「へ~これが大昔のドラゴンかあ」
「大きいねえ」
怪物らしき叫び声と悲鳴が聞こえ、ダウナ鉱山内部へと突入したリュウたちは、慌てず騒がず内部を探索していた。
今は壁に埋まった巨大なドラゴンの化石を眺めている所である。
「ゴースト鉱っていうモンスターの化石は、基本的にここでしか採れないそうだ。中には生きたモンスターが入っていることもあるとか」
「じゃあ、ボクたちも?」
「そう考えるのが、自然だろうな」
思わぬ形で自分たちのルーツや、本来いたであろう時代を想像する青年二人。
目の前のドラゴンが、もしかしたら親だったのかも知れないと、そんなことを考える。
「でもまあ、オレたちはオレたちさ。こうして今を生きてる。それでいいんじゃないか?」
「そうだね」
リュウは頷くと、再びドラゴンの化石を見上げた。
「お前たちは、気にならんのか」
「ガーランド……?」
「オレがお前たちの、仲間や祖先の仇だと」
罪悪感は無いが恨まれて当然と思っているガーランドとしては、そういう感情にならない彼らと価値観がどうも噛み合わない。
種族としての生存競争、或いは宿命的な対立の時代を生きた世代と、最早全く無関係な青少年たちではそれも当然なのだが、このおっさんはそこまで考えられないのだ。
なので往々にしてウジャウジャする。
「ボクたちは、他のドラゴンを知らないし」
「そいつらと一緒に生きたこともないからな」
「そっそうか」
とはいえリュウたちにとっては、レイやティーポといったお互いに大切な人たちがいるので、感情が希薄ということでもない。
「でもガーランドがまたリュウを狙うなら、その時は本気でぶっ飛ばすぜ」
「うむ。分かった」
凄まれたにも関わらず、ガーランドむしろホッとした。
『自分が間違っていたのでは』と確信に近い疑念を抱いているので、それを許されるといよいよ気持ちのやり場がないのだ。
「お前たちは、強いな」
「へっ今更気が付いたのかよ、なあリュウ?」
リュウはうんうんと頷く。と、そのとき。
――グオオオオォーー!!
「っと、せっかくいい感じだったのに、水をさすなよな」
「さっきよりずっと近い。行ってみよう」
三人は道中のトロッコを操作したり、ゴロツキゾンビたちを蹴散らしたりしながら、遂にその場へと到着した。
そこには。
「クソッタレ!触るな!オレの金だ!オレの宝だ!」
「黙れ!我らの眠りを妨げ、亡骸を破壊せんとする悪党めが!その命で罪をあがなうがいい!」
大きな悪魔と骨のドラゴンが激しい戦いを繰り広げていた。
「アレが噂のドラゴンの幽霊、そしてもう一方が」
「ミクバの大親分と」
「親分っていうかモンスターだよね」
この世界ではモンスターが人語を解し、人の暮らしに混ざることは珍しくない。
「死んでるくせに生意気言うな!やめろ、オレの金に触るな!」
ミクバは本性を現していた。そして自分の抱えた金品財宝に、ゾンビたちが群がるのを最優先で防いでいた。
金の亡者とはよく言ったものである。
「どうする?」
「終わるまで隠れて見てよう」
「それもそうだな」
ミクバは別に救助対象ではないし、ドラゴンゾンビも敵対しそうだった。
ヤブヘビという単語が同時に三人の脳裏を過る。
「クソ!クソ!クソ!」
ミクバは強い。
妙によく出るクリティカル。軽減できないガダブレダ。普通に痛い三連撃。
デレ行動は毒ガスブレスだけ。
「ギャース!」
「ぐわー!」
しかし性格は決して勇敢とは言えない。
闇市で自分が最も強いにも関わらず、本編ではレイに追い詰められるまで、宝箱を抱えて逃げ回り、不意打ちができる瞬間まで正体を隠し続けた。
ここまで来ると狡猾というより臆病に近い。
「はあ、はあ、はあ、ちくしょう、どうしてこんなことに……!」
金を気にせず、真っ向からドラゴンゾンビと戦えば、ミクバは勝てていた。
しかし彼の頭からは逃亡と金のことが、離れることは終ぞなかった。
「愚か者めが!死ねい!」
「ぐわあああああああああああ!!」
とうとうドラゴンゾンビの牙が、ミクバの首を捉えた!
「ぐお、ごふ、お、おれの、かね、ぐふっ!」
悪魔は自分の財宝に手を伸ばすと、無念の内に息絶える。
後には金品に群がり争い合うゾンビたちだけが残った。
「終わったようだな」
「どうする、リュウ?あのドラゴンと話すか?」
「いや、帰ろう。すごい怒ってるし」
リュウはドラゴンゾンビとの接触を回避することを選んだ。
「いいのか?」
「うん、たぶんあの幽霊が出たのって、闇市の人たちが来たからだと思う」
「言われて見れば」
幼年期のダウナ鉱山からドラゴンゾンビが出るなどという話はない。
誰もそれに怯えた様子もないことから、化けて出たことは無かったのだろう。
「ここがお墓みたいなものなら、そっとしておくのがいいかなって」
「確かにな。リュウたちがオレと一緒にいるところを見たら、あの亡霊も更に怒り狂うやもしれん」
かつて天使の塔でリュウの暴走を招いたことを、ガーランドは思い出す。
余計なことはしない方がいい。遅まきながら彼はようやくそのことに気が付き始めた。
「どうか安らかに、お眠りください」
「なんまんだぶなんまんだぶ」
「ウオオオオオオオオオオオオ!!」
ミクバを倒して勝鬨を上げるドラゴンゾンビに、両手を合わせてお祈りすると、三人は鉱山から外へ出た。
成り行きで戦うことになる。それはつまり、成り行き次第では戦いを回避できるということである。
「あ!ガーランドの旦那方!どうでした!」
彼らの姿を認めると、猿っぽいゴロツキがパっと駆け寄って来る。
「うむ、結論から言おう。ミクバは死んだ」
「え!ああ、そ、そう。やったんすね……!」
告げられた事実にその場のゴロツキたち全員が息を飲む。
誰もミクバの真の姿を見ていないので、半ば当然の結果として受け取られた。
しかし『闇市のボスがこうも容易く』という念が強く、ガーランドに対する目は完全に化物を見るソレだった。
「それと噂のドラゴンだが、あれは幽霊だった。ここは言わば大昔のドラゴンの墓だったようだが、荒らされたことで化けて出たのだ」
「ああ、やっぱり」
「そりゃそうだと思ったぜ」
ゴロツキの何人かは深々と頷く。
信心深いというか迷信深い連中は、心霊現象での報いというものを強く怖れている。
「炭鉱夫たちは誰もそんなこと言わなかったしな」
目覚めたばかりのリュウを殺そうとして返り討ちに遭い、寝たきりになった奴ならいるが、それはこの件とは無関係である。
「塚でも立ててやるといい。それでドラゴンの霊はまた眠りにつくだろう」
『へへー、なんまんだぶなんまんだぶ』
「おい、オレじゃないぞ」
まるで坊主のようなことを言うガーランドに、ゴロツキたちは両手を合わせて拝む。
「それで、オレたちはこれからどうすれば……」
「知らん。奥に落ちているミクバの金を持って、闇市に戻るなり炭鉱夫になるなり、好きにするがいい。オレたちはもう行く」
関わり合いにならない方がいい人種とは、兎にも角にも縁を切ることが重要である。
「そ、そんな~」
早くも担ぎ上げようという目で見て来る連中に目もくれず、ガーランドは歩き出す。
幸か不幸か、彼らにはリュウとティーポも、単なるお付きにしか見えていない。
「これにて一件落着か」
「後はここの連中がどうにかすること、だな」
「よし、今度こそ帰ろう」
巨体の背を追って、二人も歩き出す。
ほとんど無関係に近いことだったが、それでも済ませておくべきことは済ませた。
一行は改めて、王都ウィンディアを目指すのであった。