『なぁ小鳥遊』
『なんです?』
あの時聞いたこと。
あの速度で準備するからこそ「見せ札」にしかならないと言ったのは、根底に対人の意識が根付いているから。
ならば逆に、武具が変わったことを契機に正しく術理として構築すればどうなるのか。
当人が言ったように、十分な時間を稼いだ上で『居合』のように構築すればどうなるのか。
それに対し、彼奴は少しだけぽかんとした表情を浮かべていた。
「それだけの実験が出来る良い機会だよな……!」
誰に言うでもなく口にし。
当たればどこかしらが折れる
その背を追いかけるように海を割り、一歩だけ後ろに張り付きながら鞘に刀を納めて何かを呟いている後輩の姿。
「……なぁに、これ?」
『私が聞きたいですよ……?』
そんな俺達に対して、知識を持つはずの女性も疑問符を頭に浮かべて。
頭で処理できなくなった謎を放り捨てるように諦めた口調で、天音ちゃんが愚痴を零す。
余り見受けられない二人の姿、少しだけ人間らしい姿。
その切っ掛けになっている鉄塊の変化は、特異性で触れる限りでは良く分からない。
直接肌に触れても平気なのか、或いは俺にさえ牙を剥くような何かが起こっているのか。
内側に何かを秘めているのか、それともこれ自体が何かの暗示かその始まりなのか。
『投石』という攻撃手段が古くから伝わる以上、何が繋がるのかは全く以て判断できない。
今分かるのは。
そんな使い手の俺に分からないことを、生命体は感知しているという事態其の物くらい。
(鑑定でも通すべき……いや、鼻で笑われるだけか)
一見すれば唯の石から鉄に変わっただけの武具。
刃物、弓、術具。
其れ等の攻撃する手段と比べれば明らかに貧弱で、だからこそに侮るやつは当然侮る。
信頼できる鑑定役はまともに知り合いにおらず、頼れるのは伝手を辿った金さえ払えば何でも見ると公言する裏の鑑定人程度。
そしてそんな事をしても、正式な書面は出せる筈がなく。
出したところで裏で侮られ続けるのは変わらない。
一度だけ幻想を抱き、けれど無残に崩れたあの時から。
周囲の相手は敵か味方か、どうでもいいやつか。
俺の中では大きく三つの世界に分かたれてしまったから。
「残りは」
頼れる戦力がいてくれる、今のこの状況に興奮を抱いている。
「一分……いえ、三十秒くらい、です」
していることは、試みていることは単純。
今までの半両手剣ではやろうともせず、半ば直剣に近い鞘に納めた攻撃が可能となったから試し特異性と併せ術理としたうちの一つ。
『雷』という属性其の物を体内と表皮、そして刃先を通して鞘に
ばちり、と放電が柄から漏れた。
まだです、と小鳥遊は小さく口にし。
それに警戒した子鬼が飛び掛かろうとするものの、横合いから殴りつける鉄塊が機先を制し。
そして影に隠れて動こうとした子鬼はその鉄塊に怯えることを優先してしまって貴重な時間を失う。
見せ技だと公言したのは、こんな事をする余裕を見逃すやつはそう多くはなく。
そして間違いなく警戒されるからこそ、それ以上の役割を小鳥遊が見出だせなかったから。
普段は正眼、八相、或いは地の構えと言った幾つかの構えから派生する技を身に付けていたらしいから。
即応性、という役割を強く意識して訓練してきた――――或いは一対一での戦いに重きを置いていたのだろう。
ただ、俺の提案に頷いたのは。
そうした只人の剣、構えに何処かやりづらさを感じていたからなのかもしれない。
ばちり、ばちり。
漏れる漏電の量が拡大していく。
何かを小さく呟いて。
その度に光る量と速度が増え、鞘を抑える片手も震えを見せ始める。
そうしてから、やっと。
周囲を囲まれないようにだけ気を付けて、残りの視界総てから襲い掛かられるような状態になった時。
「
薄くだけ開いていた目を正しく開き直し、宣言する。
「恵先輩に天音ちゃん、小鳥遊の後ろに!」
立場が逆転し、色々と投げ付けたり近付く相手を殺したりと足止めに徹していた二人がぴたりと動きを止め飛び跳ねた。
走るよりもそうしたほうが時間が稼げると思ったのだろう、実際走っていたらどうなっていたかは分からない。
そして、二人を巻き込まないようにと剣士もまた一歩前に踏み出す。
「小鳥遊流合戦術法、剣ノ道カラ外レ」
一歩。
更に進むだけで足元に焦げ痕のような黒い跡が残る。
元々身に着けていた技の道から外れる技、と小鳥遊は口にした。
だから、新しい技として定義する必要がある、と嬉しそうに言っていた。
「
更に一歩。
小鳥遊に振るおうとした欠けた刃を持つ子鬼の短剣に何かが跳び、その存在毎滅却した。
昨日作り上げた幾つかの術理。
より正しく言うのなら、その根底に当たる連携技としての始まり。
木行。
五行に於いて風であり雷が属する役割。
今まで身に付けていた技を金行であり根底と定義したらしいそれは、本来の相克相乗を無視して彼奴の脳内で組み合わさっている。
全てを理解出来る程頭が出来ているとは思えない俺でも、その思想だけは理解する。
全ての始まりに刃があり、そしてその発想の果てにもやはり刃があるのだ。彼奴は。
そして。
鞘から抜かれた刃は、抑え込まれていた雷という属性を周囲に撒き散らしながら金剋木の理に従って刃の線を追っていく。
遥か彼方、ずっと遠く。
それこそ、溢れ出る雷の力が尽きるまでの全てを灼きながら。
「震エ、
その言葉を発動の鍵として。
自身の行動を制御するルーティーンとして。
自身の精神を操作する切っ掛けとして。
この暗い何処かの世界で、悲鳴を上げる。
「――――
そんな名前と共に抜かれた刃が一閃し。
周囲を、白い光が満たした。
※此処までのは上振れしすぎた例外としても、きちんと自分の