光が晴れると同時に起きた……起きていた変化を含めるなら三つ。
周囲にいた子鬼達の消失。
遥か遠く、雄次が向かったはずの見張り台を残した二台の上半分の融解。
そして崩れ落ちる小鳥遊。
少しだけ離れた場所からでも分かる大きな呼吸。
汗が額から滝のように溢れ、手足が震えて暫くは身動きも取れないのが見て取れる。
がくがくと揺れる肢体を、同じように揺れている刀を支えにしているからまだ立ったような形を保てている状態。
慌てて近寄り、回復薬を頭から被せた上で丸薬を呑ませている恵先輩。
同じように糸を伸ばし、恐らくは身体に悪影響のあっただろう部分を治癒しに掛かる天音ちゃん。
そんな二人の行動を横目に、掛ける言葉は下手すれば冷たく聞こえるかもしれない。
「
適度に使うのではなく、文字通り全てを振り絞った全力。
継戦能力を投げ捨てた、その戦いで生き残る……勝つことだけを求めた一撃。
常用できるものでもないだろうし、させる気もあまりない。
ただ、
「…………まだまだですねぇ、腕とか脚とかぶるっぶるです」
「そりゃまあ、中からも外からも電撃チャージしてるようなもんだしな……」
多分一番相性がいい属性でこれ。
多少は電撃に強い肉体になってきているだろうが、それでもこれだけの負担。
必要な時に切らせることは当然だが、もう少し小回りが利く術理を構築し技として欲しくもなる。
此奴が回復するまでは事実上動けないし、少しだけの休憩を――――。
「ぉぃ」
「うぉっ!?」
肩を唐突に叩かれ、後ろを向いたら笑顔で表情をピクピクさせている
頭の上に葉っぱが一枚乗っているのが妙なチャームポイントになってる。
「お前俺がいること忘れて何しでかしてねえよな……?」
「んなわけあるかい、俺が指示したのは子鬼の殲滅だよ。
だが、まー……此方が大分ヤバかったから早めに札切らせたのはある」
どの見張り台を攻めるか、と言うのは既に話していたこと。
逃走ルート上、その方向を正面にすることは避けて幅広の三角形の範囲外から外すように動いていた。
ただ、どれだけ暗殺に時間が掛かるか分からなかったから此方が完全に押し潰される前に撃ったのはまあ事実。
当初ならもう少し逃げ回れると思っていたが、やっぱり想定と完全一致できるほどこの方面の才能は持ってない。
現場で随時調整する前線指揮官の真似事が手一杯だと自覚してる。
「あー……そうだな、そこを攻める気はねえ。此方から見てても大分ヤバかったからな」
「見張りはどうだったんだよ」
「完全防備の守護兵が三角形、死角を潰す感じでじっと見張ってやがった」
多分隠蔽、隠密タイプなら気付かれていただろう。
自分の身を軽くすることも当然出来る此奴の技だからこそ通った暗殺。
最後の方、統率が甘かったのはひょっとすれば見張り台を潰した直後だった可能性もあるか。
そんな幾つか浮かぶ思考の中。
ただ、今の情報で何となく理解出来たことが一つある。
「
「それくらいで見積もっておくのが良さそうだよな、あの子鬼の海を考えりゃ」
数が増える、というその総数の情報。
普段であれば一つの見張り台に付き配置されるのは同じ姿形をした子鬼一匹。
それが各種三箇所から見張っているから、周囲は見張れていても案外隙は大きい。
にも関わらず三倍で、その全てを見通していたと言うなら。
純粋な計算の問題上、防御側が三倍存在するという砦攻めの時の常套句の真逆という情報が出揃ってしまう。
「……流石に主が三匹に増えるとは思わんが」
「そりゃお前、仲間内同士で殺し合いになるだろ」
誰が頭になるのか、なんて争い。
人間でも子鬼でも、生命体でも。
「ただ」
「瀧野瀬先輩の言葉通りなら、まぁ……
そう、ただ。
言いかけた言葉。
主と呼ばれる存在が持つ、自分の配下に相当する劣化した生命体を呼び出す能力の通称名。
あの時は配下毎巻き込んで始末できる範囲役がいたから別だが、今回の場合はそういう訳にもいかない。
だから、当初からあの薬を用意したが――――それは消耗済み。
見つめる視線の先。
疲弊は抜け切らず、けれど確実に元気になっていく後輩。
それを再度限界まで扱き使うのなら、周囲の同類と何も変わらない。
「どーする?引くか?」
今なら、障害を排除したのなら担保にした命を引き戻せる。
代わりに失うのは先輩という信頼できる相手と、友人の貴重な時間。
「引くわけねーだろ、まだ先に進む」
「だと思った」
なら、此処でするのは
引くべき場所ではない、と俺の勘も告げている。
そんな答が返ることを当たり前に理解していたように頷く阿呆。
ただ、その成功率が低いのも当然に分かっている。
幾ら俺が制御したとしても。
全ての感覚を擲ったとしても、絶対なんてことは有り得ない。
それは、俺自身が死ぬよりも苦しむことに繋がる。
「……が、少しだけ
だから、その前に賭ける。
成功するかも分からない。
そもそも事実が正しいのかも不明。
それでも、自分に与えられたものを信じるべきだというのなら。
「賭け?」
その事実を知らない友人を置いて、少しだけ距離を詰めた。
立ち位置の関係で影になった姿が三人を覆い、此方を見上げている。
「恵先輩、ちょっとお願いがあります」
「え、お願い?」
引くとか引かないとか、そんな当たり前のことは聞かなかったし聞かれなかった。
誰もが、その責を俺に委ねていた。
「ええ」
だから――――俺は、俺が見た可能性に賭ける。
能力は変異する。
特異性は変化した。
武具は、その在り方を変えた。
けれど、それだけでないのなら。
素材が変わったと、その変化だけでないのなら。
「今日持ってきてる、ありったけの毒薬を下さい」
今日。
二度目の幻想を、俺は抱くことにする。