ズブロ火山洞窟にて。
「あっちい!くっせえ!」
「前もこんなことあったよな」
「ごみ処理場も火山だったし」
ニーナの唐突なわがままに応じ、人助けに出発したリュウたちは、灼熱の洞窟を進んでいた。
「しかし、えらくすんなりとお許しが出たもんだ」
レイがぼやきながら二人を引率する。内部の光源は未だに赤々と輝く溶岩くらいであり、黒く固まった部分も高温のままだ。
「全然嫌な顔をされなかったのが怪しいぜ」
「まあボクたちも腕は立つし」
荷運びギルドのマスターに、洞窟の通行許可を求めた所、二つ返事でOKが出た。
ニーナの身を案じたリュウからすれば、一人娘と跡取りになる青年や残された船員たちを、危険に晒したくない気持ちは理解できた。
「断る理由が無いと思う」
「そりゃそうか。ただなあ」
熱蒸気や異臭のするガスの噴出口を、タイミングよく横切りながらレイがぼやく。
「さっき強そうな連中いたよな」
「あいつらなんで行かないんだろう」
洞窟の入り口では岩石系のモンスターからプロテインを盗んだり、ラーバビーストに火薬玉を何度も使ってから、氷河の欠片で倒す人たちがいた。
とても強そうな彼らは修行をしているのだといい、ずっと前からここに籠っているのだという。
「ボクあの人たち怖い。関わらない方がいいと思う」
リュウは彼らを見て怯えた。何故か自分たちに似ているようなか気がして、それが恐ろしかったのだ。
「変だよな。もしかして本物のオバケとか」
「こんな場所だし、十分あり得るな」
「未来のボクたちだったりして」
「おいリュウ、怖いこと言うなよ……!」
こういうとき全く導線のないことを言われると、逆に信憑性が出るのが怪談というものである。
「第一オレたちに全く似て無かったろ。ほら、例えば、例えば、あれ?」
レイガで出した氷を後生大事に抱えながら、ティーポが呟く。
ちなみにスキルノートで移せる分は、レイが覚えている。基本的にAPを使わず、またリュウの負担を減らすためである。
「どうしたティーポ」
「あいつらどんな格好だったっけ……」
「そういえば、オレも思い出せないな……」
「止そう、これ以上は」
暑さに頭がやられてしまったのか、それとも何か超常的な理由があるのか。
三人は修行をしていた人たちのことを、頭から追い出した。
「こういうとき、モンスターの一匹くらい出て欲しいもんだぜ」
ズブロ火山のモンスターは種類が少なく、その辺にいるカザンガンが場所を占有しまくって邪魔になっている。
敵も味方も行き来が困難であり、リザードマンやラーバビーストともあまり遭遇しない。
お互いが迂回した先で鉢合わせるか、どうしてもカザンガンを退かさないといけない場合、奥に詰まってる連中も一緒に倒すくらいだった。
「でもあの岩さあ、なんであんなキンタマだけピカピカなんだろう。誰か磨いてんのかなあ」
「え、背中側だしアレはおケツでしょ」
「どう見てもキンタマだって」
「おケツだよ」
「キンタマ!」
「おケツ!」
「キンタマ!」
「うるせえぞおめーら!」
幼い時分の子どもの感心は下ネタである。
じゃあ下ネタに関心のない時分があるのかと言えば、それはまた別のお話。
「まったく、もう少し緊張感を持てよ。一応はモンスターだっているんだ。ヌシみたいな奴がいるかも知れないだろ」
「へん、そん時はオレたちでやっつけりゃいいんだ。な、リュウ!」
「絶対おケツだよ」
「……オレが悪かったよ」
譲らない弟分に口をへの字にすると、ティーポは黙った。同調してもらえなかったせいで、話の腰が折れてしまった。
「ともかく油断はするな。特に今回は足場が、これまでのどんな敵よりも危険なんだから」
「でもお宝あったら無理して取りに行くでしょ」
「それはそうだけどよ」
悲しいサガである。
「逆に言えばさ、気を抜かなけりゃオレたちなら大丈夫ってことだろ」
「全く、ティーポの旦那には頭が下がるよ」
ああ言えばこう言う弟分に、レイは頭を悩ませた。
自分もそれなりに自信があるし、何やかんや色々な冒険をして来た。
リュウたちも結構強くなった。しかしティーポの場合は強さに対して倍々式に天狗になっていく。
「いざとなったらオレがドラゴンに変身して、みんなを守ってやるって!」
みんなと一緒なら大丈夫という、絶対的な価値観はニーナと同じであり、滅多に同調しないがそうなったらもう終わりだ。
一丸となってどこまでも突き進むしかない。
(その内やらかすだろうが、どうしたもんかね)
気が付けばレイにはすっかり保護者としての考えが根付いていた。
「ティーポ、アレから変身できるようになったの?」
「いや、それはまだ練習中だけどさ」
「あんまりひけらかすなよ、街に入れなくなるぞ」
などと言っている間にも一行は洞窟を進んだ。
人数は半減したものの、早々後れを取る三人ではない。
やがて。
「うお、すっげー橋!」
三人の前に大きな溶岩溜まりと、その上に渡された白い架け橋が現れた。
「どうやら本当に向こうと行き来してたらしいな。頭が下がるぜ」
「どうやってこんなの作ったんだろう」
「待って。二人とも
レイとティーポは暑さも忘れ、しげしげと橋を見つめていたが、リュウは一早く異変を察知して剣を抜いた。
「リュウ、どうした」
「誰かいる」
いつもの彼らしくない様子に、二人も慌てて身構える。
それと同時に、橋の先から一人の人影が現れた。痩せ細った顔色の悪い老人だったが。
様子がおかしい。
「……とうとうここまで、追手が来たのか」
「兄ちゃん、あいつ」
「下がってろティーポ」
目の焦点は合わず、口からよだれを垂らし、うわ言繰り返しながら、徐々に近付いて来る。
「じゃがなあ、例えお前らが、どれだけドラゴンを殺そうと、我らドラゴンの一族、決して滅びはせんぞ。滅びは、ぐげ」
老人は狂っていた。
何かに酷く傷つけられ、正気を失い、それは二度と元には戻らなかった。
「ぐげ、げっげっげ、我らの、ドラゴンの怒りと恨みを知るがいい……!」
狂人特有の距離感の無さ。一切のオブラートを介さない迫力が、少年たちを圧倒する。
老人、ギシャボルゴは両手を高々と上げると、洞窟を震わせる勢いで叫ぶ。
「アアアアァァァァビイイイイィィーーーー!」
「ルウウウゥゥゥゥファアアアアァァァスッ!」
溶岩の中から二匹の巨大な火竜が、その鎌首をもたげた。
「愉快だね、幽霊の方がよかったくらいだ」
「…………」
リュウは先頭に立つと、どこか懐かしさを覚える亡者たちを相手に、無言で剣を構えた。