時はレイたちがマクニール家を襲撃した後のことである。
ウールオル地方に春が来た。そして。
大規模な火事があった。
火元はレイたちのアジトである山小屋と判明し、彼らの火の不始末が原因かに思われたが、三人はその日の朝早くから釣りに出かけており、釣果に恵まれ生まれて初めて宿屋に泊まっていた。
その日はいつもより、ちょっとだけ風が強かった。
火事が起きたのは夜中のことであり、シーダの森のあちこちで火に巻かれたであろう不審な余所者たちの死体が転がっていた。その中には馬型獣人のものも二人分ほどあった。
森林火災を舐めてはいけないのである。
ズルスルも焼け死んでいたこと、近隣住民のババデルがマクニールの黒い繋がりを皆に教えたことや、不審者たちが森中に油のような物を撒いていたと、危うく巻き添えを食らう所だったメイガスの証言などもあり、レイたちの疑いは晴れた。
しかしそれは同時に、彼らが地元の領主に命を狙われる存在になったという、何よりの証拠だった。
そして……。
「村から出て行け!」
「そうだ出て行け!」
「オレたちまで巻き添えはゴメンだ!」
村の人々が少年たちを追い出すのに、時間は掛からなかった。
「愉快だね。まあ、言い分はごもっともだけどさ」
「この恩知らずども!オレたちがいなけりゃ今頃飢え死にしてたくせに!」
「何とでも言え!お前たちはやり過ぎたんだ!」
「まったく、こんな奴らをちょっとでも見直したオレたちがバカだったぜ」
「お前ら……」
ティーポは剣を抜き、魔法を使う準備を始めた。顔には失望の怒りが満ちていた。
「オレたちのほうがヌエより強いんだからな!」
『!!』
「おいティーポ、よせ!」
「ド・メ・ガ!」
集まっていた村人たちが爆風で吹っ飛ぶ。奇跡的に誰も死ななかったが、彼らは火傷と裂傷の傷みで、あっという間に黙った。
「ふーっふーっちくしょう……」
ティーポは泣いていた。裏切りを責める眼差しで、汚い物を見るような目で、大人たちを睨んだ。
「……ってやる」
「おい、ティーポ……」
「言われなくてもこんな村出てってやる!自分たちじゃ何もできないくせに!お前たちなんかヌエに食い殺されてればよかったんだ!」
一通り叫ぶとティーポは駆け出した。リュウはおろおろとレイや村人、ティーポの向かったほうを見回すばかりだった。
「うちは焼けたし、村にもいられない、か。どうする、リュウ?オレはティーポを追うが、お前くらいなら村に残れるかも」
レイが後頭部を掻きながら言う。
しかしリュウは首を横に振った。村人たちは項垂れたまま、決して彼らと目を合わせようとしない。こんな所にいても仕方がない。
「そうか。まあ三人でアテの無い旅ってのも、案外悪くないかもな」
リュウはうんうんと頷く。レイは村人たちへ振り替える。
「オレたちは、あんたらともう少し、仲良くしたかったんだけど、どうやらそれは間違いだったらしい。じゃあな」
言い捨てるとレイは静かに歩き出し、リュウも慌ててその後を付いて行く。
街道ではティーポが蹲っていた。既に泣き腫らしたのか目は真っ赤だった。
「兄ちゃん……リュウ……」
「ちったあ気が済んだか?」
「全然、でももうどうでもいいや」
「そうかい。オレは少しすっきりしたぜ、ありがとよ、ティーポ」
レイは軽く両手を開くと、弟分のフォローをした。だいたい本心ではあったが。
「とりあえず村を出て、どこかには行かないといけないが、お前ら行きたい所とかあるか?他にやりたいこととか」
「ウィンディアに行こうよ!こんなちんけな田舎じゃなくって、もっと大きい街!そこでオレたちは大泥棒になって名を上げるんだよ!」
「愉快だね。オレとしちゃ、そろそろこの仕事から足を洗いたかったんだが、リュウは?」
問われてリュウは傍を流れる川を見た。つい先日まで釣りをし、日銭を稼ぐ、皆で騒いでいた、あの日を。
「釣りが、したい」
その一言が、三人の運命を大きく動かすことになるとは、この時はまだ、知る由も無かった。