現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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影、と言うにはあまりに暗く。

闇、と一言で言うには重さが違う。

 

けれど、中に走らせる薬品が子鬼達の命を奪っていくのを確かに感じながら。

併せて少しでも時間差を付ける為に動かした鉄塊に覚えるのは、奇妙な違和感。

 

(…………何だ?)

 

相手の首、頭蓋、或いは脚。

生かしておいたほうが復活までの時間を稼げるとは言っても確実に狙い続ける余裕はない。

薬の範疇、其処から少しだけ出したり戻したりを繰り返して数を削る内に。

薬品が、()()()()()()()ような感覚がした。

 

一概に気の所為だと切り捨てることも出来ない。

真っ先、最も前方を走る俺が周囲に意識を取られすぎるわけには行かない。

そんな矛盾を抱えながらも、何故かは分からないが妙に気になるのは与えられた武具だからなのか。

 

けれど、そんな事を口に出している猶予は一秒だってありはしない。

 

『全員三つ数えたら右に飛べ!』

 

幾ら病を発する薬で道を作っていたとしても。

幾ら感染力を増していたとしても。

どうしてもその効果を発揮するには個体差が生じる。

 

今回においてのその個体差とは、言ってしまえば波のうねりと同じ。

何処が最初に崩れ、どの位置に脚を進めれば良いのか。

暗闇の中でそれを確かに把握し続け、道を指し示さなければ其処で詰む。

故に、()()――と呼ぶには細すぎ、そして殺傷力に優れた――を頼りに互いの位置を常に把握している。

 

『センパイ、恵さんが!』

『ああもうそうだよなぁ!引っ張れ!』

 

ついでに恐れるべきこと。

それは身体能力に差異があっても、運動神経にまで強く影響するわけではないところ。

 

つまりは引き篭もりがちな某先輩は一人出遅れ。

それのフォローを任せっきりにする必要性もある、という超絶忙しい状態。

 

『せんぱーい、前方片っ端から斬っていいですか!?』

『……左手、刃二振り分までは良い!薙ぎ払え!』

『わっかりましたぁ!』

 

それが何とか回せているのは、直感でなんか片っ端から斬り捨ててる小鳥遊がいるのも理由の一つだろう。

動かなければ不味い時には勝手に動き、そうでない時には逐一情報を投げてくる。

後輩に頼り切りになっている現状恥ずかしくもあるが、頼らないと本気で回し切れない。

 

(突き抜けるまで後二秒……そしたらそのまま回るとして……左だな、今の小鳥遊の動きで少し崩れた)

 

脳が熱を持っている。

周囲の騒がしい声が邪魔で、見張り台の子鬼を駆除できたかが把握しきれない。

だから、動きが明らかに変動するまでは動き続ける必要性がある。

 

何も言わずに左方向に軽く糸を引く。

それだけで何方に向かいたいのかの意図は伝わる。

一歩、二歩と走り抜ければ闇が晴れ、再びに広がる森林と崩れ行く死体の山々。

 

思わず大きく呼吸をしそうになった自分を押し留めながら、それでもはっきりと意思を示す。

()()()()()()()()()()()、ある程度大きな声で。

 

()()()()()()!」

 

本来向ける方向とは逆へと。

 

「はい!」

「はぁい」

『此方ですね』

 

ある程度は此方の意思と言葉を理解しているような節がある此奴等。

そして同時に臆病で、自分達が優位な状態であれば基本的にその大勢を崩そうとしないのが基本。

何より明らかな人数差、危険物を前にして多少は此方に警戒を向けるだろうがそれでも周囲を囲んで潰そうとするのは変わらない。

だから、一瞬だけ意識を逆へと向けさせた。

 

そんな小細工で稼いだ一歩。

いや、多分一歩にも満たない距離。

 

けれど、それだけの合間があれば鉄塊が最も邪魔な指揮官の顎を砕くことくらいは出来るし。

俺の倍は駆け回る小鳥遊の刃が手足の一つでも頂戴するし。

空いた一本の刺剣(いと)が間近の生命体の命を奪い、周囲に鮮血を撒き散らす。

 

今できるのはそうした小さな積み重ねによる時間稼ぎと有利の奪い合い。

相手が同等の知能を持っていれば先ず叶うこともない行動。

それでも、足掻かなければ稼げない筈の時間――――だった筈だ。

 

そういう遅滞戦闘には慣れていた。

だから、警戒しなければいけない部分は理解していた。

 

「……?」

 

そんな相手の動きが明確に狂ったように感じたのは直後。

鉄塊を相手の群れへと差し向けた時。

今までは後ろで大手を振って指揮している個体に付き従うだけだった歩兵役が、一歩だけ後ろに下がった。

 

それ自体はまあ有り得ること。

足元が正しく確保出来ていない状態なら、きちんと立ち位置を確認することくらいは出来る。

だからこそその行動を狙って脚を刈れるのだが、今の動きはそうじゃない。

 

何方かと言えば、そう。

眼の前に飛ぶものに対して、怯えるような顔をしたような気がするのだ。

 

「……気の所為か?」

「先輩!?」

「悪い、三秒でいいから稼いでくれ」

 

下手に動けば表情の変化を捉えられない。

だから無理して時間稼ぎを頼み、もう一度鉄塊をそいつの目前で動かして他の子鬼に叩き付ける。

 

(……何だ?何に怯えてる?)

 

見間違いではない。

視線で追ったその武具に対して目を見開きながら下がろうとする動き。

それも一体ではない、視界に入った奴等全員が()()()()()()()()()()怯える様子を見せている。

 

「まあ、いい」

「何がですかー!」

「喜べ、突破する道は見えた」

 

今分かったのは、俺の武具が何か道を切り開く手立てになるということ。

何に怯えているのかはまるで分からなくても、直接叩き付けるのではなくても効果を発揮するという事実だけ。

なら、その恐怖を最大限に利用するように動かしてやれば良い。

 

「俺の武具で小鬼の海をもう一度割る。小鳥遊、お前の術理の一個目の出番だぞ」

 

思い返すのは昨日。

練習していた技で、明確に対人に振るう事を前提とした連撃の一段目、その応用技。

 

「今ですか!?」

「対人向けの見せ札だって自覚してるなら対生命体には奥義くらいに格上げしてやれよ、いい機会だぞ」

「知ってたけどこの人スパルタだー!?」

 

時間さえ稼げれば。

割った海の水くらいは蒸発させる電熱を見せてくれ。

 

にやり、と笑えてしまうのが自分でも分かった。

 

今。

多分、探索者になって。

片手で数えられるくらいには、現状を楽しめている。

そう、自覚できていた。




>おや いし の ようすが …………?
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