釣りポイント12。
川づり中 最高のファイトが 楽しめる つり場の一つ(だいたい原文ママ)。
生息魚 ペスラ ブラウン ヒュージマウス。
「ガイドにはあんなこと書いてあったけど、大した釣り場じゃなかったな」
そして一通りの釣りをし終え、その日のキャンプを迎える。
「まあ、大袈裟な言い方ではある」
「誰が言い出したかも分からないし」
誇大広告というものは、何時の時代も絶えないものである。
三人は食料の補給に幾らか魚を釣って、そのままウールオル地方まで戻って来た。
「もうすぐマクニール村だ、懐かしいだろ」
「色々あったけど、今どうなってるの?」
時は春。奇しくも幼き日に、旅立ちを迎えた季節である。
街道の橋は直り、多少は人も行き交うようになった。
「オレたちがウィンディア城に行った時、お前やレイ兄ちゃんがここでの一件を話したこと、覚えてるか?」
「ああ、そういえばそんなことを言った気がする」
リュウたちは王様に問われ、マクニール村でズルスルにまんまと乗せられ、それからの経緯を話していた。
「あのあとすぐにお城から調べが入って、マクニールは逮捕されたんだ。依頼ずっと領主はいないんだと」
でもきっちり税金は取られている。
「シーダの森も山火事から復活しててさ、そうだ!なんとオレたちのアジトも王様が新品に建て替えてくれたんだぜ」
「えっすごい。どうして」
「オレたちがニーナと仲良くしたことと、旅の途中でお前がいなくなったことで、思う所があったみたいでさ」
お城に戻ったニーナの冒険譚は、周囲の人たちを大いに驚かせ、楽しませた。
しかしリュウがドラゴン(魚)になり、海へ帰ってしまったという結末に、大人たちは彼女が辛い経験をしたのだと解釈した。
「ボクまだ生きてるんだけど」
「まあまあ、今度元気な顔を見せてやれよ」
カジキマグロ的な物が刺さったという話から察すれば、誰もが死んだと思うだろう。
そこからドラゴンになったと聞けば、娘が気を遣って最期を濁したのだと思うだろう。
時には優しさが事実を遠ざけることもあるのだ。
「今はオレが住んでて、レイ兄ちゃんはウィンディアに住んでるんだ。二手に分かれれば、お前を見つけやすいと思ってさ」
「ちなみにオレはウルカン・タパにいた」
ダウナ地方以外の三拠点で網を張り、ティーポがダウナ地方まで足を伸ばす。
その結果リュウの帰還を一早く察知できたのだった。
「なんか不思議だなあ。さっきまで小さかったつもりなのに、いつの間にか体は大きくなってるし、みんなも大きなってるし」
「見た目くらいしか変わってないけどな。明日はいよいよウィンディアだ」
「みんな、どうしてるかなあ」
モンスターも追いはぎも出ない、麗らかな夜が過ぎて行き、そして。
――ウィンディア。
「久しぶりに来たけど、あんまり変わらないなあ」
一応住んでいる人々も年を取り、入れ替わったりしているのだが、馴染みがないと変化には気付きにくいものである。
「オレとガーランドは旅支度や宿の手配をしておくから、お前は街を見て来いよ」
突然の単独行動を命じられるリュウ。
「あれ、ニーナとレイ兄ちゃんは」
「その辺歩いてれば見つかるよ」
「あっそう……?」
遠くを見つめるような笑みを浮かべるティーポに、奇妙な不安感を抱きつつもリュウは出発する。
とはいえそこまで広い空間でもないので、行く場所は限られる。
(そういえばカフェがあったな)
かつてはいきなりお城に誘われたものだから、城下町の観光はこれが初めてだった。
階段を上がり、広場のような場所でお茶と軽食を楽しみ人々を見つける。
「いらっしゃいませ、何になさいますか?」
「あっごめんなさい、そういうんじゃなくて」
うっかりテーブルに座ってしまい、注文を取られて慌てるリュウ。
両手を振って思わず周囲を見回すと、ウェイトレスさんが分かったとばかりに頷く。
「ははーん、お客さんもレイちゃんを見にいらしたんですね」
「えっレイちゃん?」
仲間と同じ名前でちゃん付けされる人物に、リュウは嫌な予感がした。
「ええ、子どもたちに大人気なんですよ。ほらアレ」
ウェイトレスが広場の端により、下の隅っこを指差す。噴水があって子どもたちがグルグル走り回っている辺りを。
「えっアレ?」
「そう、アレ」
そいつは、そこにいた。
正しくは、そいつらが。
「あーニーナさまズルイズルイズルイズルイズルイズルイー!」
「はーずるくありませーん」
そこには翼を大きくした、かつての面影を残した少女がいた。
どこに?
「ねーレイにいちゃーん。つぎあたちもー!」
「がうがう」
ニーナの下には、虎がいた。
『とら』と表記した方がいいかもしれない。
つやつやふさふさの毛並み。でっぷりと太った体。威厳の欠片もない緩み切った顔。
動物園で生まれ育った大きな飼い猫同然のその姿。
「いいなーいいなー」
「レイ兄ちゃん、はいあーん」
「がうがう」
他の誰でもない。恐るべき人食い虎。
ワ―タイガーのレイ……!
専用のベンチの上に寝転び、その上にニーナがコアラのように抱き付いている。
子どもたちは「いいなー」と「ズルイ」の大合唱だ。
「かわいいでしょう?王女様のペットらしくって、最初はみんな警戒してたんだけど、今じゃこの街のアイドルですよ」
「アイドル」
リュウはとらを見た。もしかしてレイにも自分のように変身する力が?
そう考えたが、現実として本当にアレがレイなのか?
クールさの欠片も無い愛されボディのネコ科の動物が?
「……ニーナと、レイ兄ちゃん?」
リュウは意を決して、上から声をかけた。二人が同時に上を向く。
『…………?』
同時に首を傾げる。
「その、久しぶり」
「もしかしてリュウ……か!?」
「ウソ、本当に、リュウなの!?」
初めはぼんやりとした表情で頭上に疑問符を浮かべていたが、かつての彼の姿を思い出すと、目には様々な感情の色が灯る。
胸に込み上げる思いから、どう話せばいいの分からない。
それでも、最初に言うべき言葉は決まっていた。
『リュウ、おかえ』
『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』
レイがしゃべったことで子どもたちは半狂乱となった。
「え!?なんだって!?レイちゃんがしゃべった!?」
「いつか話すと思ってたんだ!」
「私の名前わかる!?」
「抜け駆けするな、オレが先だよ!」
叫びを聞きつけた市民が駆け付け、喋るタイガーに大興奮!もうメチャクチャ!
「え、えーと」
「あの、ごめんね、リュウ。ちょっと待ってね」
「あっうん。なんかこっちこそごめんね」
感動の再会は、一旦お預けということになってしまった。