場所は変わってウィンディア郊外。
人々が満足して去った後、彼等は改修された城壁から、何か地下に謎の機械がある小屋へと移動した。
「さて、さっきは邪魔が入ったけどお帰り、リュウ」
「お帰りなさい!」
引き続きとら状態のレイと、背と羽根が伸びたニーナがリュウを出迎える。
「ただいま。久しぶりだね」
本当は時の流れなど意識の外だったのだが、リュウはあえてそう切り出した。
空気の読める優しい青年である。
「そうだな。本当に久しぶりで、何から話したもんかね」
「そういえばティーポたちとはもう会った?」
「うん、ていうか二人に連れて来てもらったんだ」
リュウはこの場にいない二人のことをかいつまんで説明した。
ティーポに釣られて自分はドラゴンから戻ったこと。みんなに会いに旅を始めたことなど。
「なるほど。んで、わざわざオレたちの顔を見に来たと」
顔を前足で拭きながらレイが言う。虎の見た目は保っていたが、どうにも緊張感や威厳が無い。
端的に言うと、野生が失われているのだ。
「うん。それで」
リュウは何から聞こうかを考えた。
→レイ兄ちゃんはどうしてそうなったの?
「これか。昔はこうじゃなかったんだぜ。よいしょっと」
レイはうつ伏せから仰向けに体勢を変えた。完全におじさん系のネコである。
「ドラゴンほどじゃないが、オレにも変身する力はあった。狂暴で手当たり次第に人を襲う、恐るべき人食い虎になる力が」
しゃべる度に首のお肉がたるたるする。
「変身だけなら自分でもできるが、戻ることはできない。暴れ回って疲れたり、ダメージで気を失わない限りはな」
「でもレイさん、初めて私たちが見たときにはもう、その姿だったわ」
「なんでだろうなあ」
レイちゃんは不思議そうに目を細めた。
「この街で何年か過ごして、あるときベンチで寝てる時に、気が付いたらこの姿になっててさ、愉快だろ?」
レイは欠伸をしつつベロを出した。
街道で長い間、闇市の関係者を襲い続けるという凄まじい境遇とは無縁のため、彼は徐々に野生を失っていった。
その結果、ワータイガーという猛獣であるが故の暴走は、何処かへと消えてしまったのである。
「最初は流石にヤバいと思ったが、咄嗟にお姫さんがペットだって言ってくれたおかげで、オレは街を追われずに済んだってワケさ」
「ありがとうニーナ」
「どういたしまして!」
どやどやしく胸を張るニーナ。そこまで大きくない。
「ところでそれ、戻れるの?」
「おう、ちょっと待ってろよ。ふん!」
レイは頑張って気合を入れると、とらの姿が徐々に人間に戻っていく。
そしてそこには。
「ざっとこんなもんよ」
「おお、本当に戻った!」
まるで4のクレイみたいに体がしっかりしていた。
衣食住を二の次にした、殺伐とした生き方をしない場合、こうなるのだ。
(もしもお腹が出てたらどうしようかと思った)
「虎のオレを見て太ったと思っただろ?」
「!」
「だよな。オレも水たまりに映った自分を見た時、もしかしてとかなり焦ったからな」
「不思議よね。こんなにがっしりしてるのに、虎になるとあんなになっちゃうのよ」
なお大型哺乳類は強いものほど脂肪と筋肉の鎧で更に大きくなるので、これはこれで間違いではないのだ。
「……それで?他に聞きたいこと、あるか?」
→どうやって暮らしてるの?
「ああ、オレたちはこの街に戻って、一度パーティを解散したんだが、王様がオレたちに随分良くしてくれたんだ」
「お父様ったら私の話を信じてくれなくて、リュウが死んだと思ってるのよ。ひどくない?」
リュウは酷いと思ったが、話の信憑性についてはどうにもならないとも思った。
「シーダの森のアジトも直してくれて、ここの小屋も増築して、住まわせてくれたんだ」
なおその際に勝手に住み着いていたデュランダールは追い出された。
今では当時のかくれんぼ少年たちに混ざっており、五人揃って一つの師匠キャラになるなど、それなりに充実した生活を送っている。
それでいいのか。
「それでオレとティーポは何でも屋を始めたんだ。失敗も多かったが、結果的にティーポは運び屋になって、ラパラからダウナ鉱山まで、行ったり来たりを繰り返してたんだ。リュウ、お前を探すためにな」
言われてリュウはティーポのことを思い出す。
自分の捜索と生活を両立させて、随分と成長したものである。
「オレはウィンディアでティーポを支えながら、まあ色々やってたよ」
「子どもたちのお世話や、妖精さんの村のことばっかりしてたわ」
昔とやってることはまるで変っていない。
むしろリュウが不在の間も共同体を大きくしたり、かくれんぼ少年たちと過ごしたり、何やかんや結構鍛えられていた。
「あとは大掃除の手伝いや逃げたペット探し、ボケちゃったお年寄りの送り迎え、ペンキの塗り替え、モンスター退治」
時々お城から脱走しては、ニーナも仕事を手伝っていた。
「あと浮気調査もあったわ!」
「本当に色々やったんだねえ」
「お前にもオレの雄姿を見せたかったね」
レイは苦笑して頭をかいた。
ある時はとらのレイちゃんとして人々を見守り、ある時は街の何でも屋として頑張ったり頑張らなかったりした。
「まあ、おかげさんで食ってはいけてるよ」
「そっか。なら良かった」
自分が急にいなくなったことから、みんなが大変なことになったり、深く傷付いたりしていないかと心配だった。
しかしそれはリュウの杞憂に終わった。みんな逞しく生きている。
「……それで?他に聞きたいこと、あるか?」
→モモやペコロスはどうしてるの?
「モモなら自分の家に帰って、プラントの仕事をしながら勉強とか研究をしてるみたいだ」
「たまにだけど私が様子を見に行ってるの。ほったらかしにすると大変なことになるから……」
一年の終わりには、みんなで会うようになったりもしたのだが、一度だけ『全てが野放図になったモモ』はティーポを激怒させたことがあり、以来ニーナが定期的に彼女のチェックをするようになっていた。
「ペコロスはまあ、いつも元気だよ。会いに行けば会えるだろうな」
「モモたちは本当に何も変わってないような気がする」
リュウは本心からそう思った。
会ってもリアクションが無いような気さえする。
「……それで?他に聞きたいこと、あるか?」
→もうない。
まるでRPGのようなやり取りを終えると、リュウは外に出ようとする。
「ティーポたちの所に行くのか?」
「うん、それからモモたちにも会いに行って、後のことはまた考えるよ」
「そっか。じゃあ、オレも久しぶりに旅でもするかな。お姫さんは?」
「リュウのことをお父様に合わせてから家出する!」
地味に根に持っていたニーナが仁王立ちになる。
「久しぶりにパーティ結成だ。またよろしくな、リュウ」
「さあ、行きましょう!」
半ば強引に参加すると、レイとニーナがパーティに加わった。
新ためてティーポ、ガーランド、レイ、ニーナが仲間になった!