ウルカン・タパ
そこは小さな集落だった。
村と呼べるほどのスペースに住宅が密集、というよりも砦紛いの集合住宅という様子だったが。
「はー、家が一塊になってんのか」
「でっかいテントみたいだなリュウ」
「王様でもいるのかな」
入り組んでいて身動きがとり難い中を、リュウたちは四苦八苦しながら進んだ。
ガーランドなどは明らかに出入口に対して大き過ぎるのだが、まるで鳥のように体を細めて通った。
キッズたちはその気持ち悪さに大はしゃぎである。
「宿はここだ。道具屋も近くにあるから、準備をしていくとよかろう」
「ありがとうございます。ガーランドさんはこの後どうするの?」
宿と呼べるかは怪しいスペースを尻目に、ニーナがお礼をする。
後ろではモモが荷物と自分たちの寝る場所を、パズルでも解くかのように並べては頭を悩ませている。
「オレは長に会って、挨拶と旅の報告をする。その後のことは決めていない。ただ」
「ただ?」
「オレは邪悪と戦う使命を帯びている。また直ぐに旅に出るだろう」
そう言ってガーランドは身を補足すると、体を屈めて部屋を出て行った。
「邪悪と戦うって、何のことかしら?」
「ああ、旅の方はご存知ないかもしれませんが、あの方は人々を守護するガーディアンなのです」
部屋割りが中々進まないリュウたちを他所に、宿の受付らしき女性が話し始める。
「このウルカン・タパには古い言い伝えがありまして」
女性はそこからツアーガイドの如く、邪悪と女神の戦いを語った。
とはいえドラゴンとミリアの名前は伏せられているので、内容はスカスカのふわふわで、言われてもよく分からないものだったが。
「大昔にすごいモンスターが暴れていて、ガーランドさんたちはそのモンスターと戦うためにモンスターみたいになって、そのおかげで今は平和になったのね」
「すごい!お嬢さんは頭がいいですね!」
「えへへ、それほどでも……」
ニーナの要約に女性が感動する。
実行犯たちの間でも忘れ去られるように仕組んだ辺り、この宗教は相当に質が悪い。
「それでお役目を終えたガーディアンたちは、自分たちのお墓へ行って眠りに就くのですが、ガーディアン・ガーランドだけは、今も邪悪の生き残りを探して、世界中を旅しているのです」
自分が最後の一人になり、かといって敵を滅ぼせたかは不明で、当てもなく彷徨い続ける。
人々を孤独や恐怖から救うための宗教で、孤独に追われる男。
「なんだかかわいそうね」
「そうね、私もそう思う」
あどけない一言を聞いて、女性はニーナの頭を撫でた。
少なくともこの時代、ガーランドに戦いを頼む者はいなかった。
「まっ、人生色々だわな」
ちゃんと話を聞いていたレイが、小さく相槌を打つ。
部屋割りが終わり、荷物の隙間に入り込んだリュウたちが、もぞもぞと動いている。
「ちょっとリュウ、お尻を触ったらだめよー!」
「だってモモがこっちに下がって来るから」
「なんで荷物のほうが場所とってんだよ!」
レイは壁にもたれかかっている。器用にも立ったまま眠れるらしい。
「とりあえず、水と食い物を分けてもらったら、明日の朝一で機械浜に行こう」
そう言われてニーナはぼんやりと空を見つめた。
「……そういえばそういう目的だったっけ」
「あのなあお姫さん、あんたが言い出したんだぜ!?」
「だだだだいじょぶよレイさん忘れ、忘れてないわ、おほ、おほほほ」
あらぬ方向を向きながら、ニーナはどうにか誤魔化した。
元々はずっと音信不通のラパラの船員たちの安否を、確認するという大義名分がある。
「ったく。ほら、そこがあんたの寝る場所だぜ」
「あっはいって、え?」
レイが指差したのは部屋の中央。そこだけは荷物は避けられ、ニーナがいつもやるような、大の字のスペースが空いていた。
「あいつらなりに、気を遣ってくれたらしいぜ?」
「あ、あはははははは」
乾いた笑いを零すと、ニーナは導かれるように隙間にぺちょりと寝転がった。
Just Fit!!
