リュウたちは旅支度を整えると、モモがいるであろうプラントまで足を運んだ。
「久しぶりにここのカレーを食べたな」
「味はともかく量がいっぱいあるからいいよね」
一行は峠の茶屋で一服すると、他の客たちと全く同じ感想を抱きつつ、味は悪いし食べると実害があるけど量だけは多い野菜を作っている施設へと向かう。
「なんか、昔に比べて寂れてない?」
「ああ、何ていうか、イマイチな空気っていうか」
昔はまるで新鋭のベンチャー企業みたいで新鮮味があったのに、今は機材の傷みに比例して、施設全体にくたびれた雰囲気が漂っていた。
――うーん、そろそろこの機械も寿命かなあ。
――新しい部品もないし。
――ここが閉鎖になったらどうしよう。
「お姫さんが昔言ってたことが、現実になりそうだな?」
「機械を一から作れたらいいんだけどね……」
作物を大量に作れる機械でも、それが壊れたらまた一から農業をやるしかない。
プラント用の機械を判断できる人材は、モモの父親くらいしかいなかったので、この結果は不可避であった。
「モモは奥の温室にいるってさ」
「ティーポ、なんで怒ってるの?」
「ああ、すぐに分かるよ」
ティーポが他の人にモモの居場所を聞いて来るも、彼は何故か拳を鳴らしているし、額に青筋が浮かんでいる。
「それと変な臭いがしない?野菜が腐ったのとは、また少し違う」
風に乗って流れて来るのは土の香りばかりではない。傷んだり食用に適さない育ち方をした廃棄作物、それらに混じる体育会系の臭い。
「ああ、モモさん、やっぱり」
「やっぱり?」
「ううん、気にしないで!」
慌てて両手を振るニーナに、リュウは嫌な予感がした。レイがとらになっていたように、モモにもこの数年で変化があったのか。
それも、好ましくないような変化が。
「小さい頃はこのベルトコンベアを逆走して怒られたっけ」
「あったねそんなこと」
談笑する傍ら、リュウは施設の中心部へと目を向けると、そこには奇妙なものが見えた。
「あれ?」
背の低いオレンジ色の杉の木が風に揺れている。
よく見るとそれはもぞもぞと動いているようで、ゆっくりとだが自分で歩いているようだった。
(もしかしてペコロスかな)
リュウはこの数年で、かつての仲間のたまねぎが成長したのだと思った。
(たまねぎって育つと木になるんだ)
そんなことを考えながら近くまで行くと、彼は顔をしかめた。
臭いの元がソレだと気付くには近付き過ぎた。迂闊である。
杉の木は動く度に花粉らしきものを零しており、来客を察すると足早に向かって来るではないか。
こわい!
「キャー!来たー!」
「パダーマ!」
「え!?」
悲鳴を上げるニーナと咄嗟に魔法を放つティーポ。
「わっわっわっ!」
杉の木は驚くと、着火されたまま辺りを動き回る。
「うっ煙が目に染みる!」
刺激物でも入っているのか、うろつくソレから上がる煙に、みんなは咳き込み、涙を流す。
「ちょっとー、いきなり何するのよー!」
「やかましい!自分の胸に聞いて見ろ!」
しばらくすると、焼けた杉の木の枝葉、もとい髪の毛がボロボロと崩れ去る。
毛が絡まっていたのか、ハニーが地面に落っこちた。
「あっハニーだ。ていうことは、もしかして」
「もー、ティーポったら大袈裟なのよね」
焼け残った部分は縮れて、さながらサスカッチとか毛羽毛現みたいな様相の彼女が、間の抜けた声で抗議する。
そう、モモである。
「お前、この前体洗ったのいつだ」
「ええ?まだ年末まで時間があると思ったんだけど」
「わーーーー!」
レイの問い掛けに対して、恐ろしい返事をするモモにティーポが発狂した。
「ニーナ!手伝ってくれ!」
「えっちょちょっと!」
「はーいモモさんキレイキレイしましょうね」
