ここはユガル王国の端にあるアランという街だ。その街はユガル王国の支援が行き届いていなく、その上『深淵の森』という中級以上の魔物が多く存在している森まである。
俺は魔法使いの家系に産まれた。代々ユガル王国の王都に派遣されている魔法使いの家系だ。俺も魔法学院を卒業して大人になれば派遣社員のごとく派遣魔法使いとして働くことになるだろう。
この世界の魔法使いは基本的に自由だ。王都の魔法学院も入学が義務付けされているわけではない。高みを目指す魔法使いのみが魔法学院の入学試験を受け、入学する。魔法学院では魔法についての様々な知識や技術が教えられ、卒業する頃には生徒のほとんどが一流魔法使いになれるらしい。
もちろん俺の親も俺をそこに入学させるつもりだ。だが魔力制御が下手すぎる俺は正直入りたくない。馬鹿にされるのがオチだ。前世でいう運動神経が魔力制御だとすれば、今の俺は運痴ならぬ魔痴、とでも言うのだろうか。運痴よりはマシかな。
無駄話は置いといて。今俺とエルは深淵の森に足を踏み入れている最中だ。
「なぁ、今日はどこまで進むんだ?」
「行けるところまで行く。今日も夕方まで帰さないからね」
「……はぁ。マジか」
深淵の森。そこに足を踏み入れた瞬間辺りは不気味な薄い霧に覆われ、陽の光も薄くなり辺りが薄暗くなる。生えている木のほとんどは魔力樹と呼ばれる魔力を帯びた珍しい樹木だ。
この森に生息する魔物のほとんどはこの魔力樹から栄養を摂取しているため、自然と魔力量が日に日に高まっている。それらが原因でこの深淵の森にいる魔物は中級以上のモノが多いのだ。
そしてこの深淵の森に終点はない。森自体に特殊な魔法が付与されており、この森は入り口こそあるが出口がないのだ。そのためこの森は別名、永遠の森と呼ばれている。
「大丈夫。危険だったり、入り口が分からなくなったりしたら私の【
闇属性魔法【
【
しかし一度の使用で相当な魔力を消費するため今のエルでは使えても一二回程度が限度だろう。
そもそも【
「あ〜あ、イニの魔力が使えたらいいのに」
「生憎様、俺は闇じゃなくて炎だから」
「さっさと魔力制御上手くなりなさいよ」
「ぅぐ……それはそうだけど」
エルの言う通り。俺は同年代の中でも多分魔力制御は下手くそな方だろう。転生特典か何かは知らんが、せっかく膨大な魔力を手に入れたのに勿体無い。
「エルは魔法学院に入学するだろ?」
「する」
「あー……その、大丈夫なのか?使い魔とかその辺色々と」
闇属性魔法使いは先程述べたように、魔力の消費量が半端じゃない。
そのため闇魔法を扱う者のほとんどは自身の魔力を補うための媒体である使い魔と契約する。
使い魔と魔力を共有し、時に使い魔を操ることでようやく持続的に他者と渡り合うことが可能なのだ。
しかしエルはまだ使い魔を持っていない。契約する機会はあったが何故か避けていた。
「大丈夫、だと思う。今から特訓でもすれば魔力量増えて使い魔なんて必要なくなったりするんじゃない」
「適当だな……」
昔から俺の前では色々と適当な彼女だが、他の人の前では礼儀正しい良い子を演じている。いつかボロが出てしまわないか心配だ。
それに、王都で活躍する闇魔法使いでさえ、その魔力消費量を補うために使い魔と契約しているので今のエルは本当に何がしたいのかよく分からない。
「静かに」
「……」
エルは突然足を止め、辺りを確認する。魔物が近くにいるのかと思い、俺も警戒心を強める。
「…………どうした」
「近くにいる。それにこの位置からでも伝わってくる魔力量……笑い事じゃ済まないかも」
「逃げた方がいいじゃないか?」
「いいや、一度戦ってみよう」
エルはそう言って近くの樹木を揺らし、大きな音を立てて魔物をおびき寄せた。
「何してんだ静かにした方がいいって!」
「あんたも大概だけどね」
すると奥の方から明らかに人ではない何かの影が迫ってきていた。その影は徐々に大きくなっていき、足音までハッキリ聞こえるほどの距離まで近づいてきている。
その時だった。
「【
エルの足元に魔法陣から展開され、さらにエルの頭上付近に二つの魔法陣から展開される。
先手必勝と言わんばかりに、魔物の姿が完全に見える前に魔法陣から一定の間隔で黒い弾丸が連射された。
「もうそこまできてるの!?」
「きてる。無理だと判断したらすぐに逃げるから、私の側にいて」
しばらく前方で揺らめく何者かの陰に魔法を放ち続けていると、ついに魔物が霧を抜けて姿を現した。