現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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説明回と日常回。


009

 

「そんなに安いんですか?」

「そんだけ安い……というか、アレだ。需要と供給の関係性と加工の手間もあるんだけどな」

 

大体これくらい、と端末で示す。

 

一応仲間との連携用、という名目で嘗ての電話、携帯機器は生き残っている。

ただその方向性はひたすらに()()()()()()()に特化していった結果。

キャリアは国が統括し、電話と簡単な文章連絡用のアプリ、後は計算機を除けば群雄割拠。

時間潰し用の様々なアプリが蔓延る中で、未だにランキングを争っているらしい……というのは関係ない話か。

 

「え、これだけ?」

「で、買おうとすると大体こんくらい」

 

金額で言えば売却時がパン一個、買取時が最高級の夕食一食分くらい。

そんな事実を知った時は現代の錬金術ってこういうもんなんだと実感したわ。

まあ、その理由を知れば納得する部分も大きかったんだが。

 

「ええ~…………?」

「っていうのも理由があんだよ。俺達だとそこまで問題だとは思わないんだけどな」

 

ミルク一つに砂糖一個。

多少甘くした珈琲は、何方かと言えば酸味が強めの品種を独自にブレンドしてるらしい。

そんな褐色へと変貌した液体を一口飲んでから、少しだけ目の奥を光らせた少女に話を続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、っていう特大の理由がな」

 

これだ、と改めて献立(メニュー)を指差す。

反対側から見下ろす姿に併せて、僅かにシャツのボタンが揺れた。

……大分ギリギリっていうか、弾け飛ばないか不安なんだが。

 

そんな内心を抑えつつ、指した場所は『薬草茶』。

『紅茶』とはまた別の名前として記されていて、値段は凡そ紅茶の()と書かれている。

本来だったら倍どころか五倍以上は取らないと採算に合わない筈の価格破壊。

表に出てやっていけない理由もまぁ、こんな感じの趣味人な部分も大きいんだろうな。

 

「……他のお店に怒られません?」

「怒るような店は付近にありませんので」

 

脳と口が直結してるんだろうか。

真っ直ぐど真ん中の質問に、面白いことを聞いたとばかりに口元が上がっているのが分かる。

 

そりゃまあそうだろうよ。

こんな一等地とも三等地とも取れる場所でやってる店なんて、昔ながらの店か趣味人の店か。

或いは表通りの……文字通り学生向けの多大なカロリーを摂取できる学生向けの店に絞られる。

こうして雰囲気を出せる、ってだけで知識を持ってる人間からすれば……なぁ。

 

「ま、そういうわけでそもそも取ってくるヤツの方が少ないから頼んだり頼まれたりするわけだ」

 

今さっきテーブルの上に出したのがその葉っぱ。

正確に言えば加工前の品だから、これから薬草を渡しに行く人に加工して貰って、制服と引き換えに引き渡す。

ただそれだけのことではあるが、互いに多少の信頼があるからこそ成り立つ行動でもある。

顔見せ、挨拶だけでもしなければ、今後は此奴に対して線を引いた行動しかしてくれなくなるだろう。

そういう意味で、俺の信頼があるからこそ紹介して受け取ってくれる大先輩のお一人。

 

「……あれ、待ってください先輩」

「何だ?此処の代金くらいは出すが」

「それはありがとうございますけどそうじゃなくてですね」

 

軽食をパクついて、もう一度珈琲で甘さを流し込む。

軽く腹と脳にカロリーを行き渡らせて、昨日の疲れを癒やしていれば。

 

店主(マスター)さんは制服の修理ができるんですよね?」

「そうだな」

「で、そもそも修復は『能力』を持ってないと出来ないんですよね」

「何を当たり前のこと言ってんだ今更」

 

何かに気付いたように、彼女は今更のような問いを投げ掛けてきた。

少しだけ呆れ顔をするが、まさか話の流れが理解できていなかったのだろうか。

 

「ってことは――――店主(マスター)さんも『探索者』、ってことですか?」

「もう半分は引退してるから()、って付くかもしれないけどな」

 

最深階層三十一階。第三階層入口まで。

『短刀』と『忍技』の二つを与えられた、『草ノ者』と呼ばれる情報屋にして軽防具創作者。

それが、今笑っている大先輩のもう一つの顔。

 

「いや、当時は大分無理をしましたからね」

「当時っていうか……最初の探索者(ファースト)なのそんなに恥ずかしいんですか?」

 

俺からすれば憧れを通り越して絶対頭が上がらない代表なんだが。

何しろ、大災害の直後に最初に潜った探索者達の一人。

その身を賭して道を切り開いた英雄、と呼ばれるのに相応しい人。

 

「恥ずかしいですよ?」

「その感覚だけは未だに分かんねーっす……」

「月見里くんも、私と同じくらいになれば分かるかもしれませんね」

 

分かるときが来ればいいっすね、と軽く肩を竦めれば小さく肩を震わせる笑い方。

妙に可愛がられている、という自覚だけはある――――感謝以外の言葉がない。

 

「まあ、簡単な授業は此処まで。店主(マスター)、先輩に加工して貰ったら持ってくれば大丈夫ですかね?」

「ちゃんと見なければ分かりませんが、補修程度ならば……夕食までには終わらせておきますよ」

「なら頼んます」

 

行くぞ、と小鳥遊に声を掛けて移動しようと準備を始める。

少しだけ残っていた珈琲を慌てて飲み干すのを見つめつつ、大事なことを聞いてなかったともう一度店主へ目を向けた。

 

「あ、そうだ」

「今日の夕食のおすすめはハンバーグですよ」

 

そして先に言葉を封じられた。

目下から何か物申したげな視線が飛ぶが無視。

 

「なら五人分お願いします」

「はいはい、あの子もきちんと食べさせなければいけませんからね」

 

苦笑と微笑。

この関係性ばっかりは……初めての後輩には良く分からんもんだろうな。

 

だから、此方を見つめ続けるのをやめろ。

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