怒りで赤くなった頭を一瞬で青くすると、ティーポはニーナと共にモモを連れて出てい行ってしまった。
「え?モモなの?」
「ああ、しばらく帰って来ないから、待つしかあるまい」
遠い目をしてガーランドが言う。黙っていてもことが進むなら、そうしたほうがいいという処世術を見に付けつつある。
「ぷきっすー」
「あ!ペコロス久しぶり!」
入れ替わりにどこからかペコロスがやって来た。結構大きくなっているが、それ以外は何も変化がない。
「ボクのこと覚えてるかな?」
「ぷきゅ」
「そっかー!」
リュウは何故かペコロスとは言葉が通じる。
「ねえレイ兄ちゃん、ティーポたちは何しに行ったの?」
「簡単に言うと、モモを洗いに行ったんだ」
一足早く再会を済ませてから待つことしばし。
「やっほーお待たせー!」
昔と変わらない姿のモモが帰って来た。後ろにはゲッソリしたティーポとニーナがいる。
「モモ、久しぶり。ボクが誰だか分かる?」
「……?」
「リュウだよ、リュウ」
「はあ、リュウ、さん」
全く思い出せていない。生返事とふわっとした相槌に、その場の全員が凍り付く。
「ほら、昔一緒に旅してた、ドラゴンになった!」
「ドラゴン……あったわねーそんなこと。あの時はリュウが海に行って、そう、リュウが……」
そこまで言ってモモはハッとなって目の前の青年を見た。
「リュウじゃなーい、久しぶりー、元気してたー?」
「ああうん。元気だよ」
「背も伸びたわねー」
「うん、思い出してくれよかったよ」
くるりと振り返るモモ。走って来るニーナとティーポ。
「じゃあ私まだ仕事あるからってああん!」
そのままぶつかるニーナとティーポ。
「お前それはないだろ!」
「もうちょっと、もうちょっとこう、あるでしょ!」
「ええ~ちゃんと挨拶したじゃない」
あまりにもリアクションがしょっぱいことに、二人は顔面からパドラーマを噴き出しそうな勢いだった。
「まあまあ、急に押し掛けたんだし、モモも忙しいみたいだし」
リュウが慌てて間に入る。
言ってることは正しいが、主人公なんだからもう少し大事にしてもらってもバチは当たらない。
「そうよー。こう見えても潰れかけのプラントを支える美人若手所長代理なんだからー」
自己評価がやたらと高い。
「潰れかけって、マジか!?」
「機械浜にも部品は来てないし、ほぼ確実ね」
しれっと重大なことを言うモモにレイが驚く。
空気なんか読まないから反応に困ることもポンポン出る。
「ペレット所長が失踪しちゃってね、強化作物用の機械の調整や修理は、全部私がやってるの。だましだましももう限界ね」
旧交を温めたかったのに、この兎はからっ風が吹くようなことばっかり言って来る。
「そろそろ火とか煙が吹きそうだから、こっちも目が離せないのよー」
そしてそんなフラグみたいなことまで言うから。
――うわっなんだなんだ!?
――地面から煙が、ごほっごほ。
――機械の異常か、所長代理を呼べ!
「……私のせいじゃないわよ?」
「言ってる場合か!リュウ、ティーポ、その辺の小屋の窓を割れ!」
『おう!』
みんなして石を投げ込んで温室のガスを外へ逃がす。
「ぷきっき、ぷいー!」
「事務所のかまどからも煙が?」
「それなら、久しぶりにこれの出番ね、ええーい」
奥の建物の内部、煙を吐き出すかまどにモモのバズーカが炸裂した。
吹っ飛ぶ蓋、吐き出される煙が止んだ後には、地下へと続くハシゴ。
「なんか見るからに怪しいのが出て来たな」
「どうするんだ、モモ」
「え、私が決めるの?」
「だって今はモモが一番偉いんでしょ」
「あーそういえばそうだったわー」
モモは面倒臭そうにハシゴを見る。
「まあ、様子だけ見にいこっか」
モモは両手を軽く上げると、やれやれといった風に呟いた。