなかったから。
比較対象がない、という前提条件を置きつつも、妙な違和感が背筋を擽る。
見張り台から見られている。
遭遇率が高い道を選んでいる。
自ら突撃している、としても露骨な程に敵が此方を見つけてくる。
そんな差異が発生する要因があったのか、という確認。
「ああ、それ?」
「へ?」
けれど返る言葉は当たり前のことを聞かれているような内容。
思わず気が抜けた回答をしてしまい、小さく笑われたのを見て顔を伏せる。
そんな当たり前のことを聞いてしまったのか、と思ってしまう自分自身が恥ずかしくなった。
「ごめんごめん、珍しいこと聞くもんだなぁって思っちゃったぁ」
「そんな当たり前のことなんですか……?」
「当たり前……と言うか、実感するものではあるかな?」
てやー、と突っ込んだ小鳥遊。
今度は二個小隊相手に大立ち回りし、途中で鉄塊を投げ込み薬を投げ込み。
一戦一戦を血肉に変えているのを少しだけ遠巻きに観戦しながらも話を伺う。
まだ余裕があると思えば良いのか、気を抜きすぎていると叱咤するべきなのかちょっと迷うところ。
まあ深く突っ込んだらそのまま返ってきそうなので内心に留めておくことにする。
「『迷宮』の……もしかするとこの場所のだけの、かもしれないけど。
その階層の『扉』を潜った探索者しかいない時だと、対抗する為に数を増やしてくるの」
「なんですかその裏仕様」
「強くなれないから数で押す、ってことなんだろうけどね~」
そりゃ俺が知るわけもない。
つい最近潜ったばかりで、それに相当する経験がないから……と言うのは言い訳か。
その仕様を前提に考えるとなると、俺が混ぜて貰えていた集落襲撃戦にも意味合いが出てくる。
「……要するに、俺が混ぜて貰ってた時って
「後は、高く売れるものが
「出やすいじゃなくて、ですk……ああ、そういうことか」
言いかけた言葉。
そして肯定する意味を込めた、思考から漏れていた部分の補足。
普通では考え難い、マイナス方向への補正をする理由を考えて――――思い付いたのは、その時の参加者達。
難易度が上がれば手に入る異物の希少度が上がる、と恵先輩は言外に口にした。
つまりそれは、参加者同士で分け合えるなら別だがそうでないなら互いの潰し合いに発展する、ということでもある。
恐らくは金稼ぎ目的での探索、一時的な結託だったから。
そうした潰し合いになる可能性を出来得る限り削り落とした結果が、多分俺のような落ち零れの参加許可。
万が一があったとしても、誰であっても手を下せる相手だと認識されていたから誘われたのだ。
……そう思うと、浮かぶのは無力感と同時に殺意の感情。
見下されていたのだと、改めて認識したからこそ浮かぶ怒りという変異。
「でもね、先輩は零くんを誘った理由それだけじゃないと思うんだ」
落ち着け、と自分に言い聞かせて一度深呼吸。
併せて顔を覗かせるのを感じ取った子鬼の顔面を叩き割って、八つ当たりと駆除を両立する。
「……まだ、何か?」
「何かを見つけられる、見出だせると思ったからだと思う」
だって、特異性だけで戦えない感情は良く理解してるでしょ?
そんな形に唇が動いて。
同類を見る目で。
ガラス玉のように反射するような目で全身を捉えられて、小さく首を動かした。
『……センパイ』
護衛の、天才少女が言葉を発する。
「天音ちゃん、こればっかりはちゃんと呑み込まなきゃ駄目なことだよ~?」
『でも』
「いや、良い」
理解していたつもりだったことを、理解しきれていなかったと良く分かった。
「恵先輩」
「うん?」
「先輩の知る限りで、難易度の上がった集落の制圧って実行されたことあるんですか?」
にやぁ、と笑ったのが分かった。
チェシャ猫のように口元が上がって、面白いものを――――未知を見る時特有の表情を浮かべていた。
「
主への影響なのか。
その後に起こったのだろう潰し合いの結果、誰も戻ってこれなかったのか。
それを判断する基準はなにもない。
「多分、訓練階層を越えてない一年は誰もいないってことですよね。今」
「だろうねぇ、早くしないと誰か来ちゃうかもしれないけど」
「なら」
やることは変わらない。
示すことも変わらない。
ただ、結果を残すだけだ。
『……恵さん』
「良いかい、天音ちゃん」
二人で何か話しているのが聞こえた。
それ以上、内容を聞くことはなかった。
やるべきこと。
やりたいこと。
それが、かちりと嵌まったような気がした。
『剣鬼』と、『天才』と、『■女』と。
集合してしまったことに、意味があるのか。