「アレがダウナ鉱山」
「見事にチンピラやゴロツキしかおらんな」
ドラゴンの噂を聞いて鉱山へとやって来た。
そこにはカタギの人々など影も形も無く、その辺を歩くだけでもエンカウントしそうな有様だった。
――んだてめっ肩ぶつけてんじゃねーぞ!
――でめーこそガン飛ばしてんなコラァ!
野放図とか無秩序という言葉がぴったりなロケーションに、リュウたちは渋い顔になる。
大して教育を受けていない三人でさえ、こうはならない。品性とは才能なのだ。
「関わり合いになることもあるまい。鉱山を巡って様子を見たら、そのまま帰ろう」
「その方が良さそうだね」
ガーランドが嫌でも目立つが、同時に真っ当な人間にも絶対に見えないので、他の連中もケンカを吹っ掛けて来ない。
「あっガーランドの旦那!」
「……誰だ?」
「いやあほら、あっしは漢羅強烈大武会で、裏方をやってたもんでして」
それどころかゴマをすりにやって来る者が出る始末。
「何それ?」
「闘都でやってた武闘大会らしいぜ」
「ああ、オレも昔は常連でな。普通に勝っていただけなんだが、闇市の連中はオレを用心棒みたいに扱って、裏でケチな八百長をして小銭を稼いでいた」
しかし彼もティーポたちと過ごし、大会にも出なくなったので、すっかり縁も切れたかに見えたのだが。
「旦那がいなくなって大会はしょっぱくなっちまって。まあ相手がいないんだから仕方ないっすよね」
猿っぽいゴロツキは落ち着きなく動き回り、喋りまくる。
聞いてもいないのに一方的に話してくる人は鬱陶しいものだが、こういう場合に限っては有り難かったりする。
「でも旦那が来てくれて助かりやしたぜ!なんせ鉱山ん中はゾンビがうようよしてまして」
男が言うには鉱山を乗っ取ったまではいいものの、内部ではゾンビ系を軸にモンスターが湧き続けるのだそうな。
「ミクバの親分は戦っちゃくれないし、ゾンビは減らないしやんなりやすぜ!」
彼らもゾンビよりは強いのだが、だからといって被害無しとは行かない。
傷付き倒れた者はそのままゾンビになり、敵の戦列に参加してしまう。
「炭鉱夫も逃げ出して、適当にいじったクレーンは物故割れるし、ゴースト鉱も上手く取り出せない、踏んだり蹴ったりですよ」
生産力のない者を人的資源とは呼ばない。
ともすれば草むしり一つ満足にこなせないのがゴロツキなのだ。
「ところで、ドラゴンの幽霊というのは」
「あっやっぱり旦那もその話で呼ばれたんすね!」
「いや、オレたちは別に」
「流っ石ガーランドの旦那だ、話が早い!」
一人早合点をしながら捲くし立てるゴロツキ。
ティーポの額に青筋が浮かびも、リュウがそれを無言で『放っとけ』とジェスチャー。
「鉱山の中にとんでもねえバケモノを見たって奴がいるんでさあ!みんなしてモンスターが化けて出たんだってビビっちまって、もう何人かはやられちまった」
既に被害が出ている辺り、噂は真実になりつつあった。
「闇市は他の派閥に押さえられちまって、親分も戦っちゃくれねえし、途方に暮れてたんでさあ」
暗にガーランドたちに始末してもらおうと言っているのだが、こういう期待に気付かないほど三人も鈍感ではない。
「じゃあさ、親分一人残して、みんなでバックレたら?」
「え!?」
「だってそうだろ?このままだとみんなが損するだけじゃん。親分がバケモノにやられたら、金目の物を手土産にして、闇市に帰ればいいんだし」
単純に断るのではなく、更なる仲間割れを煽るティーポ。
余計ないざこざは避けるに限るし、ならず者たちに肩入れするつもりも無かった。
「な?おっさんもリュウもそう思うだろ?」
「えっ」
突然水を向けられて二人は顔を見合わせる。汗をかきながらも向き直り、慌てて頷く。
「ま、まあ、そうだな。親分はお前たちを見捨てる気でいるのかもしれんし」
「せめて一緒に戦ってくれないと、困るよね」
そして今度はゴロツキの方が慌てる。
忠誠心など1ゼニーも持ち合わせていないため、この言葉は非常に悩ましいものがあった。
「そりゃまあ、裏切ったらぶっ殺す!なんて言われてるけど、じゃあオレたちに見返りがあるかっていうと、無いし。自分はどっかに隠れて出て来ないから、やれるもんならやってみろってなもんだけどさ……」
暴力や恐怖で心を支配しても、それは定期的に見せしめがあるからこそ保たれる。
組織としての構造が崩壊している今、闇市の恐怖政治は機能を停止しており、それはつまり統制を維持できない、ということだった。
「なら問題ないな。だろ?」
「言われて見れば、そうだな……」
あくまでもリュウたちはドラゴンの噂を確かめに来たのであって、ゴロツキの内輪もめに加勢しに来た訳ではない。
三人ともそこは共通していた。
「よ、よし!オレ、みんなに言って、親分から逃げようって誘ってみるぜ!こっちには旦那たちもいるんだ、何とかなるさ!」
「おい、オレは別に何も」
「おーいみんな聞いてくれーーーーーー!」
ガーランドを身内扱いしたまま、猿っぽいゴロツキは駆け出してしまった。
怒りや憂鬱といった感情が、ガーディアンの中に渦巻く。
「とりあえず、話は進んだってことで、いいのかな」
「ああ、たぶん」
――その後。
「ガーランドの旦那が味方に付いたら千人力でさ!」
「ミクバのクソッタレにはウンザリしてたんだ!」
「やってやろうぜ!」
あっさりも鞍替えしたゴロツキたちが、ゴキブリもより多いんじゃないかってくらい鉱山から出て来る。
「正面から乗り込まなくてよかったね」
「流石にこんなにいるとは思わなかったぜ」
戦った所で万に一つも負けないが、それでもこんなにいると引く。
「おーい、ゾンビを誘導する準備ができたぞー!」
などと話していると、ゴロツキの一人がそんなことを言う。
「ゾンビを誘導?」
「どういうことだろう」
「なんでも、ミクバとの連絡役をしている奴も寝返ったらしい。奴の隠れている場所まで餌を撒いて、誘き出す作戦なんだと」
鉱山から人払いをするだけの話だったのに、いつの間にか下克上のような事態に発展している。
人の話を聞かない奴は、物事を勝手に動かすので注意が必要である。
「へっへっへ、あばよミクバのオヤジ、あんたの天下も今日限りさ」
猿っぽいゴロツキが呟くと、鉱山から盛大に煙が吹き出す。
「なんか美味そうな匂いが」
「魚を焼いているのか」
「ゾンビ共は普通の飯も食いますからね、たぶん生きてた頃のことをちっとは覚えてるんでしょ」
この世界では幽霊は珍しくないし、モンスターだって人の言葉を喋る。それくらいは別におかしくないのだ。
そして食欲をそそる香りが、次第に焦げ臭くなった頃、
――ウオオオオオオオオオオオオ!!
――ぐわあああああああああああ!!
二つの恐ろしい声が聞こえ、その場の誰もがピタリと黙った。
「どうやら、出たらしいな」
「あ、あの、ガーランドの旦那、本当に、行きなさるんで……?」
最初こそ調子付いていたゴロツキたちは、今や完全に怯え切っている。
「うむ。行こう、リュウ、ティーポ」
「うん」
「おう」
三人は気を引き締めると、武器に手に香ばしくなった鉱山へと突入したのだった。