「ご気分は」
「意外と悪くないかも」
一方その頃。
「戻りました。長」
「ガーランドか。その様子では、やはり邪悪は滅んでいたようじゃな」
ウルカン・タパの最上部。大岩に閉ざされていた一室で、ガーランドは一人の老人と話していた。
「流石のお前も、今度ばかりは杞憂だったようじゃな」
「やもしれませぬ」
「であるならば、お前も役目を終えたということ。他の者たちのように、眠りに就いてはどうじゃ。いつまでも、おらぬ敵を求めて彷徨うは辛かろう」
ともすれば厄介払いにも聞こえる言葉だったが、村長が眼前の巨人を労わる気持ちは本心であった。
自分たちと信心を同じくする戦いの殉教者が、最期を失い一人でいる。気遣える形は限られていた。
「長老。オレにはドラゴンたちが本当に滅んだとは、思えないのです。それに、ガイストのこともある」
ガーランドがドラゴンの名を口にした時、長老は咎めるような目をしたが、それも少しの間だった。
「あいつは誰よりも強く勇敢だった。それ故に誰より深く戦いに悩み、孤独に陥った。オレが去れば、あいつは一人になってしまう」
ただ一人、戦いの場から降りた友人を思い、巨人が溜息を吐く。
「あいつが時の流れの中で、朽ちて行くことを選んだのなら、せめてオレだけは、それに付き合ってやりたい。そして、もしも最後に残ったのがオレなら、その時こそ」
そこでガーランドは言葉を濁した。
村長も最後まで言わせようとは思わなかった。
「そのような姿になり、戦に身を捧げてもなお、お前には友を思いやる心がある。それこそがガーディアンたる所以。なればこそ、ワシもしつこくは言うまい」
ガーランドは無言で頭を下げると、そのまま退室した。
「神よ、あの者に慈悲を、垂れ給え……」
――そして翌日。
釣りポイント15。
つり人なら、一度は 闘ってみたい海の王者が 回遊してくる つり場(だいたい原文ママ)。
生息魚 シーマウス ボルデビ ボーンドマリーナ。
「ぐおおおおおおおおお!!」
「がんばれティーポ!」
「あばばばばばばばばば!!」
「つ、釣れたー!」
ボルデビ『135』。
「相変わらずタコだけはスゲーのが釣れるなお前」
「おーいティーポ、生きてるー?」
「しび、しびびれ、びれる」
ウルカン・タパを出発したリュウたちは、無事に機械浜に到着。
ドックで修理待ちをしているラパラの船と船員たちを発見し、見学したり手紙を預かったりして、その後は悠々自適な自由時間を過ごしていた。
例によってティーポはビッグサイズのタコに絡まれて、四苦八苦している。
「機械って海の向こうから流れて来るんですね」
「そうよー。だから使える部品が来ないと、修理や整備もままならないのよ」
浜に流れ着く機械を拾いながら、ニーナとモモが談笑する。
その傍には籠を背負ったガーランドがいる。
「本当に良かったのか?オレまでついて来て」
「いいのよ、ほんの少しの間でも、大勢の方が旅は楽しいもの!」
出発直前にニーナは強引にガーランドをパーティに勧誘した。
来ないと大声で泣くぞと脅され、渋々加入することになったのだ。
「宿の人から話を聞いて、放っておけなくなったんでしょうね」
「そうか。優しい子だな」
数百歳も下の子どもから心配されてガーランドは戸惑ったが、悪い気はしなかった。
他のみんなも特に気にしなかったので、意外にもすんなり同行できている。
「ぐっ、うわあ!」
「どうしたリュウ、珍しいな。お前がルアー取られるなんて」
リュウは地面に尻餅をついて、切れた糸を見つめた。
千切れたのではない。何か鋭利な物で切り裂かれたのだ。
単純な力比べにさえ持ち込めなかった。少年の視線の先では、巨大な魚影が悠々と泳ぎ去って行くのが見えた。
「アレはこの辺のヌシのボーンドマリーナだな。小さい個体でさえかなりの巨体、大の大人でも二人掛かりで挑むらしい」
「悔しい……!」
真っ向からねじ伏せられた少年は、複雑な想いで水面を睨み付ける。
釣竿を握って上昇した賢さが、敗北のダメージをより強くする。
「この先の岬が奴らの縄張りだ。行けば直ぐにも挑めるだろうが、更に強いのが出て来る恐れがあるぞ、それでも行くのか?」
「っ!」
「あっリュウ待てよ!」
「あいつ相当悔しかったんだな」
ガーランドの言葉を聞いて、リュウは慌てて駆け出した。
雪辱に燃えて向かう先は決戦のバトルフィールド。
幼年期最後の戦い(釣り)が今、始まる。