現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「で、どーするよ」

 

ざっくり数えて一個大隊規模は叩き潰した。

それだけ前方に進むことが出来たが、その分回転率は無駄に向上している。

 

「流石にあの数相手だと疲れちゃいそうですねー」

「いや軽いなおい」

 

相手の集落の位置が見える場所。

逆に言うなら、高台……つまりは見張り台から常に監視される位置。

アレがある限り倒しても倒しても無尽蔵に湧き続けるポイントである以上は先に攻め落とすのが必須。

 

ただ、当然小鬼共もそれは理解しているから守ろうと動こうとする。

知能の差異はあっても、今回の場合で言えば数という圧倒的な戦力で押し潰される。

本来だったら背を向けて逃げても許されるだろう限界位置から踏み込むためには、更に必要だったものがある。

 

「決まってるだろ。道は作るからあの上の見張りの首落としてこい」

「だと思った――――別に俺はやれるが、道作れるんだろうな?」

「ん」

 

つまりは圧倒的な範囲攻撃に依る慚滅、或いは気配を消して後続を絶った上での殲滅。

今回選んだのはある意味両取り。

数に限りがある前者で時間を稼ぎながら、後者の選択肢を取れる雄次による首刈り。

流石に小鳥遊をあの波の中に放り出す勇気は持てなかった。

 

「恵先輩、用意はあるんですよね?」

「あるけど、此処で切っちゃうの?」

「主戦は俺の方で統制します、天音ちゃんの治癒と回復薬があれば戦闘終了までは持ちそうなので」

 

当初は逃げながら距離を詰め、隙を見つけて抉じ開ける作戦。

其の為の道具は持ち込んでいたが、前提条件が前回の波の大きさだったから不確定要素は出来るだけ削ることにした。

なので、今から取るのは本来であれば主との戦いで用いるはずだった劇薬。

()()()()()()この世界に存在する筈がない病を一時的に引き起こすという、周囲にバレるとかなり不味い闇寄りの毒。

なんでそんなもん作れるのかは今更問うだけ無駄だと思う。

 

「まあ、確かにアレなら確実に波は抑えられるだろうけど~」

「俺は強大な一体よりも貧弱な多数のほうが怖いですよ、今」

 

眼の前が少しだけ暗くなってきた。

それだけの数が此方に近付いてきている証拠。

あの波に飲まれれば、多分一溜まりもなくこんな地下深くで息絶えることになるだろう。

 

だから、今使う。

 

「まあねぇ、しょうがないかぁ」

 

何より今選ぶ理由は、人体に対して一切の影響を発生させないという特性部分。

かなり都合がいいモノとは自覚してるが、その分経費は馬鹿にならないし何より効果時間を徹底的に削り落としている。

僅かに煙のように膨れ上がり、霧のように周囲へ撒き散って、直ぐに大気に溶ける。

その数秒で此奴に突っ切って貰う関係上、確実性を取ることにする。

 

何より対子鬼に対しては実戦証明済み。

万が一の可能性は、最後の大トリだけでいい。

 

『あの……恵さん?もしかして使おうとしてるのって』

「ああ、うん。天音ちゃんは名前だけは知ってる筈」

 

空間の中から取り出したのは、瓶に詰まった真っ暗な液体。

黒ではなく闇、もっと本質的な恐怖を抱かせる色合いをした液体のようなナニカが詰まった瓶。

 

()()()()()()。皆、一応鼻と口だけ覆っておいてね」

 

無造作に投げ込まれたそれは、あらぬ方向に飛んでいきそうになったので操作していつでも叩き込める状態を維持。

胡乱そうな目をしつつも、かなり大真面目に危険度を説明されていることにビビり自分の存在を軽くする。

少なくとも、俺等が目の前にいる限りは向こうに敵意が向くことは先ず無いだろう。

 

「あの、先輩」

「あー、この毒が何かってことか?」

「です」

 

片手で鼻と口を覆っているから言葉が微妙に濁るが。

端的に伝えるなら、そうさなぁ。俺も恵先輩(つくったひと)に聞いただけだが。

 

「子鬼規模の生命体を死滅させる病を引き起こす切っ掛け、らしい」

「えっ」

 

より正確に言うなら、この地上でも在ったかもしれない可能性の知識。

『迷宮』から生命体が外に飛び出すことが叶ってしまい、人類の歴史が中世にまで逆戻りするかもしれないという幻想的な物語(ファンタジー)の一端。

『魔石』と呼べる程に体内器官の一部が肥大化出来なかった存在に対して発現した、その存在を根絶させた病。

微量に生まれていた体内のそれを急激に吸い上げ、皮膚を真っ黒に染め上げて塵と為す危険度のかなり高い病。

 

「と言っても、実際効果があるのはこの訓練階層くらいだろうけどな。これは」

 

人からは素養其の物が失われている。

故に根本的な部分での発現要素が存在せず、逆にこの病を切っ掛けにして外付けの抗う手段を開発する切っ掛けになったとか何とか。

()()()()()()()()()()()()()調()()聞かされた時は俺も恐怖を覚えたのだけは忘れない。

効果が無い、と隠して驚かしてきたので一週間くらい無視したら泣き入れてきたけど。

 

「兎も角、これを叩き割ったら前方真っ直ぐに向けて移動させる」

 

周囲に拡散するように改悪されてるから、大凡五メートル前後の一本道が出来るはずだ。

それがあの大波を割く唯一の通路。

圧を掛けるために奴等が周囲に広がっているからこそ見出だせる、死地にこそ見える生還路。

 

「ええっと……結局のとこ」

「おう」

 

頭が回っていないのか。

或いは回せていないのか。

先程までの思考と違った、冷静なもう一つの思考が主体になっているから何処か客観的に周囲を見れる。

 

自傷的な要素を含むなら……多分、自分勝手に考えられるさっきのほうが噛み合っているのだろう。

幾つかの並行思考があるからこそ活かせる、俺の手札。

そして、一振りの刃。

 

「あの子鬼を斬って斬って、斬り続ければ助かるんですね」

「合ってる」

 

その思考戦国武将というか血の赤備えとか島津とかそっちじゃないだろうか。

深く追求するのはやめておいた。結局否定しても、やることはそれと同じだし。

 

「――――じゃ、行くぞ」

 

子鬼の波、相対距離百メートルほど。

雑談する余裕がないはずの距離で。

一言だけ告げて、瓶を地面に叩き落して。

 

「死ぬなよ」

 

闇が、周囲を覆い隠した。

 

そして。

一人が、その闇に紛れた。




黒死病(ペスト)とは違う、もっと魔力寄りというか謎の病。
少なくとも現代の世界で罹患する存在は、現在を以ってしても零。
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