「ギャウー!」
「なんやドラゴン言うてもガキやんけ!返り討ちにしたるわ!」
ピンクのイルカとパープルのドラゴンは、正しく野生動物そのものと言った激しさで取っ組み合っていた。
「あれ、ティーポがいない!」
「ていうか何か揉めてるわね」
妖精さんやリュウたちを呼びに行っていた、ニーナたちが戻る。
そこには凄まじい剣幕で争う二匹の獣。
「あいつよう!あのイルカが私たちをいじめるのよう!」
「ええ!?でもさっきは大人しかったのに」
「いや、よく聞いて見ろ」
レイは事情を呑み込めないながらも、二匹の戦いを注視し、またイルカの声を聞いた。
「女のフリしたガキや思たら人間のフリしたドラゴンとかどんだけ擬態すんねんアホボケカス!そんでアホボケカス!もひとつおまけにアホボケカス!」
「ギギィーッ!」
まるで芸人の如き連続罵声!
しかしティーポも負けじと噛み付いたまま引っ掻きをやめない!
不自然にメカメカしいイルカのボディが徐々に壊れて行く!
「すっごく口が汚いわー」
「そんなことよりもあの口ぶりだと、あの紫の奴がティーポらしいぜ、リュウ」
肩を竦めてレイが言う。戦いの決着はティーポに傾きつつあった。
「え?だってティーポでしょ、あれ」
「……なんだって?」
「ぎえええええーー!」
その時である。
イルカの身の毛もよだつ断末魔に、全員の視線が集まる。
「こっこんクソガキ、これで、勝ったと、思うなよー!」
やはりメカだったのか、イルカは負け惜しみを吐いて爆発!
「ギギュゥーイ!」
ズタボロにはなったものの、ティーポは誇らしげに勝鬨を上げる。
「おーいティーポー」
「あっおいリュウ!」
『何故か』ドラゴンをティーポだと判断してリュウが駆け寄る。
周りは焦りながらもどうしていいか分からずに、二人の動向を見守るしかない。
「すごいなあ。ティーポ一人でやっつけちゃったね」
「ぎゅいぎゅい!」
ドラゴンパピー(紫)はドヤ顔で胸を張る。まだ自分が変身したことには気付いていない。
「ぎゅわーぎゅいぎゅい。ぎゅぎゅー」
「随分怒ってたけど何言われたの?」
「ぎゅ……、ぎゅんぎゅんぎゅ」
「そっか、悪口だし言いたくないよね」
普通に話せるリュウとティーポのやり取りに、一同は顔を見合わせる。
そんな中、意を決してレイが前に出る。
「おい、ティーポ、か?」
「ぎゅい?」
「いやお前、姿がさ」
「ぎゅぎゅぎゅ?」
その隣にニーナが走って来る。
手には身だしなみチェック用の手鏡が握られており、灯台の明りを受けて、彼の姿を映し出す。
「……ぎゅぎゅい!?」
自分の姿に驚くティーポ!
「ぎゅわっぎゅわっぎゅわーー!?」
驚いてその辺を走り回るティーポ!
「みんなティーポの言葉分かんないの?」
「逆にどうしてリュウは分かるのかしら」
「ぷきー」
ともあれ、このままこうしてもいられないので、一同は妖精さんの小屋へと引き上げた。
「しっかしどうしてこうなったんだ」
「ティーポはすっごい悪口を言われて、カッとなったらこうなったんだと思うって」
「きゅう……」
言葉が話せなくなったティーポは、部屋の片隅で落ち込んでいる。
それをニーナがなでなでして慰めている。
「ぷきーぷいーぷ」
「たぶん寝たら治るんじゃないかって」
「リュウは色んな人の言葉が分かるのねー」
「そんな単純な話か?いや単純な話だったけどさ」
何故だかペコロスとドラゴンの言葉を通訳できるリュウ。
誰もが懐疑的だったが、現状では様子見しかできない。
「なんだか色々問題が起きたみたいだけど、こっちの問題は片付いたわよう!そこはありがとうなのよう!」
妖精さんは話がちゅうぶらりんにならないよう、自分から節目を作りに行く。
コミュニケーション能力の高い生物である。
「もしも困ったらここで暮らせばいいよう!でもその代わりにここを発展させて行って欲しいのよう!」
そしてちゃっかり共同体の話もしておく。
「ははは、どうも」
図らずも定住候補が決まってレイが苦笑する。
自分が虎に変身出来ることも踏まえると、案外悪くないのが悲しい。
「ぷぷすー」
「もし戻らなかったら逆に疲れ切ってみようってペコロスが」
「ああ、そういうセンもある、だろうな」
レイの歯切れは悪かった。自分から虎になることはできるが、自分から変身を解くことはできない。
本編ではそういうジレンマが彼に実装されているのだ。
「とりあえず今日はもう寝よう」
「そうね。手がかりもない内から考えても仕方ないわ」
年長組に促され、じゃりン子キッズも休むことにした。流石に小屋が狭いので、キャンプをしに外へ出る。
「じゃお休み」
「おやすみなさーい」
さして気にしないみんなに、ティーポは安心と不安を覚える。
人間と体が違うので、いつものような寝方ができない。ペコロスも参考にならない。
(もしもずっとこのままだったらどうしよう……)
少年は想像する。自分が人間に戻れず、時が流れたら。
(今はまだ小さいけど、大人になったら羽もでっかくなって、空も飛べるんだろうな。そうしたらレイ兄ちゃんたちが盗みに入った城とかで)
――追い詰めたぞ盗人め!大人しく捕まれ!
――誰が追い詰められたって?ティーポ!
――グオオオオォオオオオーー!
――なんだ!?このとても強そうでカッコイイモンスターは!?
――こんなすごいの見たこと無いぞ!
――へへ、リュウ、ティーポ、ずらかるぞ!
そして二人を背に乗せ、颯爽と飛び去る自分。
(意外と悪くないんじゃないか?)
あるいはニーナとは別の、もう少しお淑やかな女の子と知り合って。
(それにもし戻れたりしたら)
――まあ!まさかあの強くて恐ろしいモンスターが、噂の天才美形魔法戦士怪盗ティーポ様だったなんて!
――黙っていてごめん、君とはこれでお別れだ。
――そんな嫌です。私も連れてってください!
などと先日の港での一件に、見事に感化された妄想をしてみたり。
(参ったなあ。このままだとオレの未来、大変なことになっちゃうんじゃ……)
大して酷い目にあってないせいか、彼の自己評価は高止まりしたままである。
(オレだけすごいモンスターだと、リュウの影が薄くなっちゃうな。せめてリュウもオレと同じだったら……、いやそれだとレイ兄ちゃんが地味になっちゃうか)
彼の悩みは兄弟分たちよりも自分が目立ってしまうことにシフトしつつあった。
(急にオレだけすごくなっちゃって、何だかみんなに悪いぜ)
なんて調子に乗ったことを考えている内に、段々と眠気がやって来た。
仲間たちはどうしたものかと悩みはするが、誰も彼を怖がったりしない。
(流石に疲れたし寝よう。その内何とかなるさ)
そのおかげか、テントは狭いがみんなの寝息は穏やかで、やがてそこにティーポの分も加わって行った。
そして夜が明けた。
「うーん……」
「あ、ティーポおはよう」
「おはようリュウ。お前って早起きだよな」
「朝一の釣りは気持ちいいからね」
まだ他のみんなが寝ている中、一人早朝の釣り支度をしているリュウの気配を察し、ティーポものそのそと起きて来る。
「ティーポもまだ寝てたら?昨日は大変だったんだから」
「昨日?昨日って……あーーーーーーーーっ!」
「うおっ何だ敵襲か!?」
「えあっなになになんなの!?」
「ぷきすー」
飛び起きた年長組がテントから慌てて顔を出す。そこには自分の体をパタパタと障りまくって驚いているティーポがいた。
「レイ兄ちゃん、おっオレ、オレ」
そしてこう言った。
「元に戻っちゃった!」
「……おう、そうだな」
「良かったわねー」
安心と共に興味を無くした二人は、そのままテントに顔を引っ込めた。
「えっちょっ、何だよ、オレ元に戻ったんだって!」
「じゃあボクも釣り行って来るから」
「ええ~、何だよみんなしてもう」
問題が解決したら心配はされなくなる。世の中はそういうものなのだ。
もうちょっと構って欲しかったティーポは、逆にドラゴンになる練習を始めるのだが、何はともあれ彼は元に戻った。