――おい聞いたか?今年の漢羅強烈大武会。
――どうせまたガーランドが優勝したんだろ?
――ああ。それで飽きて里帰りに出たとか。
――里ねえ、あんな化け物の故郷ってドコなんだろ。
港町ラパラの食堂。灯台の問題を解決したリュウたちは、荷運びギルドの前マスターたちから謝礼を受け取った。
今は皆してちょっとリッチなお昼を食べている所である。
「さてと、色々あったけど、そろそろ次の予定を立てないとな」
小魚の揚げ物を摘まみながらレイが言う。観光も一通り終えたので、後は残るか出発するかである。
「ええ!?まだもう二、三日いてもよいのでは!?」
家出してまだ二、三日しか経っていないニーナが言う。日帰りだった前回よりも記録は更新中だ。
「私もまだ船を見てないわー」
次にモモが不満を漏らす。元はと言えば完全にノープランで便乗したので、文句を言う筋合いはない。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
「ティーポ早く食べなよ」
ティーポとリュウはフナムシのからあげを挟んで睨み合っていた。
じゃんけんで負けた方が食べるという勝負をして、見事にティーポが負けたのだ。
以後ずっとこの膠着状態が続いている。
「あのなあって、まだ船が戻ってないのか?」
「ええ、実はそうなんですよ」
料理を運んできたウェイトレスが会話に加わる。
こうやって要領よく仕事を中断する人がたまにいるのだ。
「参ったな。モンスターは倒したし、灯台も直したから、これ以上できることはないぜ?」
「でもここで引き下がったら、私たちにあらぬ疑いがかけられるかもしれないわ!」
言外に居残るべきだと主張するニーナ。
彼女とリュウは仲良くお子様ランチを頼んだ。
後で旗とお魚さんの飾りを交換してもらえることになっている。
「たぶん機械浜にいるとは思うんですが、きっと灯台の明りとは別の理由で帰って来れないのかも。例えば船が壊れたとか」
「そうなると船員は徒歩で帰って来るしかないわね」
話の裏ではティーポがリュウの気を逸らし、その一瞬でからあげをペコロスの口に放り込んだ。
ペコロスが泣きそうな顔でリュウを見ると、リュウは咎めるような顔でティーポを見る。
ティーポは口笛を吹いて目を逸らした。
「でも今は歩きは無理じゃないかな?ズブロ火山は噴火して、山道は塞がっちゃったし」
「そうなると打つ手なし、か」
流石に食料くらいは持っているだろうが、それも何時まで保つか。
「ねえねえレイさん、私たちで様子を見に行ってあげましょう!」
何やかんや人のいい年長者の良心をニーナが突っつく。
早くも人心掌握を身に付けつつある恐るべき幼女である。
「あのなあ、そうは言っても道がないって話だったろうが」
「いえ、一応あることはあるのよ?」
ウェイトレスが助け舟を出してしまう。レイは困り顔を浮かべ、ニーナは目がしいたけになる。
「教えてください!」
こういうときのニーナの反応は早い。声も大きい。
「山道が整備されるまではね、火山の中の洞窟を通ってたんだって。とっても危ないから、当時は腕っぷしの強い人たちを集めて、向こうと行き来したそうよ」
地元の昔話はわりと教えられているもので、ウェイトレスさんもその例に漏れない。
「そこを通るにはどうしたらいいですか!?」
「荷運びギルドのマスターさんに頼んでみたら?でも危ないから、やめたほうがいいと思うけど」
――おーい、料理を早く持って行ってくれー!
「おっといけない。それじゃごゆっくり!」
ウェイトレスさんは席を離れると、後にはやる気のオーラが立ち上るニーナと、あっちゃーという風に顔を押さえたレイがいた。
「ねえ聞いた!?行ってあげましょうよ!」
「あげましょうってお姫さん、あんたね」
「みんな一緒なら大丈夫よ!ね?」
振り向くとみんなもだいたい食事を終えた所だった。
「そうね、例え船が壊れていても、それはそれで見る価値はあるわ」
「はいモモさんはこっち!ペコロスもこっち!」
早い者勝ちと言わんばかりに自分の票を固める王女。末恐ろしい行動力である。
「リュウだってまだ大物を釣ってないわよね?火山の向こうの釣り場にはいるかもしれないわ!」
ボーンドマリーナ、ランタンキャット、ボルデビが釣れるのは、火山から先の釣りポイントなので、外れではない。
「うーん、そうだねえ」
普段ならぼんやり流されるだけの彼だが、しかしこの時は違った。
「ボクとモモが行くのはいいけど、危ないからニーナは待ってたほうがいいと思う」
「え!?」
完全に予想外だったのか、ニーナは信じられないとばかりにリュウを見る。
だが彼は珍しく彼女を見つめ返した。
「ニーナの提案は良いと思うけど、ニーナがすることはないと思う。ここは二手に分かれるか、せめてニーナを返してからやるべきじゃないかな」
少女の身を案じるが故に出た言葉が、皮肉にもニーナの意図を遮る形になってしまう。
(リュウ……私のためを思って……!でもタイミングが悪いわ!)
浮かれ半分衝撃半分。
理解のある彼による、思わぬ妨害にニーナはたじろぐ。
逆にレイはうんうんと頷いている。
「てぃ、ティーポはどう思うの?」
「えっああ、オレはどっちでもいいよ」
ペコロスに謝っていたティーポは話を聞いていない。
こうなると最終的判断はリーダーに委ねられる。
「分かった。一応おっさんたちに聞くだけ聞いて見よう」
「やったー!」
「ただし、火山に行くのは三人だけだ。全員固まって行って崩落や噴火になったら、助けにも行けないからな」
「うっ」
放っておけばまた全員で行くという流れになってしまう。しかしそれは危険過ぎる。
レイは意を決した。
「行くのはオレとリュウとティーポ、残るのはお姫さん、モモ、ペコロスだ」
『ええ~!?』
これには女子二人も憤慨である。
「ちょっとちょっと、この話の流れでどうしてそうなるのよー。百歩譲って私がレイのポジションでしょー?」
「そうよレイさん、そこは私とリュウとモモさんじゃないかしら!」
非難ごうごう、不満たらたら。しかしレイは頭を掻きつつ言う。
「いいか?お姫さんは今からお城に送り返してもいいんだぜ。モモだって船が戻れたら拝むチャンスがある。少しは我慢を覚えよう、な?」
『うっ』
自分の空腹を耐えて弟分たちに食べ物を回す男の言葉に、少女たちは言い返せない。
自分たちの言い分を聞きながら、危険から遠ざけるという選択を考えたレイを、無下にはできなかった。
「安全に通れそうだったら、後から来てもいいから」
「分かったわ。ここで三人の帰りを待ちましょう?ニーナ」
「はい……モモさん」
「ぴきぷー」
かくして男三人はズブロ火山へ。
女子+αはラパラに残ることとなった。
果たして彼らの行く先に、何が待ち受けるのか。