ブレスオブファイア3二次創作 釣竜伝説   作:泉 とも

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海に産まれし者

 ウルカン・タパ

 そこは小さな集落だった。

 

 村と呼べるほどのスペースに住宅が密集、というよりも砦紛いの集合住宅という様子だったが。

 

「はー、家が一塊になってんのか」

「でっかいテントみたいだなリュウ」

「王様でもいるのかな」

 

 入り組んでいて身動きがとり難い中を、リュウたちは四苦八苦しながら進んだ。

 

 ガーランドなどは明らかに出入口に対して大き過ぎるのだが、まるで鳥のように体を細めて通った。

 

 キッズたちはその気持ち悪さに大はしゃぎである。

 

「宿はここだ。道具屋も近くにあるから、準備をしていくとよかろう」

 

「ありがとうございます。ガーランドさんはこの後どうするの?」

 

 宿と呼べるかは怪しいスペースを尻目に、ニーナがお礼をする。

 

 後ろではモモが荷物と自分たちの寝る場所を、パズルでも解くかのように並べては頭を悩ませている。

 

「オレは長に会って、挨拶と旅の報告をする。その後のことは決めていない。ただ」

 

「ただ?」

 

「オレは邪悪と戦う使命を帯びている。また直ぐに旅に出るだろう」

 

 そう言ってガーランドは身を補足すると、体を屈めて部屋を出て行った。

 

「邪悪と戦うって、何のことかしら?」

 

「ああ、旅の方はご存知ないかもしれませんが、あの方は人々を守護するガーディアンなのです」

 

 部屋割りが中々進まないリュウたちを他所に、宿の受付らしき女性が話し始める。

 

「このウルカン・タパには古い言い伝えがありまして」

 

 女性はそこからツアーガイドの如く、邪悪と女神の戦いを語った。

 

 とはいえドラゴンとミリアの名前は伏せられているので、内容はスカスカのふわふわで、言われてもよく分からないものだったが。

 

「大昔にすごいモンスターが暴れていて、ガーランドさんたちはそのモンスターと戦うためにモンスターみたいになって、そのおかげで今は平和になったのね」

 

「すごい!お嬢さんは頭がいいですね!」

「えへへ、それほどでも……」

 

 ニーナの要約に女性が感動する。

 

 実行犯たちの間でも忘れ去られるように仕組んだ辺り、この宗教は相当に質が悪い。

 

「それでお役目を終えたガーディアンたちは、自分たちのお墓へ行って眠りに就くのですが、ガーディアン・ガーランドだけは、今も邪悪の生き残りを探して、世界中を旅しているのです」

 

 自分が最後の一人になり、かといって敵を滅ぼせたかは不明で、当てもなく彷徨い続ける。

 

 人々を孤独や恐怖から救うための宗教で、孤独に追われる男。

 

「なんだかかわいそうね」

「そうね、私もそう思う」

 

 あどけない一言を聞いて、女性はニーナの頭を撫でた。

 少なくともこの時代、ガーランドに戦いを頼む者はいなかった。

 

「まっ、人生色々だわな」

 

 ちゃんと話を聞いていたレイが、小さく相槌を打つ。

 

 部屋割りが終わり、荷物の隙間に入り込んだリュウたちが、もぞもぞと動いている。

 

「ちょっとリュウ、お尻を触ったらだめよー!」

「だってモモがこっちに下がって来るから」

「なんで荷物のほうが場所とってんだよ!」

 

 レイは壁にもたれかかっている。器用にも立ったまま眠れるらしい。

 

「とりあえず、水と食い物を分けてもらったら、明日の朝一で機械浜に行こう」

 

 そう言われてニーナはぼんやりと空を見つめた。

 

「……そういえばそういう目的だったっけ」

「あのなあお姫さん、あんたが言い出したんだぜ!?」

「だだだだいじょぶよレイさん忘れ、忘れてないわ、おほ、おほほほ」

 

 あらぬ方向を向きながら、ニーナはどうにか誤魔化した。

 

 元々はずっと音信不通のラパラの船員たちの安否を、確認するという大義名分がある。

 

「ったく。ほら、そこがあんたの寝る場所だぜ」

「あっはいって、え?」

 

 レイが指差したのは部屋の中央。そこだけは荷物は避けられ、ニーナがいつもやるような、大の字のスペースが空いていた。

 

「あいつらなりに、気を遣ってくれたらしいぜ?」

「あ、あはははははは」

 

 乾いた笑いを零すと、ニーナは導かれるように隙間にぺちょりと寝転がった。

 

 Just Fit!!

 

「ご気分は」

「意外と悪くないかも」

 

 

 一方その頃。

 

 

「戻りました。長」

 

「ガーランドか。その様子では、やはり邪悪は滅んでいたようじゃな」

 

 ウルカン・タパの最上部。大岩に閉ざされていた一室で、ガーランドは一人の老人と話していた。

 

「流石のお前も、今度ばかりは杞憂だったようじゃな」

「やもしれませぬ」

 

「であるならば、お前も役目を終えたということ。他の者たちのように、眠りに就いてはどうじゃ。いつまでも、おらぬ敵を求めて彷徨うは辛かろう」

 

 ともすれば厄介払いにも聞こえる言葉だったが、村長が眼前の巨人を労わる気持ちは本心であった。

 

 自分たちと信心を同じくする戦いの殉教者が、最期を失い一人でいる。気遣える形は限られていた。

 

「長老。オレにはドラゴンたちが本当に滅んだとは、思えないのです。それに、ガイストのこともある」

 

 ガーランドがドラゴンの名を口にした時、長老は咎めるような目をしたが、それも少しの間だった。

 

「あいつは誰よりも強く勇敢だった。それ故に誰より深く戦いに悩み、孤独に陥った。オレが去れば、あいつは一人になってしまう」

 

 ただ一人、戦いの場から降りた友人を思い、巨人が溜息を吐く。

 

「あいつが時の流れの中で、朽ちて行くことを選んだのなら、せめてオレだけは、それに付き合ってやりたい。そして、もしも最後に残ったのがオレなら、その時こそ」

 

 そこでガーランドは言葉を濁した。

 村長も最後まで言わせようとは思わなかった。

 

「そのような姿になり、戦に身を捧げてもなお、お前には友を思いやる心がある。それこそがガーディアンたる所以。なればこそ、ワシもしつこくは言うまい」

 

 ガーランドは無言で頭を下げると、そのまま退室した。

 

「神よ、あの者に慈悲を、垂れ給え……」

 

 ――そして翌日。

 

 釣りポイント15。

 

 つり人なら、一度は 闘ってみたい海の王者が 回遊してくる つり場(だいたい原文ママ)。

 

 生息魚 シーマウス ボルデビ ボーンドマリーナ。

 

「ぐおおおおおおおおお!!」

「がんばれティーポ!」

「あばばばばばばばばば!!」

「つ、釣れたー!」

 

 ボルデビ『135』。

 

「相変わらずタコだけはスゲーのが釣れるなお前」

「おーいティーポ、生きてるー?」

「しび、しびびれ、びれる」

 

 ウルカン・タパを出発したリュウたちは、無事に機械浜に到着。

 

 ドックで修理待ちをしているラパラの船と船員たちを発見し、見学したり手紙を預かったりして、その後は悠々自適な自由時間を過ごしていた。

 

 例によってティーポはビッグサイズのタコに絡まれて、四苦八苦している。

 

「機械って海の向こうから流れて来るんですね」

 

「そうよー。だから使える部品が来ないと、修理や整備もままならないのよ」

 

 浜に流れ着く機械を拾いながら、ニーナとモモが談笑する。

 その傍には籠を背負ったガーランドがいる。

 

「本当に良かったのか?オレまでついて来て」

「いいのよ、ほんの少しの間でも、大勢の方が旅は楽しいもの!」

 

 出発直前にニーナは強引にガーランドをパーティに勧誘した。

 

 来ないと大声で泣くぞと脅され、渋々加入することになったのだ。

 

「宿の人から話を聞いて、放っておけなくなったんでしょうね」

「そうか。優しい子だな」

 

 数百歳も下の子どもから心配されてガーランドは戸惑ったが、悪い気はしなかった。

 

 他のみんなも特に気にしなかったので、意外にもすんなり同行できている。

 

「ぐっ、うわあ!」

「どうしたリュウ、珍しいな。お前がルアー取られるなんて」

 

 リュウは地面に尻餅をついて、切れた糸を見つめた。

 

 千切れたのではない。何か鋭利な物で切り裂かれたのだ。

 

 単純な力比べにさえ持ち込めなかった。少年の視線の先では、巨大な魚影が悠々と泳ぎ去って行くのが見えた。

 

「アレはこの辺のヌシのボーンドマリーナだな。小さい個体でさえかなりの巨体、大の大人でも二人掛かりで挑むらしい」

 

「悔しい……!」

 

 真っ向からねじ伏せられた少年は、複雑な想いで水面を睨み付ける。

 

 釣竿を握って上昇した賢さが、敗北のダメージをより強くする。

 

「この先の岬が奴らの縄張りだ。行けば直ぐにも挑めるだろうが、更に強いのが出て来る恐れがあるぞ、それでも行くのか?」

 

「っ!」

「あっリュウ待てよ!」

「あいつ相当悔しかったんだな」

 

 ガーランドの言葉を聞いて、リュウは慌てて駆け出した。

 雪辱に燃えて向かう先は決戦のバトルフィールド。

 

 幼年期最後の戦い(釣り)が今、始まる。

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