三人は村を追い出されると、山を越えてウィンディアへと来た。三人パーティで苦戦するはずがないのだ。
「思ったよりどうってことなかったね、兄ちゃん!」
「そうだな。お前たちも結構強くなったし」
「ティーポの魔法がすごい」
山の上でキャンプをし、三人は特に危なげの無い出だしを喜んだ。
「しかしまさかドメガまで使えるとはな」
「へへへ、実はメイガスの爺さんがさ、餞別だってオレに魔法のコツを教えてくれたんだ。本当は誰にも教える気は無かったんだけど、オレには見込みがあるからって」
メイガスとはシーダの森付近に生息する師匠である。長所も短所も緩い魔法使いで、序盤に役立つ魔法を教えてくれる。
ティーポのレベルを一度も上げずに弟子入りさせれば、レベル9でスキルはマスターできる。
「もっと才能を伸ばせよ、食い詰めたら戻って来い。一緒に物乞いしようって言ってくれてさ」
「それ、励ましてんのか?」
しかし実際の所、ティーポは魔法の才に秀でていた。既に火炎と氷結の中級、そして炎と風、その複合の全体中級魔法を修めている。
並の術者ではこうはいかない。
「ティーポは魔法の天才だなあ」
「へへへ、よせやい!」
どこからか取り出したリンゴを齧りながら、ぼんやりとリュウが呟く。ダブったレイガは彼が覚えることになった。
「兄ちゃんが金目の物を盗んだら、オレの魔法でドッカ―ンってぶちかまして、とんずらする。完璧だぜ」
「ボクは?」
「リュウは釣りをして、オレたちの飯を作る!」
「えー」
リュウは少しだけ不満そうな声を出した。自分も少しくらいカッコいい所が欲しかったのだ。
「ボクにも見せ場ないの?」
「まあまあリュウ、オレたちがこれから新しいアジトを手に入れたら、誰かは留守番をしなくちゃいけないだろ?」
「うん」
「そうなるとだ、三人の中で一番釣りが上手く、魚の料理もできるリュウにしか、留守番はできない」
「そっかあ」
リュウは納得した。確かにティーポに家事は向いてないし、レイも仕事に早くや遅くに出かけるだろう。
そうなると皆の暮らしを守れるのは自分しかいない。リュウがそんな気がして来た。
「そうそう。それに山を越えたらまた川沿いだぜ。釣り場もあると思うから、そうなったら早速リュウの出番だぞ」
「分かった……!」
などと話して夜も更けて、三人はモーランジ山を越えた。
翌日。釣りポイント6。
見なれぬ、あやしげな生き物が、およいでいる・・ ・・。(原文ママ)
生息魚 グミフィッシュ、ビッグマウス、火星ダコ
「風向きはこっち、お日様があそこ、川の流れがあっち、よし」
リュウは釣竿を握って水面を見つめた。レイとティーポはウィンディアの手前でキャンプを張るべく先行し、彼は残って釣りをすることになった。
「すー、はー」
リュウは五感を解放し、全身で釣り場を見た。いる。流れる川の音の中に、確かに魚たちの息吹が感じられた。
大した物ではないが、一通りのルアーも揃っている。
「……行くぞ!」
勢いよく投げられるルアーが、ちゃぽんと音を立てて水中に沈む。リールを巻く異質な音が独特のテンポによって奏でられる。
疑似餌は緩急を付けた動きで、獲物たちを一斉に誘い出す。
「ヒット!」
早速食いついた魚に、リュウは真剣勝負を始める。普段とはまるで別人。
彼は釣りをする時、急速に意識が覚醒するのだ。
(冬の冷たい川とは全然違う!勢いがある!身もしっかりして力も強い!)
小柄な体に力を込めながら、釣竿を労わるように腕を振る。少年期特有のセンスで、リュウは釣りの才能を開花させていた。
抗う魚に苦戦をするも、リュウは口の端に、獰猛な狩人の笑みを微かに浮かべた。
「たー!」
会心の叫びと共に、ビッグマウスを釣った。卵を持っていそうな、見るからに美味そうな魚だった。
(ああ、釣りは最高だ!)
釣れた魚を魚籠に入れると、再びルアーを投げる。陸の動物を狩ることはレイの領分、食える木の実やキノコを餞別するのはティーポの領分。
だがこの水辺の戦いこそは、リュウの領分であった。
「すっごーい!」
その時だった。突然黄色い声がして、リュウは慌ててそちらを見る。そこには場違いなほど身形の良い、一人の女の子がいた。
「あなた、釣りがとってもお上手なのね!」
至近距離までぐいぐいやって来た少女は、目をキラキラさせてリュウを見つめる。
「えっと、どうも」
「あ、いきなりごめんなさい。私ニーナ!あなたは?」
「リュウ……」
「リュウ!素敵なお名前ね!」
ぐいぐい来るニーナにリュウはたじたじである。
「私もあっちで釣りをしてるんだけど、上手く行かなくて、良かったら私にも釣りを教えてくれないかしら?」
「えっ、ああうん、別にいいけど」
別の釣り場がある。その言葉にリュウは、あっさりと釣られたのだった。