現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『Chapter2-5』

 

 

僅かな休息。

そして提供された物品と、自分で持ち込んだもの。

後はそれぞれが消耗した幾つかをある程度傾斜をつけながら分け与えた後。

 

誰ともなく、立ち上がって此方へと目線を向けていた。

 

「最後に聞くが」

 

全員へと目を向けて、突撃する前に意思を問う。

俺はそうすると決めていても、精神が落ち着けばまた別の考え方をする可能性があったから。

 

()()()()()?」

 

野暮だと分かっていても、言葉として知りたかった。

 

「今更だろ?」

 

最初に立ち上がったのは最もやる気を見せている友人。

此奴の場合は……まあ、口にするのも野暮ではあるが相思相愛に近い相手を助ける為。

俺にとっても損はなく――――仮に損をするとしても、手を貸していたのは間違いない。

 

「……私は、まあ。他に選択もないし~?」

 

次に口を開いたのは恵先輩。

彼女の場合は何方かと言えば俺達全体の為。

自分自身の願望を叶える為でもあり、先に進むためでも有り。

その関係性は互いにとっての利益を前提とした、けれども一歩か二歩進んだ間柄の世話になっている人。

 

『それを、センパイが決めたのでしたら』

 

続けて伝えてきたのは天音ちゃん。

彼女は何処か献身と、その裏返しの復讐心で動いている。

道を指し示した以上は、俺は其処まで連れて行く義務がある。

唯一人の人間として、見捨てるわけには行かないと思った相手。

 

「乗り越えなきゃ、先に進めないんですもんね」

 

最後に述べたのは、未だに疲労を残したままの小鳥遊。

此奴が選んだ道は、全てを血で濡らし続ける鬼か神としての道。

一度手を差し伸べられたのだから、潰える時は同じだとその目が語っている。

頼られたのだから、背中を預けなければ俺は俺自身を誇れないと思う相手。

 

「……まあ、な」

 

他に道がない。

そんな前提があるから、消極的に選んだ答え。

冒険をする必要性がない。

自然と、無意識に思い続けていた……染み付いていた考え方。

 

けれど、乗り越える必要が出た時。

自分自身の力不足で骸になるのは嫌だったから、ずっと一人で抗ってきた。

隠してきた力と、知識。

その分だけ『これしか出来ない』と思い込み続けてきた、諦めていた先への展望。

 

その第一歩を周囲に知らしめる始まりが、この先に待っている。

 

「なら、もう二度は聞かない」

 

後ろは見ない。

全員の意識を確認したから。

賭けると決めたから、幻想(ユメ)を抱く。

 

「最初に共有しておく。主は今までの子鬼の比じゃないくらいにヤバい。

 小鳥遊と天音ちゃんに理解しやすく言うなら、守護者よりもよっぽど危険だと言われるくらいだ」

 

歩き始めながら、俺が持つ知識を開示する。

実際の姿がどの程度変わっているのかは見るまで分からないが。

それでもはっきり言えるのは、主と守護者のそれぞれの立ち位置の違い。

 

「危険?」

「乗り越えるべき試練と、階層を支配する主との差だな」

 

越えなければいけない代わりに、必ず勝率が残る相手。

関わらなくとも良い代わりに、その実力を発揮させれば青天井の相手。

 

特に主は、配下を召喚する能力と一定範囲の常時強化を特性として持つと定義される相手。

先程の一撃で範囲を薙ぎ払ったからこそ最悪の状態こそ避けているが、どの程度呼び寄せるのかは推定でしか無い。

 

「普通であれば、主を相手する組と周囲を相手する組に手分けして相手する。

 が、当然この面子じゃそんな頭数の余裕は全く無い」

 

何しろ指揮役、切り込み役、斥候兼牽制役、強化弱体役に万能役。

一番大事だと言われる守護担当がいない状態での主戦、正直に言えば勝率自体は良くて三割。

まあ、その可能性をこの一回で引けばいいだけの話だが。

 

「んならどうすんだ?」

「暫くは俺と天音ちゃんで主を足止めする」

 

はっきり言ってしまえば、この面子での戦いで全てを同時にしたら簡単に殺される。

だから電子遊戯のように、雑魚……周囲を囲む召喚された配下を先に片付ける必要がある。

だから、それまでの間足止めをしながらも適度に狩れる筈の俺が立ち回るしか無い。

 

「私じゃなくてですか!?」

『私が……?』

「やれることの違いだ。天音ちゃんに頼むのは俺の肉体の防衛と回復、後は連絡・連携」

 

流石に周囲三人に糸を繋げる余裕はない。

だからある程度割り切る必要性があり、多分一番苦しむことになる俺を長持ちさせる為に使わせて貰う。

 

「小鳥遊は俺達が生きてる間に周囲の子鬼を全員潰して合流しろ。良いな、一匹も残すな」

「付け加えるなら、主の召喚する小鬼が追加される条件が()()()()()()()()()()だから、だな」

 

召喚された個体が一匹でも残っている間は此方への攻撃が甘くなる傾向がある。

腕前を見ていると言うか、本気を出すべき相手か見定めているような猶予があるからこの選択が取れる。

 

「あー……全部の首を刎ねろ、ってことです?」

「良かったな、手柄首が稼ぎたい放題だぞ」

「……俺もそっちだな、注目集めるやつがいるなら後ろから刈って早めたほうが良いだろ」

 

もう少し踏み込むなら、その間に少しでも回復を進めてほしいから。

多分子鬼単体を相手にするだけなら、今の小鳥遊なら合間の休息と回復薬の持続回復でプラス方向に持ち直せる。

最後の詰めで絶対に必要になるだろうから、戦闘しながらの回復を選んだ。

……仮にそうでなかったとしても、多分同じような選択をするしか無かっただろうし。

 

「すいませんけど、先輩は適宜強化と弱体化お願いします」

「あぁ、うん。主に回復に周りつつ、だよね~?」

「ですね、ただ強化はするとしても直ぐに反動が来るのは避けて貰えると」

「だいじょぶ、一本しか持ってきてないから」

 

本当に切り札ってとこだな。

頷いて返し、最後の一歩を踏み込む。

 

「その間の時間は俺が稼ぎます」

 

本来は崩れ落ちそうな建物が幾つも乱立する集落。

その殆どが焼け焦げ、溶けて無くなっている中。

最奥の建物だけが何の影響も無いままにその姿を残している。

 

「だから、間に合わせて下さい」

 

小さな地響き。

中から顔を覗かせたのは、その建物の何処に収まっていたのか分からない巨漢。

見上げなければその全容が理解できない、大凡五メートル程はありそうな主。

 

子鬼達の王。

鬼種とはまた別の鬼――――大鬼。

 

(……だから、頼むぞ)

 

手で触れるわけには行かなかった、俺の武具。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、唯の鉄塊。

 

けれど。

何かが反応するように返してくれているような感覚があった。

繋がりを辿って、俺の意志に何かを告げようとしているような感覚があった。

 

【GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!】

 

咆哮。

びりびりと空気が振動する音。

その声を契機に、存在しなかった筈の子鬼達が周囲から顔を見せ始める。

 

さあ。

持たざる者の抗いを、始めよう。

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