「出来るだけ早く何とかします!」
「最悪でも喉元だけは切り裂いとけ、それで楽になる!」
そんな言葉を投げ掛け合って、その場から離れていく三人と俺達。
互いに目線を一度だけ交錯したような気がし、再度体の奥底に力を込める。
周囲に響いていた騒音……叫び声。
叫喚の喚き声は自然と収まり、その場に残った俺達は未だに響く耳鳴りに耐えながらも重ねて丸薬を飲んだ。
下手すれば鼓膜を通り越して精神にさえ影響が出る
その被害の大元になるのは、耳へのダメージ由来だと分かっているからこその対策。
(子鬼の総数はやっぱ三倍弱……再召喚され続けたらさっきの二の舞いだな)
周囲に目線を向け、大雑把な数を測定した。
併せて
その手に持つ、電信柱を一回り程太くしたような丸太程の棍棒を地面に着き、此方をニヤニヤと見詰めてくる。
実際にそれが笑みなのかどうかは別問題としても、此方を嘲笑っているのは間違いない。
そしてこの状態こそが此奴の手加減状態。
戦士ではなく、弱者を甚振ることに快感を覚える類の外道。
子鬼系列の生命体が持つ固有特性は、そっくりそのままこの巨体にも適応されている。
動く時は、配下を巻き添えにし続けるような行動を取る。
だからこそ、必ず脚だけは止め続けなければいけない。
「天音ちゃん」
『はい、大丈夫です……センパイ』
伸びた糸が手首に絡まり、そのまま二人を繋いで固着する。
付かず離れずを保つ為にある程度の猶予を残した、けれどぴんと張ってしまえば行動を阻害してしまう諸刃の剣。
けれど、お互いにとっての蜘蛛の糸。
今回は先程と違って視覚を封鎖するわけには行かない。
触覚だけに頼れば良かった状態と違い、ほんの一秒の遅れが俺達全体の命を左右する遅れに繋がる。
だから、塞ぐ……感覚を遠ざけるのは聴覚と触覚。
それも完全に放り投げるわけではなくそれぞれ三割程度は残した状態。
だからこそ集中自体は先程くらいには強くはないけれど、その代わりに周囲に目を配れる状態を維持する。
何となく掴んだ今の状態。
ある程度長続きせざるを得ない戦いで必要になるであろう、新たな戦闘方法。
(俺がするべきなのは、咆哮を連打するような隙を与えないこと)
実際のところ、主が配下を召喚する行動基準は前回の参戦時で学ばされている。
それは主の咆哮に対し、周囲の配下の返答するような声が一定数を下回った時に連携して発動する。
但し、その返答が
それからは咆哮なんて余裕は見せず、荒っぽい攻撃手段で此方を真っ直ぐ殺しに来る。
技ではない。
決してアレは技術ではない。
生まれ持った身体技術のみを以て相手を単純に殴り殺そうと、野生の本能のまま暴れ狂う。
そう表現するのが一番近い。
ただ、今はそうなってくれたほうが都合がいい。
だから、再び呼ばれないように――――その前提条件を満たすまでの時間を稼ぐ。
暴れるように、此奴がこの顔を崩すように。
相手の思考を、俺一色で塗り潰す。
【GAGAGAA!!!!】
振り翳す棍棒。
右方向から斜め下に叩き振るわれるそれを右に小さく跳び、避けて。
同じく右上から液体塗れの鉄塊をその顔面へと叩き付ける。
小さな地響き。
最小量の地震のようにも感じるそれを無視。
併せて一歩踏み込みながら脛に当たる部分に杖を叩き付ける。
【GA!?】
即座に後退。
足元の小指を狙って周囲の建物だった破片を操作、集中させる。
(狙うのは急所じゃない)
その行動を片足を持ち上げることで避ける大鬼。
顔面から真下へと叩き落とした鉄塊を股下へ、そのまま持ち上げて……太腿の辺りに命中。
じわりと色が変わるのを薄ぼんやりとした視界で捉えながら即座に引き。
数十歩程離れた場所で此方に背を向けた子鬼の後頭部を抉り、鮮血の花を咲かせて即座に引き抜く。
(それをするのはもっと後、相手の思考が固まった後で良い)
僅かに赤色に染まった鉄塊が再びに黒色に戻る。
周囲に撒き散らしたのか、或いは吸い上げたのか。
けれど周囲を湿らせたような霧が武具を取り囲み、触れること自体を本能的に嫌うような雰囲気へと。
操る俺だけが、その本体の位置を知るように辺りを侵し立ち昇っていく。
(狙うのは肌、目、鼻……
毒、と一概に言っても色々と効果は違うし作用の仕方も違う。
相手の皮膚に染み込ませるようなじわじわと効果を発揮させる毒もあれば、動きを鈍らせる神経毒。
或いは粘膜越しに吸引させることで急速的に出血を引き起こす出血毒に錬金毒と呼ばれる化合された、化合物とは違う特異性を用いられた毒。
けれどそのどれも、直接的に体内に叩き込むほうが毒性が増すという前提がある。
長期間――――それこそ人間の一生に作用するほど時間が掛かる毒は用いられる筈もない。
だからこそ、俺が狙うべきなのは直接的に死に至る訳ではないけれど毒が効果的に発揮できる場所。
先程顔面に当たったのは分かったが、反射的に塞いだ瞼のせいで眼球へと叩き込むことは失敗している。
けれど、その近くに当てることには成功した。
(今のうちに、毒を当てる)
此奴が本気を出せばどの程度暴れるのかは想定と実際とでは遥かに差が出る筈だ。
俺自身の動きと鉄塊の軌道と、仲間達の立ち位置と糸の距離。
其れ等全てを調整し続けるには、主の動きを少しでも弱めて思考する幅を作り出す必要がある。
頭痛。
回復薬、丸薬に依る常時治癒。
天音ちゃんの特異性による外的治療。
脳への痛みを受け、それを即座に回復する。
下がり、上がりを繰り返す体内。
そう長くは無理は出来ない。
(
俺は、俺達は勝つ。
此方を見て笑う大鬼へ、もう一度武具を差し向ける。
幾度も。
幾度だって。
成功するまで繰り返せ。
それが、俺自身が一番自信を持てる攻撃なんだから。