中途半端な仲では1年も経てば話さなくなる。お互いがお互いの事を噂程度にしか知っていなければ会話が続かなくなる。これ以上自分が傷つきたくないから会話を途中で止める。これ以上仲良くなってしまうとお互いの悪いところまで見えてしまうので、ここら辺で打ち切りとする。
人間の友情関係というのは複雑で自己中心的だ。他人のためを思って行動しているやつなんてまず少ない。実際にいたとしても偽善で動いている可能性が大いにある。
どう生きていくのが一番楽でいられるのか。それは自分に合った生き方をするのが一番楽に生きられるだろう。だから俺は従うことにした。
────彼女の闇に。
コンコンとドアをノックし、意外にも礼儀正しい彼女は家の家主と対面する。
「おはようございます」
「あらおはようエルミアちゃん」
「イニはいますか」
「いるわよ。まだ寝てるしせっかくだから起こしてあげてくれる?」
「わかりました。失礼します」
黒髪くびれネオウルフヘアで吸い込まれそうな魅力のある深紫色の瞳の整った顔立ちをしている彼女は礼儀正しく家に入る。鼻が高く下まつ毛も長い彼女はこれでもノーメイクで、瞬きするたびにそれらが強調され、一般女性は彼女の容姿に嫉妬する事間違い無しだろう。
靴をぬぎ、こんな事もあろうかと持参していたスリッパに履き替え、手をしっかり消毒し一度洗面所で髪を整えてから二階に上がり、彼女は男の部屋へとノックもせずに入った。
「……っ!?」
荒々しい様子で開かれたドアの音で流石の俺も目が覚める。誰が来たのかと思いすぐに身体を起こすとそこには見知った顔立ちの少女が行儀悪く突っ立っていた。
だらんと着た白いレディースタンクトップの上にだらんと黒いジャケットを着ている。しっかり両手もポケットに入れておりドアは脚で強引に蹴り開けたのが分かる。先程までの礼儀正しさの欠片もない様子だ。しかもこちらを汚物を見るかのような冷たい視線で見てくる。なんて最高の朝なのだろう。
「おはようイニ」
「お、おはようエルミア」
「エル、でしょ?」
「お……おはようエル」
「よくできました」
エルはそう言って俺にお菓子を投げつけた。こんな事で褒美をもらえるなんてブラック企業と比べればよっぽどホワイトだ。
「今日も遊ぶの?」
「もちろん」
「また深淵の森に行くの?」
「そうよ」
「でも危ないよ?昨日も死にかけたし」
「それはあんただけでしょ?私は平気だった」
「そりゃ……エルは魔法が使えるし、それもすげぇ強いからでしょ……俺は魔法が使えないし……」
「………………はぁ〜」
エルはいつものように大きな大きなため息を大きく吐く。
そう、俺は魔法が使えない。いや正しくは使うことによって伴うリスクが大きいのだ。
生まれつき膨大な魔力量を持っているとされる俺は初級魔法でも中級以上の威力で出せてしまう。そのため安易に魔法をぽんぽん出してしまえば森どころか街ごと吹き飛んでもおかしくはない。よくある転生特典というやつだろうか。しかしにしても使い勝手の悪い特典だな。
そして俺は魔力制御が下手くそで自分の待つ膨大な魔力をコントロールすることができない。俺が魔法を使うと周りを巻き込んでしまうリスクがあるのだ。
それに比べてエルは地元でも随一の魔力制御力を持っており、また魔力量も平均以上のため魔法使いとして非常に将来有望だ。それに扱う属性も他者とは一線を画している。とても俺と同い年の12歳とは思えない。
「つべこべ言ってないで早く準備して。あなたが魔法を使うまでもなく私がなんとかするから」
「…………はいはい」
俺自身もエルの実力は認めている。彼女になら自分の命を預けてもなんとかしてくれそうだ。そんな魅力が彼女にはある。俺はそう信じてエルを部屋から追払い、着替えなどの朝の支度を始めた。