『……恵さん』
よく知る少女の目は物事を訴えるためのモノで。
「良いかい、天音ちゃん」
けれど、その内容に従わない事こそが彼の為だと私は識っている。
お互いの感情、お互いの知ること。
その差異が大きいからこそ、抱くべき内容は別のもの。
互いにそれを知っているから、深くは互いに言及しない――――出来ない。
「
少しだけ、仮面の裏の私が飛び出してくる。
その裏側をきちんと理解するのも、出来るのも。
多分直感で判断するあの子と千弦くん、そして先輩。
理詰めで後から理解してくれる天音ちゃんに如月くん。
そして何より、全てを包括して受け止める彼の存在が在ってこそだと
だから、すべての前提の時点で噛み合わない筈がない。
だから、そうすることに躊躇う筈がない。
間違った方向へと指し示したとして。
それを咎め合う関係性なのだから、お互いに止める選択肢を持つのだからこそ。
自分だけのものに、なんて。
歪んだ独占欲を抱く自由さえも、許される筈もない。
『……でも』
「言いたいことは分かるよ、君の立場ならそうもなるだろうさ」
気付いていなかった事。
気付くこと自体が彼を馬鹿にしていたと、精神的に傷付けることだと理解する私達だからこそ。
立ち位置が表と裏とで入れ替わりながらも、今までしてきたことは同じ目的の為にある。
少なくとも、彼女と私に限っては常に同じだった。
今までも、これからも。
『そうです……ね』
「だろう?」
本来こんな場所で話すべき内容ではない。
彼に聞かせて良い内容でもない。
でも、今だけは。
彼も此方に気遣う余裕がないからこそ、話せる事。
此方に意識を向けるのが如月くんだけの現状だからこそ、口に出して話し合える貴重な機会。
そう思ってしまう私を、僅かに残った女性らしさの
けれど別の
私自身が求めるものの為で。
彼が知らず知らずに求めているモノで。
そして、多分気付かない内に纏ったことで変異先を自身だけのものでは無くした男の子。
それを口にしてしまえば、今の奇跡のような状態は崩れてしまうだろうと分かっているから。
私達は上から、彼女達は下から。
本当にその願いを自覚するまで、支え続けると誓った――――それだけの話。
(
私の願い通りに。
望んだ通りに。
そして誰にも言わない、決定的に嫌がる形で願いを叶えた『禁知』という私の名前。
そんな呪いに歯止めを掛けてくれた大恩人に、裏切りなんて事は思い付くはずもなく。
それを望んだ相手へと、後悔という温情をも与えずに消していると聞いたらどう思うのだろう。
多分、その上でも受け止めてくれる気はするけれど。
私と同じくらいに呪いを帯びた少女を、ずっと昔に助けているのだから。
(しかし参ったなー、落ち着いてきてたと思ったのにまた顔に出ちゃった。
今度時間貰ってまた何とかしなきゃ)
そんな自分の顔色、変貌を意識できるくらいに落ち着いてきた今だから。
常に心の片隅で積もっていく砂時計の総量を思えば、内心で溜息だって吐いてしまう。
得た物は汎ゆる知識。
隠されたものであっても、失われたものであっても、本来発現さえもしないはずの物でも。
私の知識欲という
いや、侵食し続けていると言うのが正しいのか。
■女が持つ、「所詮遥かな先にいるナニカから受けた助言」。
■女が持つ、「他者へと責任を押し付けた果てにいなくなった存在の持っていた知恵」。
■女が持つ、「この世には存在しない、有り得たかもしれない
■女が持つ、「人とは違う存在が持つべき、畏怖すべき奇跡」。
■女が持つ、「人が成り代わった先、本来扱えないモノを創り出す技術」。
日々降り積もっていく、『扉』を越える度に新たに身に着ける総て。
それを受け止めるだけの器へと変貌し。
けれど得たのは、未知を既知へと変えた先の途中で得るはずだった全てを欠落させた答えだけ。
「正しい答え」は識っている。
けれど、「間違った答え」を私は持たない。持てない。
後で知ったことだったけれど。
初めて『扉』を潜る時に強く欲望を抱いて潜った後。
その欲望に呑まれ、殆どの人間は自ら無意識に死に走るものらしい。
其処から発展する種子の根幹を失って。
擬似的に咲き誇る
何よりも大事なものを得た結果、その大事なものを失う愚か者。
そうなる――――喪い行く、
無意識に向くのは、斜め後ろから見える少年の横顔。
自分の立ち位置を理解し、その屈辱を自分にだけ向けられる男の子。
自身の能力や武具ではなく、用いる特異性の扱い方と身体能力だけで生き延びてきた異性。
彼のお陰で、私は
その答えを知っていても、言うはずがない。
伝えてはいけない。
今私が帯びた呪いは、結局のところそんな事。
正しい意味での特異性を理解しないからこそ。
他者からの意見を聞かず、自分で咀嚼して納得した果てにこそ。
本当の意味での、望まなかった結果得る能力を得るのだと信じているからこそ。
「恵先輩」
「はいはい~?」
「前方右側、小隊が来てます。任せていいですか」
「はいはい、危ないから誰もそっち行かないでね」
軽い返答を交えて、投擲具を構える。
投げる。
数秒後、立ち上る黒い煙と死に至る病の感染、沈下。
この世界には有り得ないはずの病が生まれ、そして消えた。
彼の成長を見届けて。
その果てに、私達は多分。
望んだモノへと、漸く辿り着けるのだと思う。
――――多分。
千弦くんは、最初から気付いていたように思うけど。
(……男の子って、やっぱりずるいや)
勝手にお互いのことを分かるのだから。
その方が、よっぽど奇跡なのだと思う。
少なくとも、求めていた知識よりは――――今は、比重がそちらのほうが上。
絶対に、誰にも言わないけれど。
雄次(なんで此奴こんな重力に耐えてるんだ……?)
零(なんで此奴常に監視されてるような状態で平気なんだ……?)
似たりよったり。