「それで、結局何がどうなってんだよ」
崩壊した天使の塔の外周で、レイたちはリュウが去った海をずっと眺めていた。
「……オレにもよく分からない」
「ウラア!」
「ゴアッ!」
ティーポ渾身のドロップキックがガーランドの脇腹に突き刺さる。
「オレもドラゴンについてそこまで詳しい訳ではないのだ」
事実である。
本編ではドラゴンのことを知りたくないかとリュウを誑かしておきながら、いざとなったらよく知らないとか言うのだ。
「ドラゴンと敵対してたのにかよ」
「女神の教えでは過度に相手のことを知ってはいけないと」
「疑わしいとは思わなかったのかよ?」
「そう思った奴は、ガーディアンを抜けた」
『お前は?』という視線がガーランドに突き刺さる。正直に言えば言うほど株が下がって行く。
「そんなことより、リュウはどうしてあんなことになっちゃったの?」
ニーナが話を振り出しに戻す。
いきなり事が大きくなってしまったせいか、テンションが追い付いていない。
「恐らくは地下に眠るドラゴンたちの怨念が、リュウの潜在能力を無理矢理覚醒させてしまったのだ」
「つまりリュウが大人のドラゴンになったらああなるのね」
モモが興味深そうに手帳に何かを書き込む。リュウとティーポのドラゴンパピーの挿絵が可愛い。
「アレはカイザードラゴン。ドラゴンたちを統べる者」
「なんだか魚みたいだったぞ」
「古の時代、ドラゴンたちは様々な生物の元になったらしい。鳥・魚・獣・肉食や草食と様々にな」
そんな設定は原作にはないので真に受けないように。
「人間みたいだな」
「形は違えど人間は人間にしかならなかったようだがな」
水平線に一匹の巨大な生物が跳ねた。リュウだった。こちらに手を振るかのように水面を飛ぶが、帰って来る気配はない。
「恐らくリュウは、魚の元になったドラゴンの末裔なのだろう」
ガーランドは言う。何の根拠もないし思い込みが九割だが、断定的な口調で言われるとそうかも知れないと感じてしまうのが、人の悲しい性である。
「だからあいつ釣りが好きだったり、海に行きたがったりしたんだ」
「じゃあリュウはお魚さんに戻って、海へ帰ってしまったっていうの?」
ニーナに言われてガーランドは俯く。
「気の毒だが、そういうことだろう」
「本来の姿に戻って、あるべき場所に帰る。寂しいけど、悪いことじゃ、ないわよね……」
潮風に吹かれる髪を撫でて、モモがしんみりと呟く。
「リュウ、オレさ、ドラゴンとか関係なくて、お前とオレとレイ兄ちゃんの三人で、ドロボウ暮らしができれば、それで良かったんだ」
失って初めて自分の気持ちが分かる。
ティーポは遠い所に行った家族を想うと、込み上げて来る涙を拭った。
「リュウーーーーーーーー!!オレ、ずっと待ってるから!必ず帰って来いよーー!」
少年の叫びも、風と潮騒に交わり、消えて行く。
「これから、どうしよう」
「帰ろう。オレたちも。リュウがそうしたように」
「そうね……」
共に過ごした時間は短かったが、少年と少女たちの胸に、不思議な思い出となってリュウは生き続ける。
あたかも児童向けアニメの劇場版みたいに。
「また、会えるよね……」
「ああ、きっとな」
きっとそんなことは無いだろうと、内心では分かりつつも、レイは言った。
だがティーポには、どこか確信のようなものがあった。
「今度会ったら、オレがお前を釣り上げてやるぜ、リュウ……!」
そして笑みを浮かべると、彼は踵を返した。歩き出したのだ、明日へと。
「私も、そろそろお城に帰るわ」
「そうね。私も家を空けっ放しだし」
「ま、悲しくなるよか、マシか」
「ぷいー」
少し遅れて一人、また一人と歩き出す。
どうしようもない別離だったが、悲劇にはしたくなかった。
他ならぬリュウが、怒りや憎しみを残さなかったのだから。
(またな、リュウ!)
ティーポは一度だけ海へ振り返る。そこにはもう彼の姿は無かった。
だけど、確かにいるのだ。その息吹を感じながら、少年は走り出した。
――それから数年後。
「おい聞いたか、ダウナ鉱山近くの釣り場に、すげえ怪物が棲み付いたらしいぜ」
「とんでもなくデカい魚だってウワサだ」
「なあ、あんたら」
――物語は。
「その話、詳しく聞かせてくれないか」
再び動き出